第105話 防衛都市2 オーガ討伐組

 オーガ退治組は私、ベリアル、セビリノ、エンカルナ、バラハ。

 バラハは「このメンバーなら、私は眺めているだけでいいよね!」と、ニコニコしている。


 上空から見下ろすと、棍棒や金属の棒を持った赤や青など様々な肌の色をしたオーガが茶色い道に目立っていて、十数体ほど目視で確認できた。かなり隊商の近くまで迫っている。

 魔法で攻撃したのだろう、地面に焦げ跡が残って魔力を帯びた風が舞い、矢が何本も落ちていた。矢が刺さって矢じりが肌から出ているオーガもいるが、興奮を強めただけの逆効果になっている。


「セビリノ!! 土属性魔法で、まずは攻撃と隔絶を!」

「心得てございます!」


「「地表に峻険なる山を隆起させ、刺し貫く尖塔せんとうを築け。針の如く突け、林の如く伸びよ、くちばしの如く鋭くあれ! 神殿の柱となりて敵を打ち、檻となりて隔絶させよ! スタッティング・ピック!」」


 私とセビリノの声が揃う。目の前で二本の指を立てて、槍の穂先が垂直に突き出していくイメージで、隣でも同じ掌相をとっている。

 地面が尖って盛り上がり、天に向かって何本も一瞬で伸びた。ちょうど隊商の護衛達とオーガの間に出して攻撃を阻害し、何本かはオーガに当たるようにした。

 腕や足を貫かれたオーガの叫換きょうかんが、辺りに響き渡る。

 通常この魔法は、五本から十五本程度、硬い土の尖った柱のようなものができる。

 私とセビリノで一緒に唱えたところ、五十本近くできてしまった。作り過ぎだわ。こちらにとっても邪魔ね。

「多かったわね。セビリノ、ちょっと減らしちゃうわ」

「はいっ……、は?」

 

「土は埃と風化せよ、大地に還れ。再び強固な地盤とせ」


 余分だと思って、近くに乱立する分を選んで間引いた。

「え? アーレンス様が作ったのも、解除できるの……?」

「ええ、これは簡単ですよ。プリママテリアに戻すまでもなく、土として還せばいいんですから」

 エンカルナの問いに答えると、セビリノが手を震わせている。

「まさか……、この詠唱は自身の魔法の効果を終わらせ、平らに戻すだけのものだと思っていました。私の分まで不必要なものを選んで大地に還すとは……!!!」

 あれ? もしかして悪かったかな……?

「ご、ごめんなさい。私が一括して調整した方がいいかと……」

「さすが我が師!! 素晴らしい発想と魔力操作です!」


「アーレンス様のイリヤさんへの信仰ぶりがすごいけど、確かに素晴らしい魔力操作だ……!」

 バラハが苦笑いで頷いている。

 憧れていたセビリノが私の弟子としてやたら私を褒め称えるんだもんね、微妙な気持ちになるのは解るわ。私もちょっと微妙だから……。

 私達が魔法を唱えている間に、宣言を終わらせ炎の剣を手にしたベリアルが、オーガへと炎を飛ばしつつ斬りかかる。

「さて! 狩りの開始であるな!!」

 まずは一番近くにいる緑のオーガを目掛け、上空から剣を振り被って頭から斬り下ろした。暴れる体を避け、地面から火を燃え上がらせる。


「私はこちらを!」

 オリハルコンの剣を抜いて、エンカルナはベリアルとは反対側へ急いだ。

 こちらいる青いオーガが、冒険者の傍にいて一番危険そう。槍を構えてオーガを睨む男性の近くに行き、棍棒を振り回しながら迫りくる敵に向けて風属性の魔法を唱える。

 

「巻き上がれ大気よ、烈風となりて我が敵を蹴散らせ! 汝の前に立ちはだかるものはなし! 一切を巻き込みし風の渦よ、連なりて戦場を駆けよ! クードゥ・ヴァン!」


 風が質量を持って押し寄せ、蛇のようにオーガに襲い掛かる。巨体はよろけて数歩後ろに下がり、ドスンと地面に尻餅をついた。

「あ、貴方がたは?」

 護衛の冒険者が、飛行魔法で浮かびながら敵との間に立ったエンカルナを見上げる。

「安心して。私は防衛都市の筆頭魔導師、バラハ。伝令を聞いて駆け付けたんだ。この人達はちょうどいあわせただけで、ウチの兵じゃないんだけどね」

 隣に降り立ったバラハの説明に、若い冒険者の男性は安堵の表情を浮かべた。

 気丈にオーガの前に立って隊商を守ろうとしていたけど、手に余る事態だったようだ。


 エンカルナのオリハルコンの剣が炎を帯びて、オーガの腹を刺す。そして燃え上がり、炎を注ぎ込むと青いオーガは耐えきれず悲鳴を上げた。

 オーガの肌の色は、属性の色なのよね。青だから水。

 ベリアルもオーガを斬り裂き、刺して炎をぶち込む。しかもオーガが全身火だるまになるほど……! エンカルナの技が似ていたから、勝手に競っているのね。負けず嫌いだなあ。

