第126話 鉱山へお出掛け

 鉱山の町コングロモへ、お出かけする日。

 セビリノとエクヴァルは、昨日から仕事で出ている。

 私はベリアルとアンニカとシェミハザと一緒に、鉱山の町へと向かった。リニはお留守番。


 国賓である視察を二人、王宮の魔導師が案内してくるという話だ。その接待のお手伝いに行く。警護は固辞されたんだとか。なんでも、目立ちたくないから最低限の人数にするよう頼まれたらしい。


 町の入り口では短い茶色の髪の監督、ダニオが誰かもう一人と一緒に、待っていてくれた。

「今日はありがとうございます!鉱山でのミスリルの採掘から精錬を見たいそうなんです、それに関してはこちらの方が技術が上なんで」

「チェンカスラーは、良質な鉱石が採れるみたいですものね」


 実は理由は解っている。大地の気が濃く、良質なのだ。これは大陸を分断するこの山脈に関係ある。これは大地の気の通り道、龍脈と呼ばれるもの。大地の気とは、人間で言うところの魔力と言ったところかな。これが強く地表に現出するところ、即ち龍穴にはガオケレナの木が生える。気候だけの条件じゃないんだよね。だから収穫できる地域が極端に少ないの。エピアルティオンも大地の気が強い場所に群生するけど、ガオケレナほどは影響されない。


 大地の気、中空のマナ、宇宙のエーテル。

 代表的な自然界の魔力的存在。


「基本的に接待は王宮の方がして下さいますから、坑道内で私が説明する時の補助や、人夫との橋渡しなどをお願いします。人夫達は、どうしてもガサツなんでろくな返事もできないので……」

 どうやら練習しようとしたけど、恥ずかしがってしまって上手くいかなかったらしい。

 要するに監督の輔佐をする人間が欲しいと言ったところ。そのくらいなら問題なさそうね。アンニカもちょっと安心したみたい。


 町外れにある山の入り口で待っていると、視察の一行がやって来た。

 しかし先に気付くべきだった。予定がある二人、そして視察も二人。


 案内されてきたのは、セビリノとエクヴァルだった……。

「あれ?イリヤ嬢たち」

「師匠!なぜこちらに?」


 監督は驚いて、私と二人を交互に見ている。

「……!この前の、イリヤさんの護衛のDランク冒険者!?」

「ははは。ども、今日はエグドアルムの魔導師の護衛です」

 とぼけてるなあ、エクヴァルは。


 そして一緒にいるのは、白いローブに空色の髪をした女性、エーディット・ペイルマン。ノルサーヌス帝国に一緒に行った魔導師だ。思いがけず揃っちゃった。

「貴方達、何してるのよ!」

「私は視察の方に坑道内を説明する時の、お手伝いを頼まれたんです。鉱山には丁寧な対応が出来そうな人がいない、という事でして。ヒヒイロカネの採掘を、以前手伝った経緯があるんです。」

