ミリオンPV御礼 序章の裏話(ベリアル視点)
「如何でしたか、ベリアル殿」
「うむ、アレがシーサーペントの訳がないわ。四海龍王が内、北海を司るアオシュンの配下の龍神族であろうな」
「……龍神族!それは討伐など、無謀な話ですね」
久々にイリヤからの召喚だと思えば、シーサーペント討伐の王命が下ったが、住民の目撃証言だけで判断してろくな準備期間もなく、不安があるから確認をして来てほしい、というものであった。
この地獄の王を斥候がわりにしようなどとは不届きであるが、我が契約者であるに何一つ相談してこなかったこの不埒者にしては、いい傾向であると言えよう。
しかしいくら何でも、シーサーペントと龍神族。勘違いも
「ちょうど良いではないか。このような事態を招いた者達など放って、さっさと国を出てしまえば良い。違う場所に行きたいと、泣いておったろうが」
「あ、アレはですね!!つい弱音が出たと言いますか……。一緒に討伐をする皆を見殺しにはできません!セビリノ殿や、みんなのおかげで頑張ってこられたんです!」
「……まあ良いわ。我ならば倒せる、と言いたい所であるが。四海龍王の側近を討ったとならば、龍神族と揉めることになりかねん」
「それは困りますね……」
どうやら泣いたことに羞恥を感じるようであるな。少しは成長したと言う事か。
だが、いくら我でも龍神族を理由もなく葬るわけにはいかぬ。
「……龍は、退けねばなりません。そして明後日の出陣は止められません。龍を引き付けておいて、負けたフリをして海に落ちてみるとか……。どこか離れた場所にあがって、そのまま出奔するとか……」
戦いを想定し、思案しつつ言葉を零す。
「……ふむ。面白そうな案であるな。そなたは防戦を意識して戦い、海に潜れば良い!その後の事は、我が話を付けておこうぞ!」
「ありがとうございます!プロテクションを使えば、しばらくは海水も防げるでしょう。皆を騙すのは心苦しいですが、このチャンスを逃がせません!」
どうやらかなりこの国から出たい理由があるようだが、口を割りそうにない。全くの頑固者である!この我にすがれば、解決せぬ事などないと言うに!
とはいえ、この龍神族を冷やかすような発想は、何とも愉快!!相変わらず、とんでもない小娘であるな!
我はイリヤと別れ、すぐさま北海を司る龍王アオシュンの宮殿を目指した。その龍のおる場所から離れておらんはずだ。
海中に入って探れば、僅かに龍と
門をくぐると、エイやヒラメなど、海の者が集まって来おった。水がなく空気のようであるが、魚共は泳ぐように飛んでおる。
「何者!?ここが四海龍王さまのお住まいと知ってか!?」
蟹が衛兵をしておるわ。侵入者を追い帰すにも、前には歩けぬのではないかね。
この海底の結界の中から、海上までは魔力が漏れはせぬであろう。我は魔力を開放し、地獄の王の来訪の証とした。
「そのアオシュン殿に用がある!我は地獄の王、ベリアル!!」
「じ、地獄の王がこのような海底に……?」
雑魚は恐れをなし、声を震わせる。
一歩足を踏み出すと、それに合わせたように後ずさりおる。
「失礼しました!ようこそ、お越し下さいました」
我の存在に気付いた宮殿の者が、走ってこちらへやって来た。恭しく頭を下げ、案内を買って出る。
「うむ」
重厚な扉を開き水晶の透明な柱の間を通り抜け、青い水の輝きを称える廊下の、空間を泳ぐ魚共とすれ違いながら進む。少し歩いた先にある、広い部屋へと通された。謁見室であろうか、彫刻や大きなテーブルがあり、周りには人間の姿の男が二人、女も二人。
真っ青な髪を上の方で結んでいる男が、四海龍王アオシュンであるな。身に纏っているのは足元まである、変わった青いローブのような衣装。腰の辺りから徐々に更に深い紺となり、鮮やかなグラデーションで、白や水色で描かれた模様がよく映える。
腰に剣を佩いた男は、護衛であるな。鉢がねを頭に巻き、手甲や胸当てなどをつけておる。女二人は側仕えであろう。
「わざわざこの海底の宮殿まで足を向けられるとは……、如何なるご用向きで?」
四海龍王は訊ねながら、我に椅子へ腰かけるよう促す。
我は深く座って足を組み、水の上を指で示してみせた。
「海に顔を出しておる龍の事である。そなたの眷族であるな?」
「アレは私の直属の配下、ケイガと申す者ですが…、よもや何かお気に障る事でも?」
