第8話 決戦

 決戦の時は来た。すべての授業が終わり、部活をしていない生徒たちが帰るか遊びに行く時間。僕は一人、着々と服を着替え化粧を施していく。自分でも見違えるほどの変わりようだ。一龍は気づいてくれるだろうか?いや振り向かせてみせる!


「えっと、これは」

「ラブレターじゃないか!ついにお前にもモテ期が!」

「そんなじゃないだろ、たぶん」

 生まれてから貰ったことのないものを貰っても実感というものがない。うれしいが。

「放課後、教室に来てくれか…予定はないが」

「だったら行けばいいじゃないか、こんな機会めったにないぜ」

「そこまで言うなら行ってみるか」

 ワープロ打ちだが明が書いたような文章に見える、どうせいたずらの類だろうが今までこんなことなかったんだ行ってみてもいいだろう。


 来た!階段を上り、廊下を渡り、教室の前に立つ影。見間違えようない背の高さ少し猫背気味の姿勢。恐る恐る扉にかける手の大きさ、何もかもが一龍であることを示していた。

「誰かいるか?」

  扉を開けて見渡して僕を見て、驚いてそれから近づいて。

「君がこの手紙を?」

「うん、そうだよ。僕が出したんだ」

「まさか、唯和か」

「流石だね、この前は気づかなかったけど」

 あの時は女性ものジーンズに少し大きめのパーカーを着ていた。けど今日は一龍が好きな短パンにシャツ、ジャケットでボーイッシュといった感じだ。化粧は素人で知らない部分が多く、水を掛けられて粉上のものを肌に乗せたことくらいしか分からなかった。こんなきれいな肌見たことないってぼやきながら理子は教えてくれた。

「見違えたな…女子にしか見えなかった」

「ありがとう、ほめてもチョコしか出ないよ?」

「…俺にくれるのか」

「当たり前だよ、君が好きだからね」

「うれしいがそういうのは俺とかじゃなくて本当に好きなやつにあげるべきだ」

「そうだね君はそういうやつだった…しかたない直接伝えるからちゃんと聞いてね」

 一龍が鈍感なのは今に始まったことじゃなかった。気を取り直して、覚悟を決めて思いを乗せて。

「一龍!僕は君が好きです。付き合ってください」

「俺に言ってるのか?」

「他に誰が!」 

「…気持ちはうれしいが俺とお前は男同士だし、それに付き合うとかそういう事はお前とは考えられない」

「僕は考えられるし、君にもそういうことを考えてほしい。君が好きになれる努力はするし、好きになってほしい!」

「違う!お前の事は好きだ!だけどな俺にとってお前は天使のような存在なんだ、そこに居ることだけでいいんだよ…決して俺の物にはならないんだ」

「どうして諦めちゃうの自分の物にならないって!」

「憧れなんだよ!ずっと見ていたいんだよお前を、俺にないものをたくさん持っていてずっと俺のそばにいるそんなお前が好きなんだよ。それを壊したくない」

「今を壊してでも僕は君一人いればいいんだ、弱っていた時に励ましてくれた。困った時に助けてくれる君が居れば」

「…本気か」

「最初からそう言ってるだろう」

「分かった…付き合おう」

「…うん!」

 お互いの思いを吐露し、理解しあった二人は自然と近づいていきゆっくりと唇を重ね合わせた。

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