光
王子が妹たちの申し出を拒否したことは無い。
だから今日も拒否されるという考えは毛頭無かった。
「駄目だよ。この子だけは、貸してあげられない」
王子は申し訳なさそうに、しかしながら強い意志を持って言った。
姫は言葉を失った。
甘えた声で頼んでも同じことで。
どんなに丁寧に扱うからと言っても、王子は譲らなかった。
鳥を貸してくれなかったことよりも、拒絶されたことがこたえた。
そして憤らせた。
自分たちよりも弱いくせに、生意気な。
二人はどうにかして鳥を奪ってやろうと画策を始めた。
王子は鳥籠に入れた白い鳥を大そう可愛がっていた。
どこへ行くにでも連れて歩き、入浴中ですら目の届くところに置いた。
食事をする際も傍に鳥籠を立て掛けていたので、王妃は酷く嫌がっていた。
双子姫は王子の隙を虎視眈々と狙っていた。
そしてとうとう彼女たちは成し遂げた。
王子が少しのあいだ、鳥籠の傍から離れた隙に短刀で鳥を刺し殺したのだ。
鳥籠の元へ戻った王子は真っ赤に染まった鳥の亡骸を目にして叫んだ。
「リュクス!」
己の手や服が汚れるのも厭わずに鳥をすくい上げて。
「リュクス! ……そんな……リュクス……!」
ぼろぼろと涙を零し、その名を繰り返した。
そして自分に仕えていた執事が死んでしまったときのことを思い出していた。
「また、失うなんて…………」
すると動かない鳥から声がした。
『泣く必要はございませんよ、ベリアル様。お忘れですか? 私は悪魔です。この身体は死にましたが、すぐに新しい身体で再生致します。ご安心ください』
「リュクス!? 良かった、生きてるんだね? 良かった! 良かった……!!」
王子は血に染まった鳥をぎゅうっと両手で掻き抱いた。
何度も何度も、良かったと繰り返して。
形振り構わず感情を露わにした王子を目にしたのは初めてのことだった。
頬ずりをしたせいで白い頬は血で汚れ、それがかえってとても美しく見えた。
その満面の笑みに悪魔は思わず嘆息し、暫し魅入った。
こんなに心を奪われる人間は初めてだった。
愛を搾取され続け、それでも誰かを愛し続ける。
そんな人間は見たことが無かった。
悪魔ですらも心から愛することができる人間がいるなんて。
悲しみや怒り以外の感情でも胸が苦しくなることを、悪魔は初めて知った。
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