「そうではない。二日後、人間どもが討伐にやって参る。どうやら、仇なすと
「そのような事態に…!ではあの者を呼び戻させます、契約者殿を傷つける事にならば、貴方様と対峙することになりましょうて……!」
早計にも
「待たれよ、話はまだこれからである。少々茶番に付き合ってもらいたいのだよ。」
「……茶番…と、言いますと?」
アオシュンは一先ず、飲み物を用意するよう告げた。
そして我の言葉に、じっくりと耳を傾けておる。
「我が契約者は、龍に敗れて海に落ち、死亡を装って国を
「遠慮かは知りませぬが、なるほど承りました。ケイガが契約者殿を倒したように見せかければ宜しいのですね」
「なかなか面白そうだと思わんかね?」
「ふふ……人間共も簡単に討伐などと、思い上がった愚考をいたさぬようになりましょう」
話はあっけない程、簡単にまとまった。
「宜しければ、何かお召し上がりになりませんか?」
「おお、良いな。いったん契約者に知らせに行かねばならぬが、二日もあるのだ、暇を持て余してしまう故な!」
「では宴会の支度と参りましょう!来客の少ない場所でありますれば、皆が歓喜いたします!」
「酒もあるのかね?」
「当然です、酒がなくて何が楽しみになりましょうか!」
このような海底に住んでいる故、気難しい御仁であるかと思っておったが、ずいぶんと物解りの良い男ではないか!どうやら退屈しているのはあちららしいな。計画を伝え、イリヤに返答を伝えに行く間に、持て成しの準備をすると言っておる。これは
イリヤは海辺の町に来ておった。
「交渉は成功であるぞ!予定通りに龍と戦い、海に落ちよ。その後の事は我に任せておけば良い。四海龍王アオシュン殿と話を付けてある、万が一もなかろうて!」
「本当ですか!ありがとうございます、では手筈通りに……!」
「うむ。そなたの分の膳も用意させて、待っておるわ」
「……膳…ですか?」
ぬ?何やら小娘の視線がおかしいぞ。四海龍王を説得する我の手腕に感動したかと思えば、今は遊んでるんじゃないでしょうね、と疑っておるようだ。接待も仕事の内であろうが。
「心配はいらぬ、ということである!!それよりも、人間どもには龍神族と知られぬ方が良いな。もし竜宮の場所を探られたならば、北海の龍王も黙ってはおらぬであろう。上位の海龍とでも思わせておけ」
「解りました。……とにかく、明後日ですね」
どうも扱いにくく育ちおって。いや、昔から好き放題する小娘であったわ。
作戦当日。
北海を司る四海龍王の配下、龍神族であるケイガと人間の討伐隊は予定通り接触し、戦闘に入る。
我は海底の竜宮にて、四海龍王アオシュンと共にその様子を水鏡を通して眺めておった。白銀に輝く水鏡には、蒼天の下で咆哮を上げる巨大な龍と、退治に繰り出した人間どものささやかな船が、くっきりとした映像で浮かんでおる。
「あ奴ら、アレをシーサーペントと勘違いして討伐に来おったのだよ。ほれ、慌てて逃げる算段をしておるわ」
「シーサーペントと?どのように間違えたら、そのような結論に達する……?人間とはいつの時代も愚かなもの!よくぞ
「全くである!」
お互いに笑いながら薄い青のグラデーションになっているカクテルをあおる。状況はあっという間に、人間どもの窮地となった。シーサーペントなどと錯誤しておったのだ、当然の帰結ではあるが。
「首尾よく他の人間と切り離し、契約者殿が一人となりましたな!そろそろ頃合いでしょう、迎えに参じましょう」
「うむ、いくら魔法に
ゆっくりと立ち上がり、海底の宮殿から海へと向かう。
水鏡には末端とは言え、龍神族であるケイガの攻撃を完全に防ぐイリヤが映っておった。
四海龍王の魔力で水を寄せぬようにしておる為、海の中も楽に移動ができる。これは良いな。我がするよりも圧力がかからぬ。
イリヤは予定通りに龍の尾に弾かれて海に落ち、さすがにプロテクションの壁も壊れる寸前であった。水が入り込むのは時間の問題であったが、アオシュンが魔力で壁を作って包み込み、勢いで海の深くへと沈みゆく所だった落下も緩やかとなる。
追いかけてきた龍も主である四海龍王の姿を確認し、立ちどまって波をかき乱していた魔力を引っ込める。
「ケイガ、ここまでだ。この方は竜宮の客、その
「……はい、龍王陛下」
龍は
「ふわ…、ベリアル殿。この壁は……?」
