戦いの果てに…

夢猫 遊子

第1話-動き出したモノ-



リネア : 一国の姫であり王女。父である国王が亡くなったため、リネアが王位に就く。

純粋でまっすぐな心根を持つ。



シエル : リネア付きの女騎士。

幼き頃からリネアに仕え、護り支えてきたためリネアからの信頼は厚い。



レイ : リネアの国を手中に収めようと現在進軍中の隣国の王。

その言動から冷徹非道のように思えるが、民や配下の者達からは慕われている。



ロデリオ : レイ付きの騎士。

レイを心の底から慕っており、自身が仕える王はこの御方しかいないと心に決めている。




※門番・兵2 : ロデリオと兼役


兵1 : レイと兼役


民 : シエルと兼役




上演時間 : 20分


比率

♂2

♀2






✯*・☪:.。✭*.+゚☪︎*。꙳✯*・☪.。



リネア「シエル!シエルはどこ!?」



シエル「はっ!ここに…」



リネア「ほっ…、今の状況は…?」



シエル「現在も変わらず、武装した隣国の兵が城に矢を放っております」



リネア「…ねぇ、どうしたらいいの?

我が軍の兵力も数も、あちらには到底及ばない。それに私、戦争なんてしたことないのよ!?

この籠城だっていつまで耐えられるか…」



シエル「姫様、お気を確かに。

兵力は劣っているかもしれませんが、士気は衰えていません。それに、懇意にしている国に先程早馬を出させました。早ければ明日にでも援軍を送ってくれるでしょう」



リネア「そうなのね…。良かった…。

なら、それまで持ちこたえなければ!

私も城門まで出るわ!」



シエル「姫様何を!?

危のうございます!姫様に何かあったら兵たちも…」



リネア「(少し被せて)そんなこと言ってられないわ!

震えてるだけじゃ駄目なのよ…。私がしっかりしなきゃ。

それに私はこの国の王女なのよ!兵たちも命懸けで戦ってる。…だから私は行くの…」



シエル「ご決意は固いようですね…。

…ふ、解りました。姫様は言い出したら引きませんからね。…どこまでもお供します」



リネア「ありがとう、シエル…」




同時刻、レイの陣営にて


レイ「どうだ…?城を攻め落とせそうか?」



ロデリオ「…いえ、なかなかしぶとく…、もう少し時間がかかりそうです」



レイ「そうか。…ふっ、まぁ良い。あちらの方から手招きしてくれるらしいからなぁ…」



ロデリオ「はい、そのことで少々お伝えすべきことが…」



レイ「ん…?なんだ?」




リネアとシエルは城門へ


シエル「これは酷い…。

姫様、あまり直視なさいませぬよう…」



リネア「いえ、この国の為に散っていった者達ですもの。私は目を逸らさないわ。

…ごめんなさい…、でも貴方達の命を決して無駄にはしない。この国を守ってみせる!」



シエル「…ふ…、立派になられましたね。

お父上が突然亡くなられて姫様が王位に就くと決まった頃は、見ていられない程消沈なされて、まるで魂だけどこかに行ってしまわれたようでした…。

けれど、少しづつ元気も取り戻され今ではこんなに立派な王女になられた。

…私などもう必要ない程に…」



リネア「何を言うの!

シエルがいつも…どんな時でも側にいてくれて、支えてくれたから今の私があるのよ…?

…だから、これからも側にいて?

シエルがいてくれるだけで、私はどんなことでも乗り越えられる気がするの。貴女のお陰で強くなれるんだから…。

だから、ね…?」



シエル「…はい…。姫様がそう仰るのであればこのシエル、いつまでも姫様と共に…。

でも…ふふ、そうでした。姫様はまれに動揺でご自分を見失うことがおありでしたね。

まだ目が離せませんね」



リネア「なっ!そ、それは…そうかもしれな…」



シエル「(被せて)危ないっ!!

……くっ…、姫様、ご無事ですか…?」



リネア「シエル!!腕がっ!!

…待ってて!今矢を…」



レイ「聞こえるか!!王女よ!!

もう籠城も辛かろう!そろそろ門を開けて国を明け渡してはどうだ…?」



リネア「っ…!そんなの…そんなのできるわけないじゃない…。

この国は、貴方になんか渡さない!!私が最後まで守って…っ!」



リネアを突き飛ばすシエル


シエル「ようやくここまで来ましたか…。

待ちくたびれましたよ…」



リネア「…シエル…?」



シエル「はぁ…、お陰でこんな怪我までしてしまったじゃないですか…。

さぁ、門を開けろ!!」



門番「シ、シエル様何を!?」



シエル「門を開けろと言っただろう…?

私は頼んでいるわけではないのだ…。いいから開けるのだ!!」



門番「は、はっ!!」



シエル「…ふふふ…、それでいい」




門が開かれる


シエル「お待ちしておりましたよ…?レイ王…」



レイ「…あぁ」



ロデリオ「 レイ様、こちらが例の者です」



レイ「解っている。

さて、お前は国と引き換えに何を望む?欲する物を何でもくれてやろう…」



リネア「…国と…引き換え…?

