第114話 実家へ帰省します
ベリアルとセビリノと一緒に、私の実家へ向かう。
こんなに早く帰れるとは考えもしなかったので、もう会えないかもみたいな手紙を出してしまったのが恥ずかしい。
村までだいぶ近づいた所で、一つ目の巨人キュクロプスを発見。若い男性を襲っている!
巨人の中では小さい方とはいえ、村にとってはかなりの脅威になる魔物で、この辺りにはごくたまに現れる。魔法を唱えようとしていると、ベリアルが速度を速めて飛んだ。炎の剣を出してサクッと斬り、火の塊をぶつけてとどめを刺した。
巨人が地面に倒れる轟音と振動に、逃げていた男性が振り返る。地面に降り立ったベリアルの赤い髪とマントが揺れた。
「……あわ、すごい……! あの巨人を一撃で? ありがとうございます、何とお礼を言ったら良いか……!」
「構わぬ。簡単すぎる、つまらぬ狩りであった」
私達も近くに降り立ち、男性に声を掛ける。
「大丈夫でしたか?」
「……あれ、何処かでお会いしたことが……? エリーに似てるような……?」
「エリーは妹ですが?」
妹のエリーを知っている人? でも私には見覚えがない。彼は私の顔を見ながら、もしかして、と呟いた。
「あの! 死んだと思われてた、お姉さんのイリヤさん!??」
「? 村の方ですか?」
「いえ、近くの村の者なんですが……、エリーの婚約者のリボルです!」
エリーに婚約者……!?? いつの間にそんな話に……!!
エグドアルムにいた頃も宮廷魔導師見習いとして王都で過ごしていたから、エリーの話を聞くことが全然できていなかったのよね。考えてみると、寂しいなあ。
そういえばエリーも二十一歳。もう結婚してもおかしくない年だわ。私だけ何もない……。周りにいるのは地獄の王と、女好きな護衛、そして自称弟子。なんだかなあ……。
私とセビリノは、彼と一緒に歩いて村へ向かうことにした。
ベリアルはここから別行動。谷にワイバーン退治に行くと、楽しそうにしていた。村から少し離れたところに、ワイバーンの谷と呼ばれる繁殖してしまう場所があるの。
飽きてしまって、運動したいのね。増えすぎると人里に出て来るし、村の為にも助かるわ。
「まさかお姉さん達に助けて頂くなんて! 本当に有難うございました」
「ご無事で何よりです。エリーが婚約したとも知らず、大変失礼致しました」
「いやその、お会いできて良かったです。エリーに聞いていた以上に、丁寧な人ですね。緊張するなあ、僕は都会的なことは解らないから……!」
素朴で感じのいい男性ね。エリーを幸せにしてくれそう。
彼はかなり固くなっていて、はにかんだ笑顔を見せていた。私も緊張する! 嫌われないようにしなきゃ。
「気になさることはございません、エリーの婚約者でいらっしゃるのなら家族同然です」
「はは……、ありがとうございます。それで、そちらの男性は……?」
「私は師の一番弟子であります、セビリノです」
一番を言いたがるわね? そもそも他に弟子なんていないんだから、一番なんて言う必要はないのだけれど。せめてフルネームはやめてとお願いしておいた。
久々に故郷の森を歩きながら話をするのは、楽しい。ここはベリアルと出会った辺り。村からはまだ、ちょっと離れている。
「お弟子さんをお持ちで……!? こりゃあお義姉さんは、とてもすごい魔導師様なんですね」
「師は誰よりも優れた魔導師でいらっしゃいます! 師の生まれ故郷へとお供させて頂けるなど、我が生涯の誇りになりましょう!」
「セビリノ、あのね、普通の山の中の村よ? 何もないわよ……?」
なんだかセビリノが、とても期待に満ち溢れた瞳をしている。
どうしよう、本当に何もない。
エリーの婚約者、リボルも何か喜ばせるのもがあったか、一生懸命考えてくれているみたい。うーんと唸って、人差し指で頬を掻いた。
だんだん村が近づくと、死んだ筈の私が帰って大丈夫か、怖くなってきた。
村の手前で深呼吸をして、気持ちを整える。ついに門が視界に入る。門の付近に、人がいるわ。誰かが私に気付いて、手を振った。
「イリヤか? イリヤだよな、おーい!」
「お姉ちゃん!!!」
皆が歓迎してくれている。エリーが泣きながら走ってきて、私に抱きついてきた。
通信魔法で帰るとは連絡してあったから、待っていてくれたのね。なんだか照れくさくなったわ。
「イリヤ! お前が文字を教えてくれたから、近隣の村に教えに行ってるんだ。今はそれで暮らせてる」