さすがのイリヤも、海中を陸地と同じように過ごせる、龍王の作ったこの壁が不思議らしい。
「四海龍王アオシュン殿の温情である。飛行魔法の要領で好きに動けよう」
「……はい、なるほど快適ですね。龍王陛下、ありがとうございます」
簡単な説明だけで巨大な泡のような壁の中でバランスを保って立ち、動く方向を定められるようになっておる。魔力操作もかなり訓練しておったようだ。
「さすがに地獄の王の契約者殿。慣れるまでの早い事。さ、まずは私の宮殿に案内致そう」
「王の…契約者!?」
ケイガがイリヤを振り返る。視線が合うと、小娘は不思議そうな表情をした。
「説明は、後程」
竜宮では二人の分の席も用意されており、宴会の続きとなった。
魚共が給仕をし、そばに人間の姿の龍神族も控えておる。
こちらの宴会では椅子ではなくクッションに座り、一人一人の目の前に膳が用意される。料理は魚や貝、海藻などの海の幸が中心。食事をしつつ二人に、四海龍王アオシュンと企てた今回の段取りを聞かせてやった。
「……つまり、討伐に向かって、私が死んだふりをする計画を龍王陛下にお伝えし、当のケイガ様には何も知らせていなかった、という事でしょうか……!!」
我の説明を聞き、イリヤが顔を引きつらせておる。
「臨場感が出たであろう?サプライズというものよ!」
「……ベリアル様。それでは何かあった場合、私の責任に……」
「ふははは!!我が契約者が、その程度の事でどうこうなるはずもなかろう!そもそも我は、四海龍王アオシュン殿と話を付けた、としか言っておらんぞ!」
「……そうでした。そう言う酷い方でしたよ、ベリアル殿は……」
どうやらイリヤは、ケイガなる龍にも知らせておいて、手加減をしてもらえると思っておったらしい。それでは面白味がないであろうが!我に加えて四海龍王もおるのだ、つまらぬ小細工などいらぬわ。
「いやはや、こっそりとケイガには知らせようとも考えたのだが……、愉快な計画だったので、つい言い損ねてしもうた!」
「ううう……、酔っ払い二人は危険すぎる……」
「龍王陛下は退屈しておいででしたからな…。嫌な計略に付き合わされたものだ……」
このように楽しい余興をもたらした二人が、何故か萎れておるわ!堂々としておれば良いものを。
「そういえば、その者は何故ずっと同じ場所に居ったのだね?」
ケイガなる龍を見ていて、不意に疑問が浮かんだ。龍王アオシュンは意地の悪い笑みを浮かべ、困惑するケイガを横目に口を開く。
「実はこの者、どうやら女性に一目惚れしたようで。捜し求めておりまして」
「海で、かね?人魚か何かかね?」
「それが、海を歩く女性だそうで。くるぶしまで伸びる長い青みがかった灰色の髪、背は女性にしては高く、凛として濃い海の魔力を纏った金の瞳の
「……っ陛下…!!!」
面白半分に暴露され、ケイガは頬を赤くしてアオシュンを睨んでおる。しかし、話に該当する者を知っておるが、こやつらは見た事がないのかね?
「思うに、ティアマトではないかね?女性であるに、我と同じほどには背が高かったろう?」
「ティアマト様…!?た、確かに竜かとも思う気配で……」
「ケイガ」
「残念であったな」
「「失恋確定だ」」
我らが同時に言うと、ケイガは赤かった顏を今度は白くしおった。項垂れて、酒をくれ……と、給仕にボソリと告げる。
なぜか給仕は鮭のムニエルを運んで来おった。食事を求められのだと思ったようである。
この後、大いに楽しい宴会を一晩中続け、次の日には竜宮を発った。アオシュンには惜しまれたものよ。
海底にこのような桃源郷があると早くに知っておれば、もっと頻繁に訪ねたものを!
★★★★★★★★★★★★
こぼれ話に載せようと思ってたんですが、内容的にこっちがいいかな、と。
もしかするとまた龍神族とか四海龍王関係も出すかも知れないなあ、というのもありまして。北海の龍王陛下は中国語読みがあったので、そちらの表記になっております。日本語では
龍をどうしようとか考えてなかったんですが、いい機会なのでちゃんと考えて話としてまとめてみました。
そんなわけで今更こんなタイミングで、裏話が入りました!
読んで下さっている皆様、ありがとうございます(´▽`*)
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