ねぇ、シエル…。どういうこと…?ねぇ…」



シエル「(被せて)五月蝿い!!」



リネア「ひっ!!」



シエル「…あぁ…、やっとこの時が来たのだな…。

やっと…やっと小娘から解放される…。

ずっと煩わしかったのだ。一人で国を治めることさえできないお荷物同然の姫を、側で護り支えるのがどんなに苦痛だったか…」



リネア「そんな…」



シエル「あぁ…そうだ。

早馬を出させたというのも嘘ですよ…?

だから幾ら待とうが援軍など来ない…。

…ふふふっ!いいではないか!この国は滅ぶべくして滅ぶのだ!!」



リネア「もうやめて!!」



シエル「やめて?いや、貴女は知るべきだ。父親の犯した悪行を…!

…私はね、この国の生まれではないのですよ。

私の生まれた国はそれは豊かな国でした。皆の笑顔が絶えない、そう…この国のような…。

だが…、あの前王が全てを奪ったのだ…」



リネア「…え…?父上が…?」



シエル「そう…突然我が国に攻め入り滅ぼしたのだ…。ふふ…どうやら財宝が目当てだったようだがな…。金目のものを見てほくそ笑んでいたあの顔は忘れはせぬ…。

そして王に仕えていた幼き私に対しこう告げたのだ…。命が惜しくばこれからは私に仕えよ、と…」



リネア「そんな…!嘘よ…。父上がそんなことするはずが…」



シエル「何も知らぬ無知な姫よ…。これが紛れもない事実なのだ…。

…あぁ、長話にお付き合いさせてしまい申し訳ございませんレイ王…。

私の欲する物は…」



レイ「…くく…、くはははははっ!!」



シエル「…レイ王…?」



レイ「幼き頃から仕えた姫を捨て、己の復讐の為に国を滅ぼす…か。

何と信義も忠誠の欠片もない女だ…。

これが騎士か?はっ!聞いて呆れる!!

…ふぅ、興が醒めた。ロデリオ、行くぞ」



ロデリオ「はっ!

そこの者、この女はこの国の裏切り者だろう?捕まえなくていいのか…?」



兵1「は、はっ!

…こちらへ…。貴女をこんな形で捕まえたくはありませんでしたが…」



シエル「…は、はは…、なんだというのだ…?

国が欲しいと言うから手を貸したのではないか…。それの、何が気に食わぬと言うのだ!?」



兵2「暴れないでください!貴女をあまり傷つけたくはないのです!」



レイ「お前は解っていないな。国は自らの手で手に入れてこそ価値があるのだ。

俺はどこまで自分の力が通じるのかを知りたかった。だから国を攻めもした。

最初から、お前の力など必要なかったのだ」



シエル「…馬鹿な……くっ!」



ロデリオ「レイ様、もう日が暮れます。

陣営までは…っ!?」



シエル「動くな…。レイ王貴方もだ…。

この者の命が惜しいだろう…?」



兵1「おやめください!!その様なことをしても貴女の罪は消えないのですよ!

これ以上罪を重ねないでください!!」



シエル「罪は罪…。幾ら罪を犯そうが変わりないではないか…。

なぁ、レイ王よ。私と取り引きをしないか…?」



レイ「…何だ?今度はロデリオを人質に取り、逃げようという腹積もりか?

ふ…、馬鹿なことを…。

殺すなら殺せば良い。その様に簡単に人質になる騎士など、俺には必要ないのでな」



ロデリオ「…レイ様…」



シエル「…ふふ…、あはははははっ!!そうか…。

解った。なら別の取り引きだ。

今ここに雷管と言うものがある。作るのに苦労したが…、ふふ、これはな?貴方達程度なら簡単に消し去ることができる代物だ…」



ロデリオ「なっ!?」



リネア「…シエル…」



シエル「まぁ本当は、この導火線に火をつけねばならないが…、今はそんな余裕もないしな?

だがそれをせずとも、この辺り一帯を火の海にすることくらいは可能だろう…。

…どうだ…?幾らレイ王と言えど、配下の命は差し出せても自分の命は惜しかろう?」



レイ「…くく…、俺も安く見られたものだ…。

命など、いつ失うかわからぬ不確かなもの。

それに、戦争を始めた時から既に捨てたも同然のものだ。俺は構わぬぞ?やるなら早くやれ…」



シエル「…くっ…!……はは…、己の命すらいらぬとは…。なら…、望み通りにしてくれる!!」




雷管を投げつけようとするシエル


ロデリオ「させません…!!」



シエル「ぐっ…!」




ロデリオに鞘で腹を突かれた拍子に、雷管はシエルの手からこぼれ落ちる


シエル「…こ…の……はぁ、はぁ、はぁ…、…貴様あぁ!!」




ロデリオの前に進み出てシエルの剣を受けるレイ


レイ「はあっ!」



ロデリオ「レイ様…!!」



レイ「…ふっ、なんだ…?もう逃げるのはやめか?

