第122話 二番弟子です!
「イリヤさん、いますか?」
「どちら様ですか?」
玄関から声がしたので出ようとしたら、アンニカが先に扉をあけた。
新しく私の弟子になった、王都の魔法アイテム職人。セビリノのファンだったらしく、普段から口数の少ない彼と会話したり一緒に調合したり、楽しそうにしている。
訪ねて来たのはアレシアだった。このレナントの町で姉妹で露店を出していて、私のポーションや薬などを販売してくれている。
とはいえ最近は私が出掛けてばかりなので、自分で作れる商品を増やして売っている。
「こんにちは、イリヤさんの友達でアレシアっていいます」
「貴女が! お話は聞いてます、私は二番弟子のアンニカです。よろしくお願いします」
「お弟子さんなんですか!」
二人が玄関で握手しているので、中に入るよう促して客間のソファーに座った。
今日はアンニカが、お茶を淹れてくれる。セビリノが、弟子の仕事だと教えてたし……。素直なアンニカに先輩として教えるのが、楽しいみたいだった。
「実は最近、新しい洞窟が発見されて、強い毒を持つ魔物が出てきたんです。それで、もっと強い毒消しが作れないかと思って、相談に来ました」
「毒消しね、この前のアルルーナを加えるといいわ。干して粉にするのが、一番いいかしら。あとは、蛇の魔物の魔核がいいの。ユニコーンの角もすごくいいんだけど、貴重だものね」
「蛇……、それは知りませんでした! ありがとうございます! 商業ギルドに聞いてみて、無ければ冒険者ギルドで、依頼を出してみます」
アルルーナがあれば十分に効果が出せる。とはいえ、数に限りがあるものね。使い切る前に依頼を出して、せめてどちらかを手に入れられるといいんだけど。
「なるほど、蛇の魔核ですか」
飲みものを用意してくれたアンニカが、メモしている。私たちはともかく、町の職人は蛇の魔核って手に入れにくいものみたいで、効果を知らなかったのね。
アルルーナの方が手に入りやすいかな。森にいるポピュラーな魔物、アルラウネから採れるし。
エグドアルムに帰っていた間のチェンカスラーの様子を、アレシアから聞いた。
長期間留守にしていたわけじゃないし、そんなに大きな変化はない。ただ、フェン公国との交易が減ってきているとか。フェン公国の隣にある、軍事国家トランチネルがおかしいって噂になっているみたいで。
どうやらフェン公国がトランチネルに送り込んでいた諜報員が、何か異変を掴んだらしい。
あとは、フェン公国にいる天使や悪魔が、恐ろしい魔力を感じたのだとか。
ベリアルは王だけど、普段は隠ぺいしている。わざわざ隣国にまで解るようにするなんて、意図があるのかも知れない。
何かの召喚に成功しているきらいがあるに、宣戦布告するわけでもなくて、むしろ不気味なくらい動きがない。
国境の兵たちは浮足立っていて、いつになく統制がとれていない様子なんだとか。
とはいえこの二か国が一触即発状態なのはよくあるので、チェンカスラーでは交易してる商人以外は、今まで通りに普通に暮らしてる。
アレシアの露店は順調に売れていて、大分軌道に乗っていた。
「いつかレナントに、自分のお店を持ちたいです」
夢を語ってくれたアレシアの手を、アンニカが握った。
「大丈夫、ですよ。私は冒険者をしてましたが、お店のお手伝いをしながら勉強して、王都に自分の工房が持てました。小さいですけど」
「そうなんですか!? すごい、私も頑張ります!」
私もアイテム職人で家を買ったけど、元が宮廷魔導師見習いだからね。どうしても二人とは、状況が違っちゃうよね……。
エリクサーのおかげで最初の一回の支払いしかしてないしなあ。
アレシアは笑顔で去って行った。これから素材を集めて、アイテム作製に取り掛かりたいと意気込んでいた。
私はアンニカと一緒に、地下室で回復アイテム作りをすることにした。
今回はポーションと熱さまし。まずは彼女の腕前も確認しないと。
彼女はとても丁寧に薬草を扱い、作り方も生真面目。量もしっかり量るし、火の加減も気にしている。初歩の薬を作る分には、何も問題はないと思う。
