第174話 魔法会議です!

 今日は楽しい魔法会議の日!

 どんな話題がのぼるのか、ドキドキする。セビリノもすごく楽しそうにしてて、エクヴァルは無言で大丈夫だよねって、圧力をかけて来ている。ベリアルがニヤリとこちらを見るのは、私が失敗するのを楽しみにしているんじゃないだろうか。そんな事で楽しい思いは、させませんよ!


 会議の会場は前回と同じ建物の、前回より広い集会室だった。ベリアルに特等席が用意されていて、クローセルは隣で嬉しそうにはべっている。飲み物が用意され、資料が全員に配布された。さあ、そろそろ始まるよ。

 まずは前回と同じ商業ギルド長の挨拶。

「皆さん、遠路はるばるお集まりいただき、ありがとうございます! 今回はなんと四カ国による魔法会議と相成りました。ちょうどチェンカスラーに滞在していたエグドアルムの方にまで参加を承諾して下さり、感謝に耐えません」

 セビリノはノルサーヌス帝国でも有名みたいで、静かに座っている彼に視線が集まっている。会食会の時はフルーツ合戦になって盛り上がっちゃったからね、改めてセビリノが居ることを実感している感じ。

 エーディットの同僚の王宮魔導師、シュテファン・モンタニエも、セビリノのファンなのかしら。ニコニコしながら眺めてる。見向きもしなかった私への反応と、全然違う!


 最初に発表をするのは主催のノルサーヌス帝国で、回復アイテムに使う薬草の、代替品の研究をした成果を披露している。エグドアルムでも大分調べられていたけど、他国の研究なんて知る機会がないものね。メモメモ。

 次がチェンカスラー王国。バラハがちゃっかりと、風を纏って敵に突っ込むシャール・タンペートの効果を高めると、発雷することを公表してる。私が教えたことを聞いても、私は面白くない。続いて行ったエーディット達は魔法の追加詠唱についてだったけれど、知っている内容だった。

 それからフェン公国。こちらは防御魔法について。細かい実験の検証結果を公開してもらえたので、なかなか良かった。


 最後がエグドアルム。

 プレゼンテーションは、セビリノにやってもらう事にした。なんせ魔導書を執筆しているから知名度があるし、堂々としていてザ・魔導師って印象なんだもの。

 彼が立ち上がると、どの国の代表達よりも背が高い。発表する為に用意されたテーブルに資料を置いて、おもむろに話し始める。

「では我々の発表に入らせてもらう。火の属性に回復魔法がない事はご存知だと思う。我が師と共に考案したので、それを精査して頂きたい」

「火の……回復魔法!?」

 ざわざわとして顔を見合わせている。現在、全属性の内で火属性だけが、回復魔法がないのだ。みんな作れないっていう認識だったんだから、困惑して当然だよね。


「チェンカスラーで作成したので、全て手書きになってしまっているが、まずはお手元の資料をご覧頂こう」

 資料に詠唱と効果、それから簡単な注意事項が書かれている。みんなバサッと勢いよく捲って、詠唱を一文字ずつじっと見ている。


『天にあっては太陽、中空にあっては稲妻、地にあっては祭火。世界に遍在する思想の火よ、祭壇の門を開け。願いは煙になりて昇らん。生命よ火花を散らし、華やいで燃えよ。辛苦の茨より解放したまえ。フー・ド・ジョワ・オテル』


「これで回復と、成功すれば毒を消す効果もあるだろう」

「その、アーレンス殿がお考えになったので?」

 恐る恐る質問してくるのは、チェンカスラーのモンタニエ。

「いや、我が師匠の発想から導き出されたのです」

 おおお、と歓声が上がった。セビリノはチラリとこちらを見ている。

 発想って言うか、単に火属性は回復がなくて寂しいから作っちゃおうよ、くらいなノリだったと思う。悩んだり実際に唱えたりしてもなかなか上手くいかなくて、時間を置いて考え直したりと、苦心した作品だ。


「まさかこんな高度な魔法の発表があるとは……!」

 フェン公国の魔法防衛隊の隊長が、興奮して資料を両手で握っている。

「アーレンス様、これは魔導書として発売されるものでは? 今この場で公開されてしまって、宜しいんですか?」

 今度はチェンカスラーのエーディットだ。心配してくれるのね。

「構わない。出来れば実際に使用して頂き、感想を送ってほしい。魔導書に纏める為の参考にしたい」

「なるほど、さっすがアーレンス様! イリヤ先生と、信頼されている一番弟子であるアーレンス様の共同開発の魔法なんて、素晴らしい! ぜひ使用させてもらって、レポートを送りますね!」

 バラハは相変わらず調子がいいんだから。さっきの発表を怒られないように、ここで持ち上げているんじゃないかしら。そんなことくらいで誤魔化せないよと言いたいところだけど、セビリノは嬉しそうに口角が上がっている。

