第80話 師匠の恩返し(セレスタン視点)

※セレスタン・ル・ナン…伯爵に騙されてベリアル閣下を倒しに来た冒険者のリーダー。65話~

 パーヴァリ…その時一緒に居たメイスを持って、光属性の魔法を使うひと



「まさかとは思うが……ホントにアムリタか? そんなすごいものを、無料でくれるってのもな……」

「とはいえセレスタン、歩くことすらままならない程の傷があったのだろう? しかも既にポーションも効かないような古い傷が。となれば、正しくシーブ・イッサヒル・アメルを配合したアムリタだろう。他に古傷を完治させる薬はない。効果こそが証明だ」

 俺はSランクの剣士、セレスタン・ル・ナン。Aランクのメイスを装備した魔導師、パーヴァリを連れて、ワステント共和国へ帰っている。それというのも、剣の師匠から冒険者ギルドを通して呼び出しを受けたからだ。

 ちなみにパーヴァリは意気投合したから来ただけで、出身は海の方だという。


 帰ってみると、以前は歩くのさえ辛そうな時があった師匠が、久々に剣の稽古をしているではないか。

 調子のいい時に無理をしてまた歩けなくなるかと心配したが、なんと古傷が殆ど消えている。痛みもないとか。そして師匠は若い女性にもらったという、その薬を見せてくれた。白い容器に入った軟膏はほぼ使い切っていて、こんな秘薬をくれた女性を探してお礼をしたいと願っている。

 この傷は、十年ほど前の戦争の時につけられたものだ。魔法も薬も残り少ない状況で、師匠は怪我を隠し他の者達の回復を優先させた。師匠らしいのだが、まさかこの傷がもとで引退する羽目になるとは、誰も予想だにしなかった。


「さすがにもう現役に戻る年でもないが、痛みがないというのは、いい」

 髭をさすって、嬉しそうにしている。こんなに幸せそうな師匠は久々に見る気がする。できれば俺も、その方にお礼をしたいな。

 師匠の家で小さなテーブルを囲み、俺が三人分の茶を淹れて椅子に座った。

「分かりました、師匠! 我々が必ず探します。詳しく状況を教えてください」

 この家はワステント共和国の南側に位置する、コアレという町にある。死海に近く、観光客もよく訪れる町。そこの外れに立つ小さな中古の木の家を買い取り、一人で生活している。元将軍が、ほとんど世捨て人だ。

 ちなみに俺は軍人ではなく冒険者だが、頼み込んで剣を教えてもらった。

「そうだな、薄紫の髪をした可憐な女性で、赤い髪の悪魔と一緒にいて……。確か、悪魔が名を呼んでいたな。なんと言ったか……」

「……イリヤ、ですか……?」

「おお、そうだった! 知り合いか!?」


 まさかのあの女性だ!! 魔法も一流で王たる悪魔と契約していて、こんな薬まで作れるとは! あの若さで驚異的な才能だ。

 これ……うっかり騙されて戦ったとか、絶対に口にできないぞ……!


「え、ええ。ちょっとした知り合いです。住んでいる場所も知っているので、すぐお礼に行かれますよ!」

「そりゃ話が早い! しかしだな、そうなると何をお礼としたらよいやら……」

 無骨な俺達二人に、女性が喜ぶ品など思い浮かぶ筈もない。宝石とか花とかか?

 ……違うような。

 黙ってしまった俺達の代わりに、パーヴァリが提案をしてきた。

「……そうですね。魔法アイテムを作る者がこの町に来たのなら、死海の水を求めたわけですよね。彼女は魔法関係が好きなようでしたし、希少素材など喜ばれるのではないでしょうか」