 セビリノも魔法で一体仕留め、その間にエンカルナが二体、ベリアルは三体仕留めた。

 バラハは隊商を逃がして、護衛達とともに守っている。

 しかしさすがオーガ、隊商を守る為に立てた硬い土の柱も軽く壊してしまう。赤い大きめのオーガが隊商を追いかけようとしたので、飛行しながら近付き魔法の詠唱を開始。


「風よ集え、嵐の戦車となりて我が身を包め。傍若無人なる七つの悪風を従えよ! 立ち塞がる山を突き破れ。雲よ、竜の鱗の如くあれ! シャール・タンペート!!」


 使用者自身が風を纏うから、多少の攻撃は弾ける。そして敵に突っ込んで掌底で打ち込むと、暴風を直接四方八方から浴びせられる。更に風属性にしっかりと振り切り、一定以上の魔力を帯びると、帯電しパリパリと光が飛び散って爆発のようになるのだ。

 攻撃力が高く、大きな魔物に有効な魔法。

「グガアアアァッ!!!」

 悲痛な声を上げ、オーガが倒れた。私も一体撃破!

 ちなみに倒せないと反撃されるので、あまり人気がない魔法。魔法使いは敵陣に突っ込みたがらない。


「……イリヤさんのあの魔法、ああいうのだったかしら……?」

「限界を超えると、帯電するようだ。私は風属性は苦手なので、無理だが」

 エンカルナの独り言に、セビリノが答える。

「うそお……、私は風が得意だけど、ああはならないよ!?」

「属性値が足りないか、魔力が足りないかの、どちらかだ」

 倒れたオーガを指さすバラハ。セビリノは相手がバラハとエンカルナだと、敬語が抜けるのね。

「唱えてみたら?」

「イリヤさんの指導、二回目開催ってこと!? しかも実戦で! よおし、やるぞ!」

 発動を見たいと私が言うと、何故かバラハは急にやる気満々になって、前に出た。土の柱の向こうにいる、青いオーガに狙いを定めたようだ。

 オーガはあと三体に減っている。


「風よ集え! 嵐の戦車となりて我が身を包め。傍若無人なる七つの悪風を従えよ! 立ち塞がる山を突き破れ。雲よ、竜の鱗の如くあれ! シャール・タンペート!!!」


 バラハが唱えて敵に突っ込み、オーガの腹にガツンと激しい風を送り込む。ブワッと烈風が吹き込んで弾けるが、帯電はしていない。

「バラハ様!! 風が散っています、もっと掌に集めて! 周りから掻き集めて集中させるイメージです。例えるなら……ねじを回すように!」

「まだ風が足りていない。もっと変換させるのだ!」

 私とセビリノが、魔法による強風の中でも聞こえるように大きな声で助言をする。

 すぐに実行されて、バラハの掌に風が集まっていく。パチパチと小さな火花が飛び、一足遅れて風に稲光が宿った。

 魔法によろけながらも体勢を立て直し、反撃を試みようとしたオーガの腹がえぐれたようにへこんで、装備していた棍棒をガランと落とす。


「で、できたー! これ、攻撃力がスゴイ上がってる!!」

 バラハもかなり魔力があるわ。更に引き寄せて纏めた風を攻撃に乗せて、帯電させて爆発させる。

「ガアアアァッッ!!!」

 ついにオーガが膝から崩れ落ちた。

「さすがバラハ様!」

「ありがとうイリヤ先生、アーレンス様!」

「……ん?」

 何故か先生になっているよ。バラハはとてもいい笑顔をしている。

「師匠はいるから呼べないけど、先生なら問題ないよね! 二回も指導してもらったし」

「……師匠! 私も指導してください!!!」

 セビリノは何を張り合うのかな!? 彼はむしろ、問題なんてなかったわ。


「そなたらっっ! 何を遊んでおるか!!」

 最後の一体を倒したベリアルが、こちらに合流した。しまった、お喋りしてた。

「さすがベリアル様! 素晴らしい剣捌きと炎のお力、この目に焼き付けさせて頂きました!」

「……ぬ? ふむ……まあ、我がいれば危険などない故な!」

 エンカルナがすかさず褒めると、ベリアルはまんざらでもないような表情になった。意外と単純なんだよね。

 彼女の場合は心からの賛辞だろうし、気持ちいいのかも知れない。

「こんなに一人で倒すとは、ベリアル殿は本当に素晴らしいです! 私達には到底、真似できないですよ」

「まあ、そうであろう!」

 バラハも調子いいなあ。ベリアルはすっかりご機嫌。

 なんだろう、地獄の王ってそんなに褒め言葉に飢えてるの……?

  

 とりあえず隊商を防衛都市まで送ることに。オーガはこれで討伐完了ね、他には出てこなかった。

「……師匠、私の魔法への指導は頂けませんでしょうか?」

「セビリノは非の打ちどころがなかったわ。問題ないわよ」

 改善点なんて、全然なかったと思うんだけどな?

 そんなに聞かれても困る……。

「いえ、師の洞察力をもってすれば、私の欠点は幾つもお見通しでいらっしゃるはず! 是非とも!!!」

「えええ……、ないですよ。ないよ」

「師匠!!! 私は一番弟子にございましょう!!?」


 私は今、どうして責められているんでしょう……?

 エンカルナが、いいなあと羨ましがる。全然嬉しくないから!

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