第54話 おいでませドラゴン(イヴェット視点)
◆ キャラ説明 ◆
カステイス Aランク男 弓と魔法
イヴェット Aランク女 剣と魔法
リエト Bランク男 槍
ルチア Bランク女 魔法、回復魔法
他の人が戦うところも書かねばと思ったら、新キャラばかりで解りにくくなってしまいました。すみません(´-∀-`;)
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「ここがその竜の住処と呼ばれてる、岩場ね。大きな洞窟がいくつもあるわ」
「イヴェット、慎重に行こう。もし洞窟内で囲まれでもしたら、大事だ。本当ならもっと大勢でやる仕事だと思うしね……」
ブルーグレイの髪の魔法使い、カステイス。彼は弓を携えている。弓と短剣も使うから。
私は魔法剣士、イヴェット。得意なのは剣の方ね。
竜の鱗を採取する依頼を受けてフェン公国に入った私達は、早速竜が住むという山脈にやって来ていた。
チェンカスラーのレナントという町でDランク冒険者の若い男と、ラベンダー色の髪をした大人しそうな女性と、赤い派手な悪魔という不思議な三人組に会った。
そしてどちらがより多い種類の竜の鱗を取れるかという、危険な、でも面白そうな勝負を受けたの。あのDランク、自信がありそうだった。きっと彼は、ランク以上の実力ね。
最初に彼らと話をしていたのは、一緒にここへ来たBランク冒険者。水色をした短髪の槍使いリエトと、茶色の髪の魔法使いルチア。ルチアは回復も得意ということで安心した。そして私とルチア、二人がブレスの防御魔法を使える。これはドラゴン退治において、とても重要になる。
例えSランクの冒険者であっても、ブレスの防御魔法が使えないとドラゴンとはロクに戦えないから。
どの洞窟に入るべきか相談していると、下級の竜が岩陰から姿を現した。これはブレスすら使えない弱い竜。それでも低ランク冒険者なら、簡単に命を奪ってしまうような存在。とはいえ出来立て高ランクパーティーの、準備運動にはちょうどいいわ!
「魔法はまだ温存よ! カステイスが撃っている間に左右から行きましょう、ルチアは周囲を警戒して!」
「了解!!」
私と槍を持ったリエトが走り、カステイスは竜の眉間に寸分の狂いなく矢を浴びせる。
矢が刺さり叫びながら上を向いた竜を左右から攻撃し、最後は彼の槍が胸を深く突いてとどめを刺した。
ドオオンと土煙をあげて竜が倒れる。
「……さすがね、見事よ」
「イヴェットさんが指示して下さったおかげです!」
リエトは照れくさそうにしている。彼の攻撃力なら、もっと強い竜でも平気そうね。予想以上で嬉しいわ。
さすがにこれの鱗は要らない気もするけど、一応一枚貰っておく。
それから一つ目の洞窟を探索してみたけど、ここにはドラゴンはいなかった。獣系が少しいたくらい。
外に出ていったん休憩していると、例の三人が離れた場所を歩いている。皆はこの後の計画を立てているので、私は少し彼らの様子を探ってみることにした。
「あ、ドラゴン発見! でも下級の最下層だねえ」
「……任せた。我は気が乗らぬ」
「私もマナポーションがハイと上級一本ずつと中級しかないから、少し温存してていいかしら?」
「だよね。了解でーす」
なんだか緊張感のない連中ね……。
男、エクヴァルと言っただろうか。彼は細い剣を抜き、ろくな防具も着けていない状態で竜に向けて走り出した。なんでアイツら、あんな格好でこんなところに来るの!? 信じられない!
エクヴァルはやたら足が速く、瞬きの間に竜の手前まで迫る。
そして剣を横に振りぬいて腹を斬り、すかさず飛び上がって首にも一撃加える。それだけで下級の竜を倒してしまった。
「これは鱗、要らないよねえ」
そして興味なさ気に次の獲物を探す。
この腕は、確実にAランク以上だわ……! どうなってるの、あの軽薄男は!