「死海……、行かなかったようだぞ? 魔物が出て閉鎖されている間に来て、閉鎖が解かれる前に帰ってしまった」


 俺とパーヴァリは顔を見合わせた。彼女、わりと好戦的だったよな。嬉々として魔法戦をしていたぞ。

「……あ~……、その魔物、討伐されてませんでした?」

「よく解ったな。誰が倒したのだか、森に現れた巨大な蛇は一刀両断され、死海に迷い込んだシーサーペントは、魔法で倒されたようだったと聞く」

「多分、彼女達ですよ。たとえ閉鎖しておいても飛行魔法で越えられますし、魔法の実力はSランク以上でした」

 師はなんとも驚いた顔をしていた。町で出会った彼女はとても穏やかで、戦ったりする人物には見えなかったらしい。

 試したいなんて軽い理由で物騒な使用禁止魔法を放つ危険人物には、確かに映らないな……。


「まあともかく、素材を贈るにしても、何がいいもんだ? そのシーブ……、なんたらは?」

「シーブ・イッサヒル・アメル。若返りの草と呼ばれ、これを入れねばアムリタとはいえ古傷を治す作用は生まれない。故に、これが配合されないものはアムリタとは言えない、という者もいるが、如何せんきれいな水中にしか生息しない為、常に品不足なんだ」

 パーヴァリの説明は硬すぎる……。要するに入手が難しいってことか? 俺が答えられないでいると、彼は更に説明を続ける。

「魔法使いが喜ぶ品だとガオケレナ、エリクサーを作るならアンブロシア。ソーマ樹液も地方によっては、かなり手に入らない。通常ドラゴンティアスがとても喜ばれるが、彼女なら自分で狩るだろう」

「……狩る? ドラゴンを!? ドラゴンティアスは中級以上にならねば、ほぼ採れないであろうが!」

 師匠の意見も尤もだな。一口熱い茶を飲む。ちょっと濃かった。

「悪魔と契約してますしね……。そうじゃなくても一人で狩れそうですよ、彼女」

「それが本当ならば、まるでエグドアルムの宮廷魔導師みたいだ。一人で狩ったという噂の男がいたな」


「魔導書の著者、セビリノ・オーサ・アーレンスですね」

 パーヴァリは魔法関係が好きなので、色々と詳しくて助かる。ポーション類も上級くらいまで作れる為、魔法アイテムにも造詣ぞうけいが深い。アイテム職人でも楽に食っていける腕だ。

 だが肝心のお礼の品は何がいいか、結論が出なかった。いっそ欲しいものを教えてもらって、それから探しに行くのも手だな。

 パーヴァリは先ほどから考えごとをしているようで黙ってしまったので、俺は師匠の引退してから今までの生活についてと、痛みがなくなってこれからどうするのかを質問した。

 師匠はあまり動けない間に体が鈍っているから、ここで鍛錬をしながら静かに暮らしていくそうだ。

「まあ、国から要請があれば協力するのも、やぶさかではないな」

「だいぶ意欲が戻られたようですね! では、久々にお手合わせ願えますか?」

「ははは、今なら儂に勝てそうか?」

 まっすぐに師匠が立ち上がる。足を庇うような動作が、みじんもない。

 本当に治ったんだな……! この覇気、久々だ。気力も戻られたか!


 少し体をほぐして、約十年ぶりの手合わせをした。流石に動きに精彩は欠いていたものの、訓練に次ぐ訓練で体に覚え込ませた動きは失われていない。俺にとっても高揚する時間になった。

 彼女に謝意を伝えたら報告に来ますと伝えて、パーヴァリと共にワステント共和国を後にした。

 パーヴァリはしばらく難しい顔をしていたが、チェンカスラー王国領に入る辺りで不意に呟いた。


「……セレスタン。君の師との話で確信した。イリヤは、エグドアルムの宮廷魔導師か何かだ」

「……は? なんだ、唐突に」

 その内容は本当に突然だった。なぜ急に魔法大国エグドアルム?

「彼女がエグドアルムの禁書庫から使用禁止魔法を復元したと発言したから、気になっていたんだ。そんな場所に入れる人物は限られる。そして、あのエクヴァルという男。公爵との交渉など慣れたもののようだったし、Dランク冒険者どころか貴族にしか見えなかった」

「言われてみれば、確かに。お前、難しいこと考えてるな」

 俺は全く気にしなかった。そうなんだ、くらいで。

 というより、あの魔法の威力が衝撃的すぎて呆然としてしまった……。冒険者としてSランクになったが、あんな破壊力の魔法は全然知らないぞ。すご過ぎて意味が分からん。


「……難しいことは考えていないよ。彼が自分の責任問題になると嘆いていた。あの秘密を守るような機関にいるのかも知れない。それと、エグドアルムの宮廷魔導師はエリクサーを作れることが条件になっているらしい。最上級の魔法アイテムを作れるのも、納得がいく」

