第17話 エルフと会いました
猫人族の村を出た私たちは、薬草の群生地を教えてもらい、森の奥へと向かった。
「あああ、最高……! これで上級ポーションが作れる……!」
人の手があまり入らない場所らしく、質のいい薬草がたくさん生えている。
採取しつつ進んでいくうちに、やたら背の高い木が並ぶ場所に出た。時折動物か何かなのか、ガサリと葉を揺らして小さな生き物が走って行くのが見えた。
道は曲がりくねって、青い不思議な蔦が大木に絡んでいる。
「止まれ! この先に何の用だ!?」
突然どこからともなく声が響く。
「え? この先……?」
何があるんだろう? そもそも、この声はどこから? 高い場所からに感じるけれど、木霊して位置が特定しづらい。
男の人の、割と若い感じの声だ。
「知らぬふりか? ここは通さない!」
キラリ、と何かが光った。そして点が飛んでくる。下がろうとして、道に伸びたくねった木の根で踵が止まる。
飛んできたものは、矢。足元を狙って威嚇として放たれたソレは、地面に着く前に火に包まれて燃え尽きた。
「エルフ族であるな」
「エルフ……」
ベリアルの言葉を繰り返す。エルフに会えるものならと期待していたのだけど、まさかこんなに好戦的だとは思わなかった。エグドアルムは人間以外の種族を入国禁止にしていたので、色々な種族に会えるのを楽しみにしていたのにな。
「な……なんだ!? 女! そのような恐ろしい存在を従えて、我らが里に何をする気だ!?」
敵意の理由にやっと思い至った。エルフは猫人族より更に魔力が高く、また敏感だ。ベリアルに恐ろしいものを感じ取って、警戒を強めているんだ。そしてこの道の先にエルフの里があるのね。
「大変失礼いたしました。私はチェンカスラー王国のレナントという街より、薬草を探しに参りました、魔法アイテムの職人です。この森の事は人伝に聞いただけなので、あなた方の里のある場所も存じ上げません。別の道を進みますので、どうぞご心配なきよう」
どこまで見えているのか解らないが、お辞儀して戻ろうとしたところ、木の葉がガサガサと揺れて、高い枝から弓を携えたエルフの男性が軽快に飛び降りてきた。
金色の髪と瞳、噂通りの長い耳。肌は白っぽく、緑色の服に胸当てを装備している。着地の拍子に矢筒に入れられた矢羽が軽く跳ねた。
「……こちらこそ、早とちりをしてしまって申し訳ない。どうやら賊の類ではないようですね。実は最近、エルフの子供が消える事件がありまして。昨日は更に大人一人と子供二人、三人も森から帰らないのです。……今は厳戒態勢になってまして」
申し訳なさそうに頭を下げる若い男性。そういえば来る前に、盗賊が暗躍しているから護衛を雇った方がいいと、私も言われていた。人さらいまでするなんて……深刻な状況のようだ。
「それはさぞご心痛なことでしょう。もし何か見かけましたら、お知らせいたします」
「ありがとうございます。私はユステュスと言います。モンティアンのユステュスです。エルフ族と何かありましたら、私の名を出してください」
矢を射かけた事を申し訳なく思ってくれているようで、お詫び替わりと言ったところだろうか。
「私はイリヤと申します。こちらは私が契約している悪魔、ベリアル殿です。悪魔と何かありましたら、彼の名を出してください」
「イリヤ! 勝手に我の名を使うな!」
「私の名では何もならないと思いまして……」
「当然であるが、軽々に過ぎる!!」
同じようなお礼がいいかと思ったのだけど、やはり軽挙だったようだ。とはいえこのエルフは信頼できる、と思う。失敗を素直に謝ってくれる人には好感が持てる。
ユステュスは私たちのやり取りを見て、困ったように笑っている。
「ところで、モンティアンとは?」
「ああ、それはこの森の名です。人族の間ではエルフの森と呼んでいるそうですが」
なるほど、エルフの森としか知らなかったわ。
「そうだ」
ユステュスが何か思い出したというようにポンと手を叩いた後、ちょっと待ってて欲しいと言い、木の上に軽く飛んだ。細い枝を揺らして移動し、元居た場所にいったん戻る。森に住む種族だけあって、跳躍力に優れている。
そしてすぐに何かを手に戻ってきた。
「お詫びです、こちらを差し上げます。今年はよく採れたので、余ってるんですよ」
それは、ハイポーションの材料にもなる薬草と、マンドラゴラだった。
最高過ぎる……!
そういえば、エルフ族はマンドラゴラの栽培に成功したって聞いたことがあるわ! マナが溢れる地でしか収穫できない魔法植物を、こんな簡単に手に入れられてしまうなんて!
「まあ……! こんな貴重な、素晴らしいものを……! 遠慮なく頂戴いたします、とても助かりますわ。では……」
私はお礼になるものを探す為に、アイテムボックスを探った。薬品類の製作はエルフも得意そうなので、他の物が良いだろうか。よく考えたら、自分で使う物以外は大した物を入れていない。
ふと指に当たった、赤い石のついたブレスレットを取り出す。盗賊が増えて危険らしいし、これならば災いから身を守ってくれるはず。うん、喜ばれそう。
「これはベリアル殿が魔力を込めて下さったものです、どうぞお受け取り下さい」
「……そなた、それは我が昔に与えたものではないか。持っていたのか。なぜ使わん?」
「え? 確か、売るなり何なりしろと仰られたような」
「そのような貴重なもの、頂けませんよ!」
ユステュスが遠慮するが、私も頂きっぱなしというわけにはいかないので、何とか受け取ってもらった。
そして素材の取れる場所や、街への行き方を聞いて別れた。
ベリアルは納得できないようで、珍しく独り言を言っている。
「せっかく我が直々に、守りの力をつけておいたものを……。どうりで発動せんわけだ」
「申し訳ありません、でも私が持っている物の中でお礼になりそうな価値のあるものが、他に思い浮かばなかったので……」
「……そなたのポーション類は十分に足りる品ぞ」
全くと呆れながらも、ベリアルはちょっと嬉しそうだった。
しばらく進んだ先に教えられた澄んだ湖があり、その周りには湿地に咲く花などが咲き誇っている。木漏れ日が光の筋を作って湖面を照らしていて、キレイだし神秘的。
景色を眺めたり見つけた素材を採取したり、出てきた魔物を倒したりしている内に、道に迷ってしまった。薬草探しばかりしていたから、どこかで曲がるべきところを見落としていたのかも知れない。森の道は目標になるものも少ないし、慣れていないと難しい。
「堂々と進んでおるから、解っているとばかり思っておったわ……」
視線が痛い。
ゆっくりしていると暗くなってしまう。ベリアルに先の様子を見てもらう間、少し休んでいることにした。
「はあ~、……私って薬草とか魔法の事になると、周りも時間も気にならなくなっちゃうのよね……」
さすがにちょっと反省している。
だから気が緩んで、反応が遅れたんだ。
無防備な後ろから首に衝撃を与えられ、声をだす間もなく意識が闇に溶けた。
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