すると洞窟から、明らかに中級と思われる龍が姿を現した。この龍は蛇のような長いタイプで、どっしりとしたトカゲタイプの竜よりも空を飛び廻ることが多く、飛行魔法が使えないと倒すのは厄介だ。
「ほおお! 我の獲物で良いな!」
悪魔の手が燃えあがり、赤黒い剣が手の中に現れる。
あの剣は、火、そのもの……? こんな悪魔なんて、見たことも聞いたこともない! どんな爵位を持っている悪魔なの!?
しかも中級の龍を、獲物ですって!?
「あああ!! あの龍の、爪と髭が欲しい……!」
あの女もなんなの……?
「出た……! 中級だ!」
私達のチームも遭遇したらしい。地震の影響か、だいぶ外にも出てるみたいね……!
私が戻ると、中級で風属性のストームドラゴンが大きな首を持ち上げて、ブレスの用意をしていた。
「襲い来る砂塵の熱より、連れ去る氷河の冷たきより、あらゆる災禍より、我らを守り給え。大気よ、柔らかき膜、不可視の壁を与えたまえ。スーフルディフェンス!」
Bランク冒険者ルチアのブレス防御魔法は中級ドラゴンのブレスを防ぎ切り、終わると同時に砕けて散った。
「セーフでしたね……」
苦笑いする彼女に、よくやったわと告げる。あまり長引かせないようにしないと。
「流氷の海を漂い、厳冬を割り泳げ。寄るべなき窓辺を叩き、
カステイスが冷たい空気と氷をもたらす、水属性の中級攻撃魔法を唱える。
竜の腹に当たり、のけ反る内にリエトが槍で攻撃して脇に退避、私は近づきながらまずは巨大な炎を吹き付ける魔法を唱える。
「赤き熱、烈々と燃え上がれ。火の粉をまき散らし灰よ散れ、吐息よ黄金に燃えて全てを巻き込むうねりとなれ! 燃やし尽くせ、ファイアー・レディエイト!」
炎と氷、二つの魔法をぶつけてからドラゴンの足を剣で横なぎに斬ったが、さすがに中級は固い。これでも風属性のドラゴンは、基本的に物理よりも魔法防御が高い特徴がある。何とか物理攻撃をもっと与えないと。
背中の羽を切り落としたいが、私には少し力が足りない。でも、痛めてしまえば飛べない筈。リエトが槍でドラゴンを引き付けている内に羽の付け根に攻撃し、跳ぶことは阻止できそうだ。
ドラゴンが手を振り上げてリエトを狙ったところで、ルチアの魔法。
「揺るがぬもの、支えたるもの。地よ、汝の印たる壁を打ち建てたまえ。隔絶せよ!アースウォール!」
ドラゴンの手は魔法で出来た壁を壊すだけになり、リエトは無事だった。
カステイスは弓を放ち、竜の顏や腹に矢が突き刺さる。
確実にダメージを与えていく。そしてまた竜がブレス!
今度は私がスーフルディフェンスを唱えた。
「大丈夫よ!この調子で倒せるわ!」
とにかく皆を鼓舞しなきゃいけない。カステイルは頷いてから、すぐに何かに気付いて左側の岩山に視線を巡らせ、張り詰めた様子で声を荒げた。
「イヴェット、急いでとどめを! 何か近づいてくる……!」
「チッ……! 行くわよ、リエト!」
ブレスが途切れると同時に、攻勢に移る。
まっすぐに駆けて勢いのまま突っ込み、腹に剣を振り下ろす。リエトは攻撃してくる腕を槍で狙ったが、振り払われて岩まで飛ばされた。背中を打ち、その場に
危なかったけど、カステイスの矢が竜の首を貫き、痛みにのけ反ったところに剣を突き刺して炎魔法を叩き込み、倒すことができた。
ルチアはリエトの回復をしている。
しかし喜んでいる暇はなかった。
黒い、何かが岩山の向こうにいる。ゆっくりと動く、蛇型のわりに太く厚い皮膚をしたその物体は……。
今にもブレスを吐こうと予備動作を開始した、黒い巨大な龍!