「また厳しい条件だな……」

「賄賂が有効だとも噂だけどね。もしかして、彼女は何らかの理由で職を辞して国を発ち、それをエクヴァル君が追って来ている……?」

 歩きながら自分に語り掛けるように喋り続けるパーヴァリ。国境は森で、ここを抜けると一気に道が開け、チェンカスラーの高い塀を持つ防衛都市、ザドル・トシェが見える。


「尋ねてみればいいんじゃないか?」

「セレスタン……。君、本当に大丈夫か? 国の秘密に関わることは、聞いたらダメだろ……」

 宮廷に仕える様な魔導師が職を辞したとなると、かなりの事態があったと想定されると、呆れられてしまった。



 イリヤの家を訪ねると、対応したのはエクヴァルだった。彼女はポーション類を卸しに行っているらしい。これはちょうどいいな。

 言葉で聞けないことは、腕に聞く。これが一番。

「実は俺の師匠が彼女から貰った薬を使ったら、古傷が治って痛みがなくなったと喜んでいてな。お礼に来たんだが……」

「……古傷が……?」

 どうやらこのことは知らなったらしい。まず顛末てんまつを説明して、彼女に感謝の品を贈りたいと、意志を伝える。

「師匠も元気になったし、俺もまた剣に励みたいからな。エクヴァル君、暇なら手合わせしてくれないかな?」

「……セレスタン!」

 パーヴァリがたしなめるが、エクヴァルは口角を上げて笑う。

「それは……楽しそうだ。是非ともお願いしたいね」

 やはり発言がDランクなんかじゃない。Sランク冒険者に手合わせを申し込まれて、素直に受けるDランクなんていないだろう。


 俺達はこの町の冒険者ギルドへ向かった。ギルドには会員が剣や魔法の練習をする建物があり、そこの地下には一定ランク以上の冒険者のみが使える、周囲から隠された特別な訓練場があるのだ。

「Sランクのセレスタン・ル・ナンだ。この町のギルドに地下訓練場を備えてあるなら、借りたいのだが」

 俺が受付でランク章を提示してそう告げると、受付嬢は一緒にいたエクヴァルの姿に困惑していた。

 そうだった、Sランクの相手がDランク……。これはおかしいな。

「あの、その方と……ですか?」

「ま、まあそうなんだが……」

「私の雇い主が回復アイテムを供与したお礼に、私を鍛えてくれることになりましてね。いやあ、いいチャンスですよ」

 さらりと答えるエクヴァルに、受付嬢はそれは良かったですねと微笑を浮かべる。

 さっきの俺を値踏みするような態度と違うな……。本当に指導してもらいに来ているようだ。この前も思ったが、どうにも掴みどころのない男だ。


「知らなかったな。これは便利だねえ」

 地下に続く階段を、エクヴァルが軽快に降りていく。

「……よくまあ、すぐに言い訳が出るな」

「いやいや、聞かれる予定の質問に対する回答なんて、用意しとくでしょ」

「まあ、疑問に思われても当然だろう」

 パーヴァリもそうだろうと頷いている。俺が考えナシなんだろうか……?


 訓練場はなかなか広く、武器と魔法、どちらを使ってもいいように結界も張ってある。ランクが上がると、両方使う者も多い。木剣や棒など、ここで使う為の武器も用意してある。

「パーヴァリ君も接近戦をこなす感じ?」

「いえ、私は身を守る為にメイスを持つだけで、ほぼ魔法です」

「なるほど」

 魔法使いは懐に入られると弱いから、少しは身を守れないと援護も間に合わない。パーヴァリはメイスに魔法言語を刻んだりして、杖の役割も持たせている。ヒヒイロカネの合金なので、軽いわりに固い。


 俺とエクヴァルが部屋の中央付近で少し離れて向かい合い、パーヴァリは巻き込まれないように壁際に立った。

「……始めっ!」

 パーヴァリの合図とともに、エクヴァルは勢いよく突っ込んでくる。普段は飄々とした優男といった風体でいて、この思い切り良さ。眼光が鋭く、まるで獲物でも見るようだ。好戦的なんだな。

