第6話 おともだち(アレシア視点)

 商業ギルドを出た私とイリヤさんは、商店街へと足を向けていた。

 お互いに想像していた以上の収入になった。私は素材を販売した半分のお金を受け取れたし、イリヤさんはポーションを売る事が出来た。しかも上級なんて、私が見たのは初めて。その辺のちょっとしたお店に売っているものではないし、この辺で作れる人は限られているからだ。

 イリヤさんはこのレナントで作製したアイテムで登録して、販売を開始するらしい。イリヤさんが作るアイテムを売らせてもらうのが、とても楽しみ。出来る事なら、ポーションの作製を見学させてもらいたいな。


「イリヤさん、何か買いたい物ってありますか?」

「そうですね、日用品と……、とりあえず食料でしょうか」

「じゃあまず歯ブラシとかタオルとか、揃えましょうか!」

 私はそう言って、少し後ろを歩くイリヤさんの手を取った。二,三歩いた所で、一緒に居るのがいつもの妹でないと思いだす。

「ご、ごめんなさい!いつもキアラと歩いてたから……!」

 慌てて手を引っ込めた私に、イリヤさんが柔らかく笑った。


「構いませんよ。私も人ごみは慣れておりませんから」

「そうなの……? あの、私には敬語、必要ないですよ? 私の方が年下だし、お友達になったんですし」

「……友達?」

 聞き返されて少し焦った。こんな素敵な人の友達とか、失礼だったかな……?

 次の瞬間イリヤさんは、祈るように両掌を胸の前で組んだ。


「いいんですか!? お友達になって下さいます!??」

「え、はい。もうお友達だと思ってたんですけど……?」

「本当ですか!? 女の子のお友達が欲しかったんです! 周りは男性だらけでしたし……」

 え、逆ハーレム? ハーレムだったの? しかもお友達というだけでこんなに喜ぶなんて。ギルドでの振る舞いからして、固すぎて声を掛けづらかっただけじゃないかな……?


「お友達で、仕事仲間ですよ!」

 私はイリヤさんの両手を手を握った。

「はい! これからよろしくお願いします!」

「こちらこそ!」

 往来で何の挨拶をしているのだろう……。ちょっと恥ずかしいけど、堅いと思ってたイリヤさんのはしゃいだ姿はとても可愛らしく見えたし、こんなに喜んでもらえるなんて嬉しかった。

「お友達とお買い物……。楽しいですね!」 


 ニコニコと笑うイリヤさんと、日用雑貨のお店で生活に必要なものを購入して、食料は屋台で買うことにした。焼いた肉を串に刺したものとか、具がたくさん挟んであるパン、蓋付き容器に入ったスープなど、昼過ぎから広場にはたくさんの屋台が出ている。

「どれもこれも美味しそう……! アレシア、お勧めってなにかな?」

「やっぱりあのボアの肉を焼いた串とか、甘く煮た果実が乗ったパンとか……」

 一回りしながら物色している私たちに、不意に聞き覚えのある女性が大きな声で話しかけてきた。


「アレシアちゃん! 良かった、無事に街に着いたのね!」

 私がお世話になった冒険者グループ「イサシムの大樹」のメンバーだ。イサシムは出身の町の名前、大樹は町の真ん中にあるシンボルなんだそうだ。

「レーニさん、この前はどうも」

 男性三人、女性二人の五人のグループで、レーニさんは治癒師の女性。赤茶の髪を三つ編みにしている。もう一人のおかっぱの女性が、魔法使いのエスメさん。


「全くリーダーったら……、後払いにしても良かったのに。こんな可愛い姉妹を放っとくなんて、信じられないわ」

 エスメさんは帰りに雇うお金が足りなくて困っていた時、私の事は信用できるんだからお金なんて後でいい、と言ってくれた。あの時はとても嬉しかった。でもお仕事なんだから、払えないものは断られて仕方ないと解ってる。


「仕方ないだろ……。あの時は別口にいい依頼があったんだしさ」

「無事だったし、良かったって事で! おかげで俺達もついにDランクさ!」

 リーダーでツンツン髪の剣士のレオンさん、いつもお調子者な、ひょろっとした弓使いラウレスさん。

「昇級おめでとうございます! でも、護衛費が高くなるから、もっとお願いしづらくなるね……」

「はは、この前は悪かったからなあ。しばらく据え置きでいいよ」

 そう言ってくれるのは、背が高くてガッチリ体型の重装剣士ルーロフさん。口数は多くないし怖そうだけど、優しい。


「でも、おかげで素敵な事があったんです! 魔物に襲われた所を、このイリヤさんに助けてもらって。彼女、ポーションが作れるんですよ」

「イリヤと申します。以後お見知りおきを」

 あ、お仕事モードイリヤさん。頭を下げる仕草がとってもきれい。

「ど、ども! イサシムの大樹のリーダー、レオンです! 護衛とかありましたら、是非、指名してください!」

「同じくラウレスでっす! ヨロシク!」


 男二人の食いつきがやたらいい……。イリヤさん清楚で美人だからなあ。女性陣はジトッとした目で二人を見ている。ルーロフさんは、仕方ないなっていう表情だ。

 そもそもイリヤさん、護衛いらないんじゃないかな?本人が魔法を使えるし、ベリアルさんはとても強いみたいだし。

「イリヤさんのアイテムは、私が販売させてもらう事になってるから! 買いに来てね~!」

 宣伝も忘れない。

「「それはもう、絶対行きます!!!」」


「……いつ頃から販売するの? レーニもいるけど、回復アイテムは持っておきたいわね」

 既にデレデレの男二人を横目に、魔法使いのエスメさんがイリヤさんに直接話しかけてきた。 

「申し訳ありません、この街には到着したばかりでございます。明日材料を揃えるところから始めますので、少々時間が掛かると思います」

「そうなのね。まあ、ポーションができたら見せてもらいたいわ。リーダー、グリフォンを倒すって聞かないのよ。できれば中級くらい欲しいわ」

 エスメさんは言う事は少し冷たかったりするけど、ほんとはとてもいい人なんだ。困ってる時に誰よりも親切にしてくれる。でもなんだか今日は、いつもより態度がキツイ感じ……。男たちがだらしなくするからなの?


「材料が整い次第、作製させて頂きます。どの程度必要ですか?」

「……どのくらいって……アナタ、中級ポーションよ!? そんな簡単に作れるの!?」

「材料さえ揃いましたら、可能です。」

 迷いなく答えるイリヤさんに、エスメさんが驚いて詰め寄った。他のメンバーは、思いがけない成り行きにぽかんとしてる。中級ポーションは現在品薄で、商人に伝手がないと、なかなか入手できないのだ。

「イリヤさんはエグドアルム王国から来たの! 上級だって作れるわ!」

 私が胸を張って自慢すると、えええっ!? と五人全員が感嘆する。うわあ気持ちいいなコレ……!


 なんだか質問攻めになりそうな雰囲気だったので、私たちはさっさと五人と別れた。

 そして夕飯を買って帰り、お互いの部屋に戻る。

 ふと悪魔も人と同じ物を食べるのかなと思ってイリヤさんに聞いてみたら、高位になるほど必要なくなるけれど、食べることは出来るしマナだけで済ますこともできるそうだ。

 便利でいいと思った。

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