「ヨ……ヨルムンガンド……、上級の闇のドラゴン……!!」
カステイスが叫ぶ。
絶望的だ。こんな相手……。四元の属性、地水火風のドラゴンよりも倒しにくい。
闇と光は、それらの上位属性にあたるのだ。ここにいつものパーティーのあの二人がいたら、せめて逃げるくらいは可能だったろう。
強大なヨルムンガンドの口が大きく開かれ、黒くおぞましいブレスを浴びせてくる。
防御も間に合わない、もう終わりだ……!
「スーフルディフェンス!」
女性の声。
ぱあっと光の壁が私達の前に発生して、ブレスは完全に防がれた。
まさか、上級ドラゴンのブレスを一人で完璧に!? 他の三人も、唖然としている。
「へえ、ヨルムンガンド。これは……厄介だね」
「残念であったな、これはドラゴンティアスは取れぬぞ」
「え、ダメなんですか!?」
「闇属性ドラゴンのものは、汚染されておるのだよ」
あの三人だ。異変に気付いて来てくれたらしい。しかし女はなぜ、ドラゴンの素材ばかり気にするの。倒さなきゃ採れないわよ……。
「貴方達、き……来てくれたの!?」
魔法使いの女性、ルチアが震える声で叫んだ。上級のドラゴンが出現したのでは、普通なら仲間を置いても逃げるような状況だ。
「……僕達を置いて逃げても、誰も責めない。犠牲は少ない方がいい!」
カステイスはAランクの
「置いていくなんて、とんでもないですよ。では補助魔法を掛けます」
そういって女……イリヤと名乗っていた、彼女は攻撃力増強の魔法を詠唱した。てっきり攻撃魔法を使うかと思ったのだけど。
「旗を天に掲げ土埃りをあげよ、大地を踏み鳴らせ。我は歌わん、千の倍、万の倍、如何なる軍勢にもひるまぬ勇敢なる戦士を讃える歌を! エグザルタシオン!」
「お~、これがイリヤ嬢の魔法の効果! さすがだね」
ベリアルという悪魔は空中から、エクヴァルというDランク冒険者は左側に展開して、ヨルムンガンドに立ち向かう。
その間にイリヤはまた魔法を唱えていた。私は初めて聞く詠唱! カステイスを見たが、彼も知らないようで、首を横に振った。
「原初の闇より育まれし冷たき刃よ。闇の中の蒼、氷雪の虚空に連なる凍てつきしもの。煌めいて落ちよ、流星の如く。スタラクティット・ド・グラス!」
ヨルムンガンドの頭上から、巨大な一本の氷の柱が出現し、鋭い先端が竜の背を刺し貫く。
「フグアァァア!」
痛みで竜が叫ぶ。何て攻撃力の魔法!
ベリアルは巨大な竜の鱗をやすやすと切り裂き、背中の羽根を切り取ってしまう。
エクヴァルの方は腹側に剣を振ったと思えばすぐに返し、瞬く間に二度三度と切りつけていった。早過ぎて私にも解らないほど。
「何をしているの! カステイス、矢で手を撃つのよ!!」
あまりの状況に呆然としてしまったカステイスに、イリヤが喝を入れる。
竜の手がエクヴァルを狙っているのだ。
「す、すまない! すぐに援護する!」
さすがにAランク、流れるような動作で矢を
「いいね、楽しいね! これでこそ戦闘だ!!!」
……エクヴァルのヤツ、笑ってる。こいつはヤバイ。これからは関わらないようにしよう。
ボンボンと炎が
イリヤはカステイスに矢で顎を討つよう指示し、ブレスを使わせないようにしている。ルチアにも顎を魔法で狙わせ、自らはストームカッターでヨルムンガンドの首を切り裂いた。
あれは中級魔法のわりに威力が大きい方だけど、そんなものじゃない。おかしい程の切れ味だ。
「攻撃を中止! こちらに一旦退避!!」
イリヤが声を張り上げると、跳んで竜の腹を斬りつけたエクヴァルが、空中で体勢を直して腹を蹴り、そのまま彼女の方へ飛ぶ。器用な男ね。私もすぐさま戻った。
何が起こるんだろう?
