第4話

 きっと忘れ物を取りに父さんだけ戻って来たんだろう。ぼ棚の上に会った綺麗な石の置物を手に取って、ドアの陰に隠れる。

 父さんが、キッチンの奥に入る足音がする。そして、シンクのある方向から金属を抜くような金属音がした。

「ごめんなあ、三葉、四美子」

 父さんが、近づいてくる。

「ごめんな、ごめんな、謝るから。一郎と二佳を殺したのは悪かったから、だから出て来てくれ。出てきたら話し合おう、な?」

 声が近付いてくる。ぼくは息を殺し、石の置物を構えた。

 

 ドアが開いた。

 その瞬間現れた人間の頭部に向かって、思い切り置物を突きこんだ。

 父さんのほっぺに命中した。そして彼が包丁を取り落とし、聞くに堪えない悲鳴を上げる。

 ぼくはその瞬間を見逃さず、すかさずもう一発を顔面に、二発目を首筋に叩き込んだ。さらに三発、四発……と叩き込むにつれ父さんの声は聞こえなくなっていった。

 いつの間にか、父さんは動かなくなった。背筋を、心地の良い冷たさが駆け抜けていく。

 その快楽に浸りそうになって、ぼくは忘れそうになっていた。

 危ない、危ない。

 

 まだ、母さんは外にいるはずだ。父さんが戻るのが遅いなら、いつ母さんが来てもおかしくない。

 急いで四美子を迎えに、棚に行った。

「お、お兄ちゃん。体が真っ赤だよ」

「大丈夫。それよりはやく煙突に行こう」

 ぼくは四美子に笑いかけると、手を取って隠し部屋に入った。


 以前より、もっと鉄の匂いが濃くなっている。

「あ、この床に散らばってるの…お兄ちゃんの体についてる赤色と同じ」

 四美子がぼそりとつぶやく。

「いいから、行こう」

 急いで手を掴み、煙突に辿り着く。

 そして僕が先に入る。

「いいかい四美子。見本を見せるから」

 そう言うと、ぼくは両手両足を踏ん張って煙突を登り始めた。

「わ、わたしにもできるかな」

「出来るよ」

 そう言うと、四美子も登り始める。

 ぼくは踏ん張って登りながら、狭い煙突の上を覗く。確かにそこには、きれいな青空と、流れる雲があった。

 間違いない。

 あそこからぼく達は、外に出られる。


「ちょっと。遅すぎるわよ。一体何してるの」

 お母さんの声が聞えて来た。

 

 足音が、廊下の方から聞こえてくる。そして、大きな悲鳴が聞こえた。

「ちょ、ちょっと。なんで、なんでこんな事になって。何で、殺された? え、え?え?」

 母さんが大声を上げている。その隙に、ぼくは登り続けた。

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