第3話「右手の真実(仮)」
俺、ふしま。太ったしまの猫だから「ふしま」と呼ばれている。
現在、
今日は天気がいいので近くの土手で昼寝をしている。
草の上は気持ちいい。多少ノミがついてもこれだけはやめられない。
そういえば先月うっかりガレージに敷かれていたカーペットにノミを落として、
しばらくしてパパさんが上に荷物を置いた瞬間、繁殖したノミが波打つように
一斉に動き出してパパさんは大パニックになっていた。
なんでも、その叫び声はガレージから隣家にまで響き渡ったそうで、
俺はパパさんは今日も元気だなあと思ったよ。
「おや、ふしまじゃないか。元気してるかい?」
みれば、土手の上で
獣医の先生で、俺もたまにお世話になっている。
「んー、どうだい?ああ、まだ肥満だねえ。
ちゃんと餌を減らすように原導さんには入っているんだけどなあ。」
そう言いながらも、二胡先生は俺を丁寧に抱き上げると、
お腹のあたりをタプタプさわる。
「お、そうだ。試供品なんだけどダイエット用のキャットフードがあるんだ。
お昼も近いし…ふしまくん、食べてみるかい?」
正直、ダイエットするのは嫌いじゃない。
俺は「にゃあ」と返事をした。
二胡先生は俺を自転車のカゴに入れて病院まで連れて行ってくれた。
「二胡ペットクリニック」と書かれた看板には
二本足で立ちながら口から火を吐く黒いとかげの絵が描かれている。
「ああ…いつかこんな怪獣来てくれないかなあ。
町を破壊している最中に診察してみたいもんだ。」
これは二胡先生の口癖である。
俺は自転車から降ろされ二胡先生の持ってきてくれたカリカリを食べてみる。
…ちょっと薄味、でもうまい。サクサクだから必然的に噛む回数が増えてくる。
「うん、噛む回数が多いほど満腹感も感じやすいんだ。
少量でもお腹いっぱいになるからダイエットには最適なんだよ。」
そう言って、二胡先生は俺の頭を撫でる。
確かに、結構お腹いっぱいになる。同時になんだか眠くなる。
そして俺は餌の皿に顔を突っ込んだまま眠り…
…気がつけば、俺はライトの当たる手術台の上に乗せられていた。
二胡先生が白衣を着て立っている。
俺は裏返しにされ猫の開き状態。おまけに体も動かない。
これじゃあ去勢手術以来だ!
「ふむ、起きたようだね。ふしまくん。私も嬉しい限りだよ。」
なんだ?なんの話だ。その時、俺は気がつく。
開き状態の俺の右足の肉球。そこからキラキラと光る物質が出ている。
「…五年前、日本航空宇宙局が南極に落ちた隕鉄を調べた結果、
なんと猫の細胞を強化させることがわかったんだ。
顕著になったのは肉球部分。四日前に君が隕石を壊した
あのビームも去勢と一緒に行った手術によるものなんだよ。」
な、なんだってー!
「なあに、大丈夫。君はこれから日本航空宇宙局に行くんだ。
ビーム猫として丁重に飼われることになる。美味しいご飯も食べれるぞ。」
手術室のドアがバンと開き、黒服の男たちが入ってくる。
手には俺を入れるためのケージが抱えられている。
「さあ、観念するんだふしまくん。」
俺はゆらりと後ろ足二本で立ち上がり、二胡先生は明らかに動揺した。
「な、なぜだ。確かに麻酔は効いていたはずなのに。
…まさか、薬への耐性も強化されたというのか!?」
その瞬間、俺の右手からビームが放たれた。
光の線は手術台を焼き切り天井に穴を穿ち、黒服の男たちは逃げ惑う。
「す、すまなかった。ふしまくん。だが、君は間違っているぞ。
自分の持っている能力を活用しないなんてもったいない。
このままではもったいないお化けが行列で君のうちへやってくるぞ。」
燃えかすのボロボロになりながら二胡先生は必死に俺に話しかける。
だが、もったいないかは俺が決めることだ。
そういう意味で俺は先生に一言「にゃあ」と答えた。
…
「にゃあ」といったところで俺は目を覚ました。
春風のそよぐ土手。草の匂いが鼻をくすぐる。
ふと自転車をこぐ音がして振り返れば、
二胡先生がカゴに怪獣のぬいぐるみを入れて自転車を漕いでいる。
そして、俺を見つけると嬉しそうに声をかけた。
「おや、ふしまじゃないか。元気だね。」
俺は素直に「にゃあ」と鳴く。
「うーん、ぽて腹は健在か…本当はカリカリの試供品があるんだけど、
『決戦・大怪獣ショー』をデパートで観に行かなきゃいけないからね。」
そうして、二胡先生はお詫び代わりに俺の頭を撫でると、
怪獣映画のテーマソングを鼻歌で歌いながら自転車で去っていった。
俺は先ほどの夢のことを思い出し、右手の肉球を見る。
そうだ、右手からビームが出るなんてありえないものだ。
きっと先日のことも夢だったんだろう。
俺は何気なしに土手を降りると二本足で立ち上がり、右手をかざす。
ジュッ
そんな音がしたかもしれない。見れば川から魚が上がってきた。
腹に丸い穴の空いたホカホカのブラックバス。
俺は前足でちょいちょいと魚を引き寄せ、肉にかぶりつく。
うん、うまい。中までしっかり火が通っている。
身のホクホク感がたまらない。
そうして、頭から尻尾まで骨だけになった魚を地面に残し、
ペロリと口元を舐めた俺は思った。
…おい、まだビーム出るじゃん、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます