第372話 結果発表!
攻撃力増強を水晶に付与した。
次は火属性を付与する。私が選んだ宝石は、カーネリアン。武器には相応しい宝石なのだ。
今回の付与の計画は、こうだ。
武器に攻撃力増強と火属性を入れると、魔法付与した武器を使ったことがない人には、どうやら扱いにくいらしい。特に火の強さ調整に手間取るとか。
ならば攻撃力増強をメインにして、火属性は魔力の操作が苦手な人でも使い勝手がいいようにすればいいのだ。
どの属性にも適していて汎用性はあるが、浄化以外に得意がない、水晶。
火属性と相性が良く、武器に使うのに相応しいカーネリアン。
この二つを組み合わせれば、攻撃力が強くて、火はほどほどの武器になるはず。
「炭の
カーネリアンがオレンジ色にじんわりと輝く。
付与を終えた二つの宝石を箱に入れて、蓋を閉める。番号の札を忘れずに取り出して。札にはCと書かれていた。
係りの人に箱を渡せば終了。ティルザは先に終わって、私は二番目だった。
全員の魔法付与が終われば、ついに審査員が試し切りをする。見物人の目当ての一つはこれだ。
作業室が撤去されて、代わりに長いテーブルが置かれた。そこに付与した石の入った、五つの箱が並ぶ。審査員の五人が出てきて、最後に石を嵌める剣が丁重に運ばれてきた。
魔導師ハンネスの立ち会いの元、最初の宝石が嵌められる。
私達は貴賓室の近くで見守る。警備の都合上、ここがいいそうだ。地獄の王がいて、しかも関係者のスペースには更に、王が一人と四大天使が一人いる。現時点でここよりも安全で、それでいて危険な場所は地上に存在しないだろう。
レオンがまず剣を手に取り、切っ先を空に向けた。
「んー、んぅう~!」
腕に力を入れて、唸っている。上手く発動させられないのね。
「力んでも発動しないよ、僕に貸して」
Bランク冒険者のリエトが受け取って、両手で柄を握る。ほんの数秒で、剣は間に朱色の炎に包まれた。
「おおお~!」
「かっけー、剣から火が出たぜ!」
観客が沸き上がる。男の子が興奮して指差していた。攻撃力を増すだけと違って、火や氷は視覚的に効果が確認できるので、見る方も盛り上がるわね。
「発動が早いし、安定しているな」
片手で魔力を供給し続けて、火の燃え具合を確かめている。火は同じ濃さで剣の周りに留まっていた。
「次は切れ味ですね」
審査員の一人の、道具屋の男性がリエトに話し掛ける。
近くには、試し切り用の布を巻いたものが用意されていた。一番手はリエトだ。
「では……!」
彼が普段使っている武器は槍だけど、剣や他の武器も練習をしてあるので、剣を振る姿が様になっている。
戦っていて武器が壊れた場合は倒した敵から奪って使うし、武器の修繕中に戦闘になるかも知れない。なので、冒険者や兵士は、武器を問わず戦えるよう訓練する人もいるのだとか。勿論、一つの武器を極める人も多い。
目標物が真っ二つに分かれ、上下に黒い焦げ跡が残る。まだ小さな火はくすぶっていたが、やがて自然に消えるだろう。
「切れ味、炎の出力、申し分ないですわね!」
自称ライバルのグローリアが腕を組んで頷いている。使った人の感想が、まず欲しいんですが。
「そうだね。反動も少ないし、とても使いやすい。これなら買いたいと思う品だね」
リエトは剣をレオンに渡して、審査用紙に講評を書き始めた。
見本を示してもらえたからか、今度はレオンも火属性を発動させられたよ。
武器の扱いに慣れていないグローリアは、昨日は上手く目標物を切れなかったりしたけど、この剣では綺麗に切断できていた。
五人が終わったら、次の宝石と交換だ。少し馴染ませて、再び審査が行われる。観客は更に増え、騒がしくなってきた。
貴賓室からは「ふはははは」と、耳慣れた笑い声が届いた。どうやら気に入ったワインがあったみたい。本当に自由にしているわね、ベリアルは。
次の宝石は火の威力も切れ味も、明らかに最初のものよりも劣っていたが、使い勝手は良さそうだった。最初のが良すぎたのね、比べなければかなり立派だと思う。
さて、ついに私の宝石が入る番だ。
どんな反応があるのか、ドキドキするわ。
一番手はやはりリエト。剣を持って、魔力を籠める。
小さな火から、ぶわっと大きな火に変わる。最初から強く出過ぎないように調整したのだ。
「これはなかなか威力が強いね」
「うわ、ちょっと強すぎるかな」
ある程度は強い方がいいと思ったけど、まだ扱いにくかったかしら。初心者向けって難しいわね。
続いて試し切り。宝石を入れ替えている間に、目標物が新しいものと交換されている。
目標物は楽々と切られた。切れ味が凄いと、とても好評だわ。
でも何故か、皆が終わった後に自分の手を眺めている。どうしたのかしら。
今度はグローリアの番になり、慣れない手つきで剣を持った。
「は~、さすがに疲れたわ。もう切れなくてもいい……」
本当にマイペースね! 適当に剣を振り上げ、片手で適当に振り下ろす。
剣は目標物を通り抜けたところで止まった。
「ええっ、切れたわ!?? コワッ、コワ~!! ほとんど手に反動もないんだけど!!!」
「ホント? わ~楽しみ!」
エンゼルトランペットという、レオン達と同じDランク冒険者の女性が興味津々に剣を受け取る。そしてまだ使われていない目標物の前に構えた。
「いくよ~、エイッ……い?」
