第247話 お祭り編、終了!

 アルベルティナ達に続いて、近くにある警備隊の建物へと入った。

 すぐに男性が持ち物検査をされている。

 すると、懐から液体の入ったビンが出てきた。これをワインに混入したのね。

「これは何ですか。何が目的!?」

 アルベルティナがキツい口調で尋ねるが、男性は口をつぐんでいる。

 男性はアルベルティナや警備の人達と近くの部屋に入り、私達は隣の部屋へ案内された。警備の人は、こちらへも何人かやって来た。

 色々と質問されるけど、狙われていた女性は心当たりがない、犯人にも見覚えがないと困惑気味だ。それでも彼女が狙われたのは、確かだ。


 犯人は、頼まれて渡された薬だから、どんなものかは知らないの一点張り。

 しばらくしても進展がない。どこかの家の使用人のようだけど、それすらも教えようとしない。こんなことをさせようとした相手なのに、主人を裏切れないのね……。

「どうする、エクヴァル。私達はいてもしょうがないよね」

「まあねえ。巻き込まれただけだし。ただ、ベリアル殿が戻るのを待とうか」

「うん??」

 ベリアルはここに来るのかしら。私がいるのは、分かるはず。

 だったら少し待つか……。リニはエクヴァルの後ろに見え隠れしている。


「さっさとせんか!!!」

 外からベリアルの怒鳴り声がした。誰かと一緒なのかな?

 窓から覗くと、女性の悪魔と、男性がベリアルの前を歩かされていた。外にいた警備の人達が、敬礼をして通してくれている。そして取り調べをしている隣の部屋へ案内した。私達も警備の人達と相談して、様子を見に向かう。

「……旦那様」

 男性は、実行犯に命令をした主人だった。で、女悪魔は。

「ベリアル様、申し訳ありませんでした。お約束通り、全て白状させます!! さあ、早く洗いざらい喋って!」

「我が契約者に危害を及ぼそうとしたのである。ハボンディア、そなたの魔力を籠めた薬であったな。責任は全てそなたが負え」

 ベリアルの目が冷ややか。そうか、魔力で混入に気付いたんだ! そして悪魔の気配を追って、首謀者を探し出したわけか。

 ハボンディアは泣きそうで、男性は顔色を無くしている。アルベルティナに促されて椅子に座り、小声でぽつぽつと証言を始めた。


「……アレは惚れ薬です。あの方が好きで、それで」

「惚れ薬!? 私は結婚を控えているんですよ!??」

 女性が声を張り上げる。面通しするのに、廊下から知り合いかどうか、確かめていた。彼女の横に警備兵が付いてくれていて、部屋に入るのは怖いと断っていた。

「知っています……。もう、間に合わなくなると焦って……」

 毒じゃなかった。横恋慕した相手を奪おうとしたわけ!

 彼女は、男性に見覚えがある気はするけれど、あまり記憶にないと訴えている。どうやら男性が勝手に恋心を募らせ、アプローチできていなかったみたい。

「恋を実らせる秘薬の作り方を教えてくれる、悪魔の噂を耳にして……。藁にもすがる思いで召喚して、契約しました」


 ハボンディアは下位貴族で、小悪魔達から集めた上納金を集計し、上位貴族に渡している。しかしここで既定の額に足りないと、彼女が補てんすることになるのだ。なので、下位貴族も上納する為に契約を交わす。

 実は下位貴族と契約する時が、一番お金がかかることが多い。代わりに利害が一致するので、安全性は高い。もっと上になると、余裕があって趣味半分だったりするよ。ベリアルみたいに、ベリアルみたいに。

 テーブルに置かれた問題の薬は、悪魔の惚れ薬だったのか。ふむほむ。

「イリヤ。そなたはどうしたいかね?」

 ベリアルが私に水を向けた。判断を委ねるってことだろうか。

 私は気になることを、悪魔ハボンディアにぶつけてみた。

「これは、中和剤などは作れるのですか?」

「中和……そうですね、聖なる護符を身に着けて頂いたり……。緩和できると思いますが、完全に効果を消すのは時間も必要です」

 ふむ。弱められる。薬と考えると、ワインと一緒にした香りは、コリアンダーかしら。


「材料は普通のハーブや薬草などで?」

「はい。特別なものは使いません。呪文があるんです」

 ベリアルが機嫌悪そうに腕を組んでいるので、なんでも素直に教えてくれる。これはいいぞ。

「時間もそこまでかからないのですね」

「……あの、お作りになりたいのでしょうか?」

 おずおずと問い掛けるハボンディア。部屋にいる皆が、こちらに注目している。

「効果に興味がありまして。作った本人を好きになる薬、なるほど」

「……余計なことを考えておらんかね」


「まさか、魔法アイテム職人としての純然たる好奇心です。同性にも効果があるんでしょか」

「ふむ、私が飲んでみる手もありますな。しかしこのままでは、いささか不安があります。薄めればさらに効果が落ちるので?」

 ずっと黙って耳を傾けていたセビリノも、やはり関心があるらしい。そうなのよね。こういうのって、どこまでどういう効果があるか……試したい!