 切り下ろしてくるのをしっかりと剣で受け、何度か剣をぶつけ合い、少し離れる。

 動作は早くその割に攻撃は重いし、予想以上の腕前だ。これは気合をいれねば。

 ゆっくり息を吐いて剣をわずかに揺らし、半歩前に足を進めた。相手の出方を確かめたが、ピクリとも反応しない。

 下手な誘いには乗らないな。


 一気に間合いを詰めて右から剣を振りぬくと、相手は後ろに下がってキレイに躱した。まったく体がぶれていない。肩が動いて、下から切り上げてくる。

 振り切った剣を戻して防ぎ、瞬時に肘を緩めてから、しっかり柄を握って左から斬りつける。

 エクヴァルは剣の流れにそって進みながら、力を逃しつつ俺の剣を受けた。そして俺の剣の上を滑らせて攻撃しようとするのを、上に弾いて正面から斬り下ろす。

 これに右足を右前に進め、左足で俺の横を一気にすり抜けたため、完全に俺の剣が空を切った。

 足運びが巧みだ!

 しかも左足を着くと同時に右足を引きながらつま先で反転し、こちらに体を向けている。

 これはやはり、自己流の冒険者じゃない。もっとしっかりと訓練したやつだ。 


「……君達が私に聞きたいことが、だいたい解ったよ。なぜ、気になるのかな?」

 少し距離をとり、唐突にエクヴァルが訊ねてくる。これはもう、素材がどうこうというより核心に触れるべきか。

「彼女がアムリタという秘薬をくれた相手が、俺の師匠でワステント共和国の元将軍なんだ。師匠は彼女にお礼をしたいと言っている。もし危険があるのなら、共和国で保護することもできると思う」


「……それはまた……、大仰おおぎょうしい話になったな。まあいい、君の誠意に応えよう」

 そういうとエクヴァルは肘を曲げて剣を両手で顏の前に垂直に立て、地につけた左足に右足の踵を鳴らして降ろして揃え、真っ直ぐに立った。どこかの騎士がする仕草だ。どこだったか……。


「エグドアルム王国、皇太子殿下が親衛隊所属、エクヴァル・クロアス・カールスロア。これより、全力をもってお相手つかまつる!」

「……っはぁ!?」

 まだ本気じゃなかったのか……? そして、親衛隊だって!?

 いや、彼女の話はどうした!!

 パーヴァリも驚いた顔をして彼を凝視している。


 こちらの様子などお構いなしに、エクヴァルはスッと剣を前に突き出し、目を細めた。

「……行くぞ」

 

 剣の位置も、頭の高さもほとんど変わらずに前に突き進んでくる。

 間合いも狙いも読めない!

 左に打ち抜いた一撃を防ぐと、すぐさま翻して剣を振り、僅かに下がったのを見逃さずに突き刺すように剣を出す。

 先ほどよりも早い上に、今まで僅かにあった予備動作がほぼ消えた。

 たまにチラリと動いていた視線すら追えない。

 何てヤツだ、さっきまでは俺を試していたのか……!!!

 

 まっすぐに胸に突き出された剣を斜め後ろに退いて辛くも避け、彼の剣の下を俺の剣を通し逆に一撃入れてやろうと思うんだが、すぐに上から押さえる様に下にずらされ止められる。さらに剣の軌道を避けつつ一気に懐に入り込んでくる。

 ここでまだ攻めるのか!

 俺も前に進んで、左手で奴の腕を押して剣を止めさせた。剣で受けるのは間に合わない。瞬間、ニヤリと相手の口元が笑う形に歪んだ気がした。

 俺はとっさに離れて、体勢を整える。フッとエクヴァルの体が沈んだのは、ほぼ同時だった。


「おや、読まれたか。いや、カンかな? 鋭いね、君」

 何を狙っていたんだ? 背筋をゾクリと冷たいものが走る。


 ごくりと唾をのみ込んで相手の出方を見ていると、なぜか普通に歩いてきた。

 一歩、二歩……。

 これは一体、なんだ?