「イリヤちゃんがくれたお薬、とても役に立ったわ。作り方のメモも、とても助かってるの!」
村の人が口々に嬉しそうに言葉を掛けてくれる。考えてみれば山合いの村なんて識字率が低いものね、文字を教えるだけでこんなに喜ばれて、仕事にもできるのね。
チェンカスラーでは都会にいるから、けっこう皆が文字を読めるよ。
そして後ろに立つセビリノを見て、不思議そうな顔をする。
なんせ弟子と名乗る彼が、私よりも立派なのだ。宮廷魔導師なのは、内緒にしてもらっている。それでも貴族というのは、なんとなく解ってしまってしまうだろう。
ついに久々の我が家。チェンカスラーで住んでる家より小さいものの、懐かしい匂いがしてとても落ち着く。エリーの婚約者は、ここに一緒に住んでくれる予定らしい。お母さんが一人にならなくて安心したわ。
お母さんがお茶を入れようとすると、やはりセビリノが止める。
「私の仕事ですから」
魔導師の中でも背の高い方の彼は、堂々としていて威圧感があるので、ハッキリとそう告げられると断りにくくなるのよね。
お母さんとエリーと、エリーの婚約者のリボルとテーブルを囲み、チェンカスラーでの新しい生活について、色々とお喋りした。元気にやっていると直接話せたので、お母さんもエリーも喜んで、笑顔で聞いている。
宮廷魔導師見習いをしていた頃よりも明るくなったと、むしろ安心してもらえたわ。仕送りはできなくなったけど、これからはリボルもいてくれるし大丈夫よね。
「それにしても師匠がお帰りになると、皆が存じているようでした。いつの間に連絡を?」
「チェンカスラーから、お手紙を送っておいたの。だから先に知ってたのよ」
「……お手紙、ですか?」
そういえば通信魔法はまだ改良中で、セビリノに見せていなかったわ。せっかくだし披露しよう!
私が使っていた部屋へ一緒に行くと、部屋はほとんど出て行った当時のままだった。ただ通信魔法はしっかりと仕舞われ、引き出しに鍵がかけてある。
「これ、マジックミラー技法を応用した通信魔法よ」
「……し、師匠。これをお一人で開発されたので……?」
「うん、教えなくてごめんね。教えたら、出て行くって知られちゃいそうで……」
国を出た後に家族と連絡を取りたくて開発してたから、なんとなく言い出し辛かったのよね。
セビリノは私の通信魔法の装置をじっと眺めている。
「そういう問題ではなく……、これは殿下が研究室に密かに命じた通信魔法と酷似しているような……? 師匠、通信魔法は秘匿技術です。誰にも知られてはならないものですよ!??」
「ウソ!? お手紙を送るだけよ?」
「それが重要なのです。伝令と違い、通信が妨害される恐れがない。現在の所は、ですが。そして、各国が独自に研究していますが、チェンカスラー王国では確立していない筈です。防衛都市からの伝令が鳥類の聖獣のみだったことが、証拠です」
そうだ!
ファイヤードレイクの時は妨害されてたし、魔法による攻撃の時だって、通信魔法で素早く連絡できれば、もっと早く到着できていたわ。なんで気付かなかったんだろう……!
「だから連絡が分断されたりするのね……」
「左様です。重要な技術です」
言われてみれば、情報は重要だわ。聞いておいて良かった、知らないままだったら尋ねられた時に、簡単に教えちゃいそうだったわ。またエクヴァルが責任取らされちゃうのね? 損な役回りなんだな。
「誰にも知られないようにするね」
「お気を付けを。しかし、何故穴をお開けに……? 組み合わせねば効果がないとなると、通信魔法であることを
「違うのよ。通信だけに使うのはもったいないから、普段は別の文字を入れて護符として持てないかと思って、ちょっと研究していたの。でも、通信に絞った方がいいみたい」
遊んじゃってたのよね、恥ずかしいわ。隠さなきゃならないとは知らなかったし、そこまでして隠す必要性は感じてなかった。
「師の発想は何とも素晴らしい!」
「でもこの
「いえ、思いつくことが奇跡なのです! お供させて頂いて、
感動している……。
まあ喜んでくれたから、良かったかな?
今日はウチに泊まって、明日はセビリノのご実家へ、一緒に挨拶をしに行く約束をしてしまった。師として紹介したいからって。
また大げさに紹介されそうね、身構えておきましょう!
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