「さすが魔法大国エグドアルム。アーレンス様という方は、すごい魔導師ですね。魔導書に纏めると言う事は、魔導書も執筆されている方では」

 アルベルティナはやっぱり、セビリノを知らなかったみたい。魔法防衛隊の隊長と、彼の魔導書を魔導書店で取り扱うべきじゃないかと、こっそり話し合っている。


 新魔法の発表で盛り上がっている最中に、ドンドンと扉を乱暴にノックする音がして、兵が息を切らして入って来た。サッと頭を下げ、すぐに口を開く。

「報告します! 帝国領内の上空にドラゴンが二体、現れました。なぜか二体は交戦状態で、現在こちらに向けて戦いながら移動してきております。我が国への被害は今の所、確認されておりません」

「各国の代表が集まっている、こんな時に!? 守備の状況はどうだ、魔法部隊は集まっているのか!?」

「まだ配備が完了しておりません。冒険者ギルドにも緊急の協力要請を出しました、すぐに迎撃の準備をいたします」

 ドラゴンが二体、ケンカしながらやって来る。なんでだろ。

 皆が顔を見合わせて、協力すべきかと話している。


「皆さま、ご協力頂ければ助かりますが、ドラゴンは上級と思われます。危険が」

「ほう! それは面白い、見物に行こうではないかね!」

 兵の発言を遮って、ベリアルが立ち上がった。

「閣下、では私はこちらの防衛に当たらせて頂きます」

 クローセルは残って町を守るのね。

「ベリアル殿が向かわれるなら、私も行きますね。クローセル先生、失礼します」

「イリヤ、閣下がご一緒ならば何もなかろうが、気を付けるのだぞい」

「はい!」

 ベリアルとクローセルが揃うと、子供の頃を思い出して懐かしい気持ちになるなあ。ベリアルは窓辺まで歩き、近くにいる人に窓を開けさせている。飛んで出る気なのね、廊下からより楽だから。


「師匠、私も参ります」

「……ワイバーンが町の外だ……」

 セビリノは行くけど、エクヴァルは無理だね。すごく悔しそう。でも上級のドラゴンにワイバーンで立ち向かうのは、ちょっと可哀想だよ。

 パタパタと出て行く私達を見送りつつ、各国の人達もどうすべきか相談していた。焦って悩んでるけど、こういう時は素早く行動を決定することも大事。万が一ドラゴンが地上に降りて暴れだしたら、被害は甚大になっちゃう。

 バラハがパンと一拍打って、注目を集めてから提案を始めた。

「えーと、じゃあそうだなあ。上級のドラゴンって事だし、手伝いに行くなら自己責任で。怪我をしても命を落としても、ノルサーヌス帝国に責任を求めないって事にしよう」

「……そうね。怪我をしない保証は出来ないでしょう。私は残ります、防御魔法が使えるから、万が一に備えましょう」


 エーディットが頷いて答え、クリスティンがノルサーヌス帝国の一員として、頭を下げた。

「ありがとうございます。スーフル・ディフェンスなど、防御にご協力下さる方は外に出て下さい。討伐への助力はありがたいですが、申し訳ありませんが自己責任という事にさせて頂きます。その他の方はこの場を動かないようお願いします」

 意外と頼りになりそう。

 窓から出る前に後ろを確認すると、バラハとアルベルティナと、フェン公国の魔法防衛隊の隊長もこっちに来た。ノルサーヌス帝国の男性と女性も一人ずつこちらに加わり、残りは防衛に当たる。


「イリヤ先生とベリアル殿が居る場所が、一番安全な気がするんだけどなあ」

 バラハはそういうつもりでドラゴンの方に来るの!? でも二体が戦ってるって、どういう状況なんだろう。ドラゴン同士の戦いって、あまり見た事がない。だからこそ面白そうなんだけど。

 外では人々が振り返ったりしながら右往左往している。建物の中に入れば平気、とは言えないし、何処に逃げたらいいのか解らないんだろう。兵達が分散して出ていて、会議が行われている建物の裏手に身振りを交えながら誘導していた。

 視線を空に向けると、下に広がる屋根たちの向こうに二体、蛇タイプのドラゴンの姿があった。ぶつかって離れたと思うと、黒い竜が襲い掛かり白い龍に噛みつく。


 一体は全身が黒くて手も足もない、黄色い目をした蛇のような大きな竜。

 もう一体は、真っ白い体の龍。尻尾は緑。手足と赤いヒゲはあるけど角はなく、怪我をしてあちこちから血が出ている。

「……白いがバイロンではないな。となると、チーロン・ワン。あの悪竜と戦うには、だいぶ分が悪いのではないかね」

「悪竜? あの黒い竜は、悪い竜なんですか?」

「日照りを起こす、ヴリトラであろう。性質の悪い竜よ」


 なるほど、アレがヴリトラ! では白い龍、チーロン・ワンを助ければいいのね。ベリアルもやる気みたい。両方狩るって言い出すと思ってた。

「これは良いな! ロンワンに恩を売れるではないか!!」

 ははーん、そう言う魂胆か。ロンワンって事はつまり龍王、四海龍王も束ねる龍神族の王に貸しを作りたいんだ。この白い龍も、ロンワンの配下なんだわ。

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