目標物は綺麗に切断され、上半分が地面に落ちる。切断面からじわじわと燃えていた。
「えええ、本当に反動がなすぎて怖い! しかもこれ……切断したトコ、溶けてない……???」
「え、本当だ……! こんな風になる? しかも最初に切ったの、まだじわじわ燃えてますよ……」
いきなり火が強いと困るというので、長く残るようにしてあるから当然と言えば当然。最初に切ったものは、切断した部分から半分くらいが黒い灰になっていた。
「呪い……? 呪われてない、これ……?」
審査員の一人である、魔法アイテムのお店の店員が私の付与したカーネリアンをマジマジと眺める。他のメンバーも集まった。
「呪いという印象はないね」
リエトが即座に否定してくれる。
「ちょっと失礼。……問題はないようだけど……、どう思う、キメジェス」
公爵閣下お抱えの魔導師ハンネスが確認にきた。侯爵級悪魔のキメジェスも覗き込む。
「呪いはない。こういう付与なのだろう」
キメジェスはこれだけ告げて、元の位置へ戻った。
関係者席では、ルシフェルとラファエルが笑っている。あの二人、笑いのツボが一緒なのかしらね……。
ベリアルは「そなたの仕業であろう」という目で、機嫌良さそうにこちらを見ていた。なんか悔しい、どうして呪い付きだと勘違いされたのかしら。
今度はDの魔法付与の審査だ。
火属性は速やかに発動し、火が濃い赤から黄色っぽく、色が変化する。
「急激に魔力を籠めても、温度の低い炎から始まるようにしてあるのか」
魔力を籠めたレオンの隣で、職人が関心したように眺めている。
「レオンも大分、扱い慣れたね。貸して~」
レオンが試し切りを終えると、女性剣士が受け取り魔力を籠めた。
火属性はある程度一定の出力を保った方がいいのかと考えていたが、この魔法付与は最初は弱いものの、流された魔力が一定を超えると、魔力への反応がとても良くなる。少しの変化で強くなったり、弱まったりしている。
終わりも速やかで、これはかなり魔法付与に熟達した人だわ。
切れ味も申し分なく、審査員の感触は良さそう。
ついに最後の宝石になった。
魔法アイテムのお店の男性店主が、火を出したり消したりする。
「これもいいね、火属性の付与に長けた人かな? ちょっと最初から勢いが強いけど、安定しているよ!」
「この中で一番を選ぶって、難しいですね」
試し切りも終えたレオンは、審査用紙に感想を書き入れながら苦笑いしている。
「コレ! と思ったのにすればいいんですわ! とりゃっ!」
グローリアがお店の男性から剣を受け取り、掛け声と共に火属性を発動させた。いきなり魔力を籠めすぎて、ゴウッと音を立てて火が踊る。あまりの勢いに思わずのけ反る周囲を横目に、グローリアはすぐに火を操っていた。
さすがにアイテム職人なので、彼女も扱いが上手だわ。切る方は苦手で、フラついたりしているけれど。
全員の審査が終了。
休憩を挟み、結果発表は午後になる。審議は審査員の五人と、魔導師ハンネスとモレラート女史で行う。
昼食の間もソワソワするわね。セビリノは相変わらず、落ち着いたいつもの表情だ。この神経が羨ましい。
「結果は気にならないの?」
思わず質問すると、意外だというような目を向けられた。
「気になりますが」
「全然、気にしている表情に見えないわよ!?」
「師匠の優勝を信じているからでしょう」
そこは疑おう!!!
モレラート女史が指摘した通り、重いわね、やっぱり……。
さて、ついに結果発表になった。
多くの人が見守っている。ビナールも来ているし、ビナールの商売仲間のアランも一緒にいる。商店の関係者なども多いよ。
「えー、今回は予想以上にレベルの高い戦いになったね。入賞しなくても腕が悪いわけじゃないから、安心しな。全員素晴らしかった」
作業室の置かれていた中央付近にモレラート女史が立ち、挨拶から始まった。全員が今か今かと、結果を待ち構えている。
「……うっかり話が長くなるところだったね、講評は後にしてさっさと結果を伝えるよ。一位と二位、それから特別賞を選んだからね。まず、二位。Dの作品だ。とにかく火が扱いやすく、強さ調節の工夫が秀逸だった。誰だい?」
「やったー、私です!!!」
手を挙げたのは、ティルザだった。跳び跳ねそうな勢いで、モレラート女史の前まで進む。会場中からの拍手と歓声を浴びていた。
「栄えある一位はA。全体的にレベルが高く、威力も使いやすさも抜群だったね」
「は……? 私ですが……」
セビリノだわ。なんか変な顔をして、戸惑いつつ前に出る。一位だから蛇の魔核が手に入るよ。分けてもらおうっと。
「特別賞は、C。とにかく切れ味が抜群だったけど、初心者にはかえって使いにくいだろ。まあ、強さは一番だね」
「あ、私です」
良かった。もし何ももらえなかったら、セビリノにどんな反応をされたことやら。
「なんだい、一位も特別賞も覇気がないねえ! もっと素直に喜びな!!!」
「わ、わーい!??」
入賞したのに怒られた!??
とりあえず歓声を上げてみたよ。これで良かったのかな? セビリノを見ると、呼ばれなかった自称天才のカミーユと同じ、呆然とした表情になっていた。
確かに微妙だわ。いいのかコレ。
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