ただ、ポーション類に魔力を籠めるのにムラがあるかな。自分でどのくらい魔力が出ているのか、どの属性に変化してるのか、解っていないみたい。
属性の変化は解らない人の方が多いみたいだから、普通なのかも。これだと上級ポーションから厳しくなるのは、仕方ないわね。
それを告げるとしっかりとメモしてくれて、まずは魔力の制御から練習する方針になった。
「ところで、この樽はなんですか?」
「あ、それはまだ触らないでね。ソーマが仕込んであるの、あと一週間で完成するわ。こっちの棚はネクタル、それで奥にしまってあるのがエリクサーの材料。この辺はいじらないで欲しいの」
「は、はい! そんな貴重な品だったなんて、さすが先生です……!!!」
品名を聞いたアンニカは、触ろうとしていた手をすぐさま引っ込めて、樽を凝視していた。外から見ても魔力があふれてるくらいしか、感じられないと思う。
樽の外側には、仕込んだ日付を書いた札が貼ってある。
他の貴重な素材なんかを教えておいて、使いたい時は気軽に言ってと伝え、休憩することにした。
ハーブティーを飲んでいると、扉がノックされる。最近お客さんが多いなあ。
「こちら、アイテム職人のイリヤさんのお宅でしょうか? 鉱山の町コングロモから来ました、以前お世話になった者です」
以前、ヒヒイロカネの採掘のお手伝いとして、オーラを見に行った時の方かしら。あのあとオーラが見られる職人さんが復帰したので、問題がなくなったという話だった。
扉を開けると、監督さんがいた。短い茶色の髪で、三十代のダニオ。前回会った時は作業服だったが、今日はもう少し小奇麗にしている。
「実は、折り入ってお願いがありまして」
居間でアンニカに監督の分のハーブティーも淹れてもらい、詳しい話を聞くことにした。
彼女がソファーの後ろ側に立っているのは、セビリノの仕込みだろうか……。隣に座ってと言ったんだけど、遠慮している。
「鉱山に他国の貴族が、視察として訪れるんです。遠い国からで、人数は二人だけなんですが……。貴族の持て成し方など、我々には解りません。そこで、前回とても礼儀正しかったイリヤさんなら、うまく応対できるかと思い至ったんです」
「あまり自信がないのですが、私でいいのでしょうか……」
セビリノやエクヴァルの方が得意だろうなあ。聞いてみたいけど、二人ともいないし。
監督は畳みかけるように話を続ける。
「貴族との接し方も学んでいるAランク冒険者ならとギルドを覗きましたが、今はいなかったんです。急で申し訳ないですが、四日後なんで、王都まで行く時間もないし……! 女性の方が受けがいいでしょうし、ちゃんと賃金も払います! 王都から接待の為に魔導師を派遣してくださるので、私の補佐くらいの仕事なんです」
手を合わせて、頭をテーブルに擦り付けるほど下げている。断りにくいぞ。
「……分かりました。やってみたいと思います。代わりに……」
「代わりに?」
私が肯定したら顔を綻ばせて、監督はバッと頭を上げた。
「お金ではなく、ミスリルが欲しいんです」
「ああ、魔法も使いますものね。杖でも作るんで?」
「ええ、そんなところです」
監督は二つ返事で承諾してくれて、これで話はまとまった。ただ、一日だからミスリルも杖を作れる程にはもらえない。どうせ全部ミスリル製にしちゃうと重いから、トレント材がメインでもいいかな。
私のユグドラシルにミスリルでできた蛇の彫刻の絡みついた杖も、結構重い。アイテムボックスが無かったら、持ち運ぶの大変だよ。
エクヴァルとセビリノは国から頼まれた仕事が入っているので、私はベリアルとアンニカと、三人で行くことにした。前日に向かえばいいので、まだ時間がある。
私は魔法養成所や宮廷魔導師見習い時代に貴族と接していたけど、エクヴァルとセビリノの二人に貴族への対応の仕方を、おさらいさせてもらっておこう。なんせ本当の貴族だもの!
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