「あたしは、イリヤさんの弟子になったんです。それで、この、シェミハザさんと契約しました」

 アンニカが横に立つ男性をチラリと見ると、彼は笑顔で頷いた。


「いいじゃない、契約なんて!彼は…堕天使かしら?」

「よく解るな」

「これでも王宮魔導師なのよっ!」

 自慢げに胸を張るエーディット。彼女がこの二人の接待係なのね。女性だし、魔導師だからちょうどいいわね。

 気心の知れた人達で良かった。

 和やかな様子に、監督も少し安心したようだ。肩の力が抜けた気がする。


「ところで、アーレンス様。聞き間違えでなければ今、師匠と仰いませんでしたか?」

 エーディットが気付いてしまった。

「イリヤ様は私が最も尊敬する、我が師匠でいらっしゃいます!」

「えええ~!?」

 だんだん表現のバリエーションが増えてくるぞ。エーディットは驚いて、それ以上何も言わない。うん、このままにしよう。


 今回は二つある坑道の、メインの広い方を案内する。トロッコの説明などをしながら歩き、鉱山の採掘場まであと少し、という時だった。

 飛行魔法で飛んできた女性が、かなり慌てた様子で降りてくる。


「ここのトップはどこ!?私はフェン公国の魔導師、アルベルティナ。緊急事態よ!!」

 背中の真ん中ぐらいまでのえんじ色の髪を一つにまとめ、胸当てをしている背の高い女性。以前、ガオケレナでお世話になった。

「緊急事態とは、何があったんですか!??」

「お久しぶりにございます。まさか、トランチネル関係で?」

 監督さんが訊ねた後に、私は挨拶をして質問してみた。まさか、戦争…だったらここに来ないか。


「貴女は、レナントの職人イリヤさん……!?ちょうどいいわ、魔法使いでもあったわね。フェン公国に“竜の住み家”と言われる、岩場があるのを知ってる?そこのドラゴン達が、最近何かに怯えたように落ち着かない様子だと報告があって。監視を強めていたら、中級を含む竜が、何体も興奮して山を下って行ったのよ!」

「竜が…!?竜が怯える何かが、あったと言うのですか!?」

 驚いた監督が問いかける。アルベルティナは神妙に頷いて、言葉を続けた。


「思うに、トランチネル関連ね。でも探れないの、危険すぎて。とにかく何体かは倒したし、現在も我が国では交戦中よ。それと別に、こちらにも来てしまっている。即刻対処して。申し訳ないけど、手に余る事態なの」

「それでは中級も、こちらへ?数は解りますか?」

 暗い表情の彼女に、聞いてみる。中級が居て欲しい。

「最低でも中級二体、下級三体は居るわ。もっといるかも知れないし、しかも散らばっているかも……」

 

「ならば、中級一体は我の獲物であるな!」

 中級が向かってくると知り、ベリアルは俄然やる気だ。鉱山の案内よりも、よほど楽しいんだろう。

「アンニカはここに残る?」

「はい、竜とは戦えません……」

「ならば私も残り、彼女と町を守ろう。」

 アンニカとシェミハザはお残りね。でもこれなら、町の防衛も安心かな?

「私もここに居るわ。飛びながらだと、あまりうまく魔法が使えないの」

 エーディットも残る。飛びながら魔法を使うのは、結構集中力がいるのよね。あとは慣れかな。


「よおおっし、腕が鳴るわね!どうせだったら全部中級以上なら、ドラゴンティアス取り放題だったのに」

「こういう時の君、ホントに非常識で頼もしいね」

 なんだか苦笑いのエクヴァル。

「しょせんドラゴンなぞ、狩りの獲物でしかないわ」

「師匠!私もお供いたします!」

 ベリアルとセビリノは一緒に来る。

 私たちはまず、中級ドラゴンを目指す!ドラゴンティアスは貰っちゃうわよ!


「ベリアルはともかく…、契約者とその周囲の反応も、私が知る人間のものではないな……!?」

 シェミハザは少し困惑してる。


「私は……、」

 私達の様子に一瞬呆気に取られていたアルベルティナが、残るべきか行くべきか、周りのメンバーを見回して思案している。


「……中級ドラゴン討伐は、イリヤ、セビリノ、ベリアル閣下が。町の防衛はアンニカとシェミハザ殿。それからエーディット・ペイルマン。君のスーフル・ディフェンスの効果は?」

「……中級ドラゴンならしっかり防げるけど、なに、急に……?」

「これ、エクヴァルが軍人モードになってるから、合わせて。この感じの時に怒ると、すごく怖いの。」

 いつもドラゴン一体くらいなら、軍人モードにはならないんだけどなあ。数が多いし、町の防衛もあるから?どこにスイッチがあるのかしら。

 

「ならば君も防衛に当たるように。アルベルティナ、君のスーフル・ディフェンスは?」

「そうね、上級ドラゴンでも一度は防げるわ」

「宜しい、私と周囲の哨戒に当たってくれ。鉱山の監督。君はすぐに冒険者ギルドの長と、町の長に報告して防衛に入るよう。町にまで攻め入らせるつもりはないが、万が一がある。市民の避難計画があるならば、速やかに実行したまえ」

「…っはい!」


「では、散開!!」

 エクヴァルは私のワイバーンに乗って、アルベルティナと共に近くに竜が来ていないか見回りをする。監督はすぐに町に向かって走った。もう一人輔佐で居た人が、鉱山の中にも知らせに行く。この場合は、鉱山から出ない方が安全だと思う。


 私たちは中級ドラゴンに向かう。どの方向から来るかはアルベルティナに聞いてあるから、しっかりと見つけるわ!

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