第2話 知り合いに電話して呼び出したらひどいことを言われた件

月代彌香菜美の友人・天寺美癒(あまでら みゆう)。

理不尽な招集に応じ、身支度を整え、旧友の部屋を彼女が訪れたのは19時過ぎ。

2つ年上のはずの招集主が大の字になって玄関入り口で不貞腐れているのを見て、毎度おなじみの光景ながらも彼女は額に手を当てて大きくため息をついた。


「月代彌さん、なんですか急に」

「遅いよーみゆみゆー」

「なんですかその呼び方は。というか、寄り付くなっ」


這いつくばりながら足に抱き着いてくる月代彌香菜美。手をふくらはぎに滑らせる仕草はさながら蛇のよう。

天寺美癒に2度3度ゲシゲシと蹴り払れたあと、悲しむ素振りも見せることなく月代彌香菜美は立ち上がってくわっと口を開いて声をあげた。


「というか、ひどいんだよ!白河も荒川も、連絡しても誰も反応返してくれないの!こんなに私が何度もコールしてるのに!ひどくない?」

「私にはくれましたよ」

「なんで!?」

「いやまぁ」

 バレンタインですし。そう明言すると致命的にめんどくさい展開になるなぁと予感した天寺美癒、とっさに口を紡ぐ。

「…なんだかんだ忙しいのでは」

「忙しいって何?みんな何か用があるってこと?2月14日に?」

 天寺美癒は思った。あ。これどう転んでもめんどくさい展開になるやつだ。



 それから30分かけ、天寺美癒は月代彌香菜美から話を聞いた。



 話を聞き終え、玄関の扉を開けて立ち去ろうとした天寺美癒を月代彌香菜美が必死に抑え込む。具体的には背中から組み付いて離そうとしなかった。

「なんで帰ろうとしているの!?」

「いや、私も暇に糸目をつけないみたいな人生を送ってはいないので」

「みゆみゆに見放された私どうすればいいの!?」

「さすがにソシャゲだけで休日潰すような人はちょっと」


 言い終えて後ろを振り返る天寺美癒。割とガチ目に涙を零している月代彌香菜美と目を合わせてしまい、少したじろぐ。


「えー…本気で泣いているヤツはやめてくださいよ…」

「だってっ、かなかながっ、ひどいこと言ったっ」



 天寺美癒は基本的にいい子であった。

 友人知人間で「月代彌香菜美の電話は9割方どうでもいいやつだから、まぁ適当で」という認知が大半を占める中、もしかしてがあるかもしれない、という理由で彼女の家を訪れるくらいには。

 それゆえ、その涙は彼女の心持ちに大きく作用した。


「泣かないでくださいよ、少しくらい付き合いますから」

「少しっ?」

「えっと、じゃあ少しじゃなくて――」




 嗚咽を漏らす中にも傲慢さが見える眼光の輝き。

 それを一瞬揺れた精神状態で探れるほど、天寺美癒の観察眼は高くはなかった。

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