またブレスで、固まって防御魔法を使うのかしらと考えていると、地面でくゆっていた火が再び赤く燃え、朱色の線が走る。
そしてヨルムンガンドを囲み、一気にマグマのような紅蓮が地面から噴き出して、上位の龍を激しく焼くではないか!
どういうこと! 何の魔法!?
オレンジ色に照らされて、ベリアルがふわりとイリヤの横に降り立つ。
「準備を終えると、よく解ったものよ」
「一度見ておりますから」
「一度で発動のタイミングまで読まれるとは……」
ベリアルは溜息をついて髪を掻き上げた。どうやら、自慢の技を簡単に見抜かれてしまったらしい。確かにそれはショックだ。
ヨルムンガンドはこれで完全に倒せた。ある程度弱らせてからとはいえ、鱗まで丸焦げだ……。なんて威力なんだろう。
倒れたヨルムンガンドの後ろには鱗が数枚落ちていて、これを持って帰ることになった。
「……あ! 申し訳ありません、緊急事態だったもので、呼び捨てにしてしまって!」
突然イリヤが頭を下げた。何を気にしているんだか。
「変なこと気にするのね。誰も気にしてないわよ? これからも呼び捨てでいいわ」
「こちらこそ助かりました! ありがとうございます。」
私とルチアが言うと、なんだか照れくさそうにしている。おかしな子。
でも、戦闘も指揮を執るのも、慣れているのかも知れない。軍と関わりのある娘なのかしら。
「じゃあこれ、ヨロシク!」
落ちていた鱗を拾ったエクヴァルが、私達にそれを渡してくる。
「君達が倒したんじゃないか! これは受け取れない。他の二人だって、どう思うか……!」
カステイスの反応も、尤もだ。しかしエクヴァルは楽しそうに笑っている。
「いやいや、実はちょっと訳ありで。ほんとは目立っちゃダメなんだ。だから、こうやって押し付けようと思ってね」
「そうね、それでいいんじゃないかしら。私は素材が手に入ったから、十分ですよ」
「我は関心がないな。好きにせよ」
ベリアルは周りを見渡していた。次の獲物が欲しいようにも思える……。
なんだろう、このフリーダムな三人組!
とりあえず、ヨルムンガンドの鱗は私達が受け取り、フェン公国での宿代なんかを出すことにした。そんなものでは全然足りないのに、割と嬉しそうにしてる。
背中を打ち付けたリエトは、ルチアに回復魔法を使ってもらっても、まだ痛そうにしていた。
するとイリヤが白い瓶を取り出し、患部を出すように告げる。
「痛み止めです、塗っておきましょう」
「では、同性の僕が」
カステイスが軟膏を受け取って青黒くなっている患部に薄く塗り、瓶を返した。
その瓶を目にしたエクヴァルが瞬きを繰り返し、次の瞬間苦笑いを浮かべている。
「イリヤ嬢……それって」
「お薬ですよ? 痛みは引きます」
にこにこしてるけど、何? 何の薬? おかしな薬じゃないでしょうね!
いや、そんな娘には見えないけど……!
リエトは痛みがすぐに弱くなったといい、私達は岩山を降りて町へ向かった。
フェン公国はマナポーションの輸出や、魔法関係が主な産業。
山に近い、この国で二番目に大きな都市、グリナンスンで一泊することにした。
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