ここまで計画し、実行したにも関わらずこのザマとは…哀れだなぁ…!!」



シエル「くぅっ!!」



レイ「お前の様な者が俺から逃げ果せるとでも…?

復讐するにも誰かの手を借りねば実行できぬ…。

一人でやる度胸もなく、失敗したら早々に逃げようとする…。

くく…、馬鹿らしい…」



シエル「…黙れ…、黙れ黙れ黙れえぇ!!」



レイ「…ふ…、所詮その程度か…」




斬られる


シエル「ぐはっ…!」



リネア「きゃあぁぁ!!」



ロデリオ「レイ様!お怪我はありませんか?」



レイ「あぁ、問題ない」



リネア「いやぁぁ!!シエル!!…シエル!!」



シエル「……ぐぅ…、まだ…死ねぬ…。私は…こんな所で…死ぬわけには…いかぬのだ…!」



リネア「はっ…!シエル!?」




雷管を手に取り、門の外まで這いずっていくシエル


シエル「…がはっ!!…はぁ…はぁ…、貴様等諸共…消し炭にしてやる…」



ロデリオ「しぶといですね…」



レイ「…そこの者、弓を貸せ」



門番「はっ!」



レイ「…ふっ…!」




弓を放つレイ


シエル「ぐはっ!!…っ!うわあぁぁ…!!」



リネア「きゃあぁぁ!!…あ、あぁ…いやぁ……シエルっ!!」



レイ「雷管とやらが発火したか…」




そのまま跳ね橋から転げ落ちる様に海へ


リネア「あ、あぁ…」



レイ「ふぅ…済んだか。

…何だ…?くく…、俺をその様な目で見るとは、どうやらこの国の民どもは命がいらぬようだな…」



兵2「くっ!…お前のせいで、たくさんの仲間が死んだ…。シエル様までも!

許せん…。せめて…その命、ここに置いてけぇ!!」



リネア「やめてぇ!!」



兵2「っ…!?」



リネア「…もう、…もう、誰の死も見たくないの…。

お願いだから…もうやめて…!」



兵2「…王女様…」




剣を鞘に収める兵


レイ「ふっ、甘いな…」



リネア「っ!」



レイ「生きていれば死は付いて回るものだ。

愛する者が殺されれば殺した相手を憎む、そしてその憎しみは膨れ上がりいつかは復讐へと姿を変えるだろう。

国が欲しいと戦争を起こせばまたそこにも死人は出る。そういうものだ」



リネア「それでも…!…それでも、復讐を思いとどまる者もいるかもしれない!

私はそう信じるわ…」



レイ「くくっ!やはり甘いな…。

だが良いだろう…。そう信ずるのであれば、その様な国を、その様な心を持つ民が暮らす国を作ってみせろ!」



リネア「…えぇ、作ってみせるわ…。

そして貴方にその考えが間違っていたと気づかしてあげる…!」



レイ「良いだろう…。

ならばその時は国を攻めにではなく、隣国の王として国を訪れようではないか」



ロデリオ「レイ様、その様な約束をしていいのですか?」



レイ「構わん、俺が言い出したことだしな。

…ではな、楽しみにしているぞ…王女よ」




レイとロデリオが城から出ていく


兵2「王女様…」



リネア「ふふ…、あんな約束をしたのだから頑張らなくちゃね。

…皆さん!戦争は終わりました…。…国を裏切った者もいなくなりました…。

この戦いで、たくさんの命が散りました…。

でも私達は生きています!死んでいった者達の分も生きなくては!

そして、生きる為にはまず生きる場所を作らなくてはなりません!

この国を、また皆さんが笑って過ごせる…いいえ、それ以上の豊かでそして安心して暮らせる国を作りましょう!

…私に、力を貸してくれますか…?」



兵2「もちろんです!王女様!!」



民「みんな思いは一緒です!」



兵1「作りましょう!そんな国を!!」



一同「(おー!など、みんなでガヤガヤ)」




その頃、レイとロデリオは…


レイ「どうした?先程から黙っているが…」



ロデリオ「…レイ様、例えレイ様が必要ないと仰られても、このロデリオをレイ様のお側で仕えることをどうかお許しください」



レイ「くくっ、何を言うかと思えば…。

あぁ、好きにするが良い」



ロデリオ「レイ様…、感謝致します…」




同時刻、城から少し離れた岸にて


シエル「…ふふふ…、生きている…。私は生きているぞ…!

レイ…許しはせぬ…。必ず貴様に…そしてあの国に復讐を…!ふふっ!ふはははは…!!」





~END…?~






あとがき*。


リネアが一国の王女になった後も何故シエルは《姫様》と呼び続けていたのか…。

リネア自身は、幼き頃からの慣れ親しんだ呼び方なのでそこまで気にはしていなかったようですが、シエルとしては、リネアが王女になろうと姫は姫。

例え王女であろうと幼き頃の無力であった頃と変わりはないと、蔑んで《姫様》と呼んでいたのです。



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戦いの果てに… 夢猫 遊子 @yumeneko_yuko

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