 俺がまばたきをした瞬間、エクヴァルが一気に間合いを詰めて下から切り上げてきた。反応が僅かに遅れてしまった。剣を交えるほどに後退させられる。

「くそっ……!」

 斬りかかってくる剣を必死に正面で合わせ、鍔迫り合いに持っていこうとした。

 力ならば勝てる。しかし相手の力が抜けて、思わず前に重心が動いてしまった。エクヴァルの剣がくるりと俺の剣の周りを通り、上になる。

 同時に右足を斜め前に進めながら滑るように重心を移動させ、右半身になってそのまま剣を首に突き付けられた。後ろ足のつま先の向きまで、しっかりと気が入っている。

「だいたい想定外の動作をされると、そっちに意識がいって反応が遅れるものなんだよね」

 だからって本気でやり合うって最中に、普通に歩いてみるか? かなり緊張感があった場面だと思うぞ……。


「お前……最初は俺を試したな」

 息を切らして床に座り込んだまま話し掛けると、相手は大きく息を吸って呼吸を整えた。

「ちょっと違うね。負けてもいい勝負に、本気を出す必要はないと思ってね。君達は冒険者だろう、いつ誰に雇われて敵になるか解らない」

「……そんなことまで考えてたのか……」

「強い相手に手の内を明かしておくなんて危険過ぎる。しかし敵対する心配は、ないようだったから。そして、保護するとまで提案してくれる相手からの誠意への、返礼のつもりだよ」

 返礼……。もっと平和な返礼が良かった。最初に単なる冒険者か確認する為に、腕を試そうと考えたのは俺なんだが。 


「……私には早過ぎて、何が何だか……」

 パーヴァリが苦笑いで近づく。魔法が専門とはいえ、いくつも戦闘をこなしてきたこいつの目にも留まらぬ早さだったようだ。正直俺も、この男の動きが全部追えたわけじゃない。反射とか、もっとカンのようなもので防いだ部分はある。

 戦場でこの男に会うヤツは不幸だな。


「あ、ところでお礼だって? ガオケレナはいくらでも欲しいとか、ソーマ樹液が欲しいとか言ってたかな。変わったところでは、タリスマンを作りたいけど彫金職人に知り合いがいないと嘆いていたよ。あとはやっぱりアンブロシア。エリクサーの材料だね。他には、上級までのポーションの材料も喜ぶと思う。店に卸してるから、いくらあっても足りないみたいだ」

 説明する目の前の男からは戦っていた時の身がすくむような威圧感は一切なく、もう普段の軽妙な雰囲気になっている。

「……ありがたいが、この変わり身の早さが、何ともなあ……」

 相手はただ笑うだけだった。


「あとアレ、今の生活が気に入ってるみたいだね。保護は断られると思う」

「そっか。まあ、確かに楽しそうだったな。……困ったことがあったら頼ってくれ。冒険者ギルドを通じて呼び出せる」

 好きな場所に出掛け、好きなようにアイテムを作って、今の生活を満喫しているようだったな。家まで買ったんだ、あの町を簡単に離れたくはないか。

「ありがとう、伝えておくよ」


「ところで、私は貴方を秘匿技術を管理するような役職かと想像したのだが……親衛隊なのですか?」

 話が終わったのを見計らって、パーヴァリがエクヴァルに疑問をぶつけた。

「それね。殿下が管理部門の長官を兼任されているから、親衛隊の内、私達五人の側近がいろいろ都合よく使われているんだよ。勝手に任務に加えられてた。そんなつもりで学んではいなかったから、かなり勉強もさせられて……」


 五人の側近!? 今、確かにそう言ったな?

 一部で囁かれている、実力派揃いのエグドアルム皇太子殿下の親衛隊の中でも、抜きんでた存在だがあまり表に出ないという、噂のアレか!

「エグドアルムの“皇太子殿下の五芒星ペンタグラム”と呼ばれる、危険な密命もこなす精鋭じゃないか!!?」

「……え? 何その五芒星って。誰が言い出したの……?」

 どうやら本人達は知らない呼び名だったらしい。しかし否定はしない。

 これは、本当のヤバイ相手と戦っていたようだ。彼らは忠誠心にあつく、殿下の為なら命も惜しまないし、親でも殺すとまで囁かれているぞ。どこまで本当かは知らんが……。

 腕前も一流以上だ。なんでDランク冒険者なんてやってるんだ……。

 詐欺だろ!


 お礼は提案された品の中で、見つけられた材料を渡すことにした。このままいったん、パーヴァリと共にレナントを去る。ソーマ樹液か、エリクサーの材料でも探すかな。

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