第36話 罪の告白

 去年の春、私はゼーマン社の経営戦略室室長の黒沢さんから電話をもらい東京でその人に合いました。


 その時の話の内容はゼーマン社がペールキューブ社を買収するために、現在進行中のUG保険向けタブレットの商談を一旦破談に追い込めというものです。しかもゼーマン社が買収した後でこの商談を挽回させろと言うのです。

 その見返りとして私を営業部長として迎え入れると約束してきたのです。


 私は散々悩みましたが、ご存知のように今の会社の中では皆さんに嫌われる万年係長です。元は里中さんの下で開発の仕事をしていたのですが、失敗ばかりしていたので彼に追い出されるように営業に飛ばされてしまったんです。

 営業へ行ってからも上司や、検査部の外山部長から散々意地悪をされました。そんなこともあって、私はその話を承諾することにしたのです。


 UG保険の商談は見積もり構想の段階でペールキューブ社のタブレットが3D画像ユニットを搭載することもあって断然有利な状況でしたから競合相手のスンファン電子を大きく引き離していました。


 そこで私はある計画を立てました。

 一つ目は里中さんを辞めさせてラボトライ社へ行かせる。

 二つ目はスンファン電子に3D画像処理ユニットを供給させる。

 三つ目は里中さんにタブレットの火災事故を起こさせる。

 四つ目はこの一連の事件をスンファン電子の仕業と思わせる。


 一つ目の方法は非常に難しいミッションでした。その頃の里中さんは早川部長と、とても良い関係で会社を辞めるなどという状況では全くありません。その内里中さんが早川さんの家の近くにマイホームを建てるという話が出て、引っ越しをしたら両方の娘さんは同級生で同じ中学校へ通う事がわかりました。


 そこで私は里中さんの家の近くのアパートを借り、早川さんと里中さんたちの情報収集を行ったのです。その結果、早川さんの娘さんが不良グループのリーダーであることがわかりました。私はこの娘さん達の仲を悪くできないかと考えていたところ、たまたま同じ中学で自殺未遂事件が起こったのです。

 私はすぐにこの事件を利用しようと思いました。自殺未遂の原因を里中さんの娘さんがいじめたことにする為に五ちゃんねるを使ってウソの書き込みをしたんです。

 これは非常にうまくいきました、ネットの住民がすぐに反応して里中さんの家を攻撃してきたのです。間もなくして里中さんの娘さんは学校へ行かなくなり、奥さんはノイローゼになって病院に入院してしまいました。

 私はこのチャンスを逃すまいと思い、安田さんにわかる様に『早川さんの娘さんは不良グループのリーダーだ』という情報を流したのです。彼女と里中さんがしばしば密会していることを知っていましたから。

 すると、里中さんと早川部長の仲が急に悪くなりました。そのタイミングで私は、秩父にラボトライ社という良い会社があることを彼に教えてあげました。案の定、彼はこの話に飛びついて転職と引っ越しを決心したのです。


 二つ目の方法は非常に簡単でした。スンファン電子の柳さんにUG保険の前で会った時、里中さんがラボトライ社へ転職したことを教えてあげただけです。


 三つ目の方法は少し自信がありませんでした。私は再び安田さんに『早川さんの娘さんのハンドル名はblack_fox_chanだ』という情報を流したのです。

 実際に早川さんの娘さんは『black_fox_chan』という名前でSNSに書き込みを行っていたからです。そしてこのメッセージが功を奏して、早川さんに復讐することを思い立ったようです。


 四つ目は私に疑いの目を向けられないように初めから考えていました。

 この計画を練っていた時、最終的にUG保険の商談をスンファン電子に持って行かれない様にする為には、最初から彼らの仕業にしようと思ったんです。

ですから里中さんの家の近くのアパートに住むとき、柳さんの名前で借りました。

 その次に私は安田さんの動向を監視しました。

 彼女は里中さんがラボトライ社へ転職した後も仕事上の連絡を取り合っていたからです。

 ある日彼女のメールを盗み見ていたら、CPUの過熱問題を理由にタブレットを交換する際、火災事故を発生させることがわかったのです。そして交換されるタブレットの位置情報を調べる方法も知りました。

 私はこの情報を書いて池袋にあるスンファン電子の本社へ赴き、柳さん宛に手紙を投函したのです。全てが思惑通り進んでいると思っていました、椿坂さんが来る前までは。

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