「うわああああ!!! 飲まないでください、僕が悪かったです! 本当にごめんなさいい~!!!」

 男性が顔を覆って腰を直角に曲げ、大声で必死に謝り続ける。かなり反省しているわ。

「君達の会話が不穏過ぎたね」

「薬に興味があるのって、アイテム職人なら当然でしょう」

 エクヴァルが苦笑い。この辺りはどうしても、セビリノとしか分かり合えないのよね。

「そなたはもう黙っておれ!!!」


 何故か私までベリアルに怒られた。質問タイムを貰ったハズなのに。

 結局これで解散して、あとはフェン公国で裁いてくれる。

 ベリアルが暴れないか心配だったけれど、なんだか毒気が抜かれたようだ。

 悪魔ハボンディアは地獄にお帰り頂く。仕事だったわけだし、未遂だし。今回はお咎めなし、ということになった。一件落着。

 それにしても余計な問題に時間を取られたな。とはいえ、ちょっと楽しかった。

 女性とはここでお別れして、会場ではなく迎賓館の部屋に戻ることにした。別れ際に巻き込んでしまってごめんなさいと、丁寧に謝っていた。


 迎賓館に移動する途中で、ピシッとした護衛や立派なお供を連れた年配の女性が、ゆっくりとした足取りで反対側から歩いている。手にしている細い白い杖は上の部分が六角形になっていて、羽根のような飾りがついている。ちりばめられた宝石は、日を浴びて輝きを放つ。これは魔法関係のものではないような。

 一行は私達の前で立ち止まった。

「この度はお見苦しいところをお見せしました」

「大公殿下!」

 アルベルティナが礼を執ってから背筋を正す。フェン公国の大公って、女性だったの!


 私の前にエクヴァルが出て、胸に手を当てて頭を下げる。私もしっかりとお辞儀をした。

「お招きにあずかり、心より御礼申し上げます。お気遣いは不要です、楽しいサプライズでした」

「ええ、興味深い薬でございました」

「地獄の王を退けて頂いた功績は、何を以ってしても報いきれぬものでしょう。いつでも歓迎いたします。またフェン公国にいらしてくださいね」

 私達の返答に、大公は笑顔で答えた。

「もったいないお言葉です」

 落ち着いていて優しそうな雰囲気なのに、威厳のある女性だ。さすが大公。

「今年の収穫祭も、もう終わりです。快適に過ごされますよう。望みがありましたら、アルベルティナに申し付けてください」

 望み。大公はそれだけ告げて、歩きだした。お付きの人達も静かに付き従う。


「あ。お祭り期間は王都の周辺において、飛行禁止だと伺っております。しかし非常に混雑しておりますので、可能でしたら飛行で移動するご許可を、くださいませんでしょうか……」

 思ったより移動に時間がかかりそうなので、試しにお願いしてみた。大公はゆっくりと振り向き、変わらない笑顔で頷く。

「そのように取り計らいましょう。各所に連絡を」

「はい」

 控えていた一人が返事をして、サッと離れる。やったね、頼んでみるものだな。決断も早くて助かるわ。一行はそのまま通り過ぎた。

 見送ってから、私も再び部屋へと歩き始めた。


「途中で国の一番偉い人に会うような、偶然もあるのねえ」

「ないから。問題が発生したから、急きょ移動途中で少し会話ができるように、調整してくれたんだからね」

 私の呟きを、エクヴァルが訂正してくる。

「そうなの。お祭りで各国から人が集まっているし、忙しいのね」

「警備の都合もあるしね」

 わざわざ合間を縫って、会いに来てくれていたとは。もっと感謝を伝えれば良かった。見えなくなった大公の後ろ姿を、もう一度振り返った。

「イリヤさん。大公殿下にお願いしたいことが思いついたら、私に伝えてね。エクヴァル様も何かございましたら、何なりと仰ってください」

 アルベルティナはそう言ってくれるけど、今のところ特にないかな。欲しかったガオケレナも手に入るし。


 ガオケレナの他にもお土産に高価なワインを貰い、あとは帰るだけ。

 祭りの最後を飾るように、夜になると光や火の魔法を空に向かって放ち、キレイなラインが幾つも流れた。空へ上る光の滝みたい。拍手と歓声が響いている。

 色々あったし、ずっと護衛付きだったけど、たっぷり遊んだな。

 エグドアルムに行く前に、しっかり仕事しないとね。トカゲが家に届くのが楽しみ。でも生き血を使うんだった……、どうやって処理しよう。

 考えるのは後でいいや!


 ついにフェン公国を発つ日。ワイバーンを迎賓館の隣まで呼ばせてもらえた。

 気づいた人達が、こちらを眺めている。私達は空を飛んで出発だ!

 城のバルコニーからは、こちらを見上げる人影が。

「大公殿下だわ。手を振っても分からないかな、ごあいさつしたかったなあ」

「じゃあ代わりに行ってくるよ。キュイ」

 エクヴァルが合図をするとワイバーンのキュイが大きく旋回して、城の上空をゆっくりと一周した。

「キュイイイイッ!」

 キュイの挨拶だな、可愛いなあ。上手にできたと褒めるように、リニが背を撫でてあげている。


 目指すはチェンカスラーの自宅!

 それにしても、空を飛ぶには寒い季節になったわ。エグドアルムへ行く前に、厚手のコートでも買っておこうかな。あっちはもっと寒いのよね。



★★★★★★★★★★★★


この章はここで終わりです。チェンカスラーに帰ります!

巻き込まれたイリヤが怒られて終わりました。

ベリアル殿は「どう処罰したいか」を尋ねていて、質問タイムではありません(笑)

惚れ薬の男性がやたら謝ったのは、好きな女性に飲ませたい薬を男性のセビリノ君が飲もうとしたからです。とても怖かったそうな。

悪魔ハボンディアは、黒魔術的なおまじないに出てくる名前です。

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