EP25 彼の本性は神のみぞ知る



その場にいる者全員がカディルの言葉に息を飲んだ。『利用価値』なんて不道徳な言葉が、善良のかたまりのような彼の口から飛び出すのはかなり度肝を抜かれる。


リッカルドなどは鯉のように口をパクパクさせている。


「カ、カディル…」


やっとのことで言葉を発したリッカルドは手の平をカディルに向けて『ちょっと、待て』という仕草をした。


「ーー?はぁ?」


先ほどの鋭い瞳の輝きはなんだったのか。

カディルは間が抜けた調子で答えた。


「なんです?皆さんまで私から距離を置いて…おかしいですねぇ、お風呂は入りましたけど…臭います?」


後ろを振り返って一同の顔が引きつっているのを見て、カディルは心配になった。

クンクンと袖の匂いを嗅いでみる。


「バッカ!違うって!カディルが人が変わったみたいに怖いこと言うからみんな引いてんだろっ」


リアムがわめく。


「……ああ」


なんだ、とホッとしてカディルは微笑んだ。先ほどのシリアスな彼はもう微塵も感じない。代わりに、申し訳なさそうに困った顔をした。


「それはすいませんでした。私は至極自然にお話したつもりだったのですが、怖かったですか?ーーそうですか、フムフム。私もたまには真面目に話す時くらいあるんですけどね」


じゃあいつもは…。

穏やかすぎて周りからはチョロいキャラ設定の彼だが、実は作られた人格なのかもしれない、と密かにみんなからの評価が変わったことにカディルは今後も気づかないだろう。


気を取り直してランベールは話を戻した。


「僕もおおむねカディルの仮説に賛成だね。ヴィクトーなのかバルバトスなのか分からないけど、フィラを手に入れるために時空の亀裂を作り出した。そう考えれば納得いく」


アレクスも頷いた。


「しかし、時空の亀裂から現れたフィラは偶然にもカディルの屋敷に堕ちてしまった。相手にとってそれは誤算だった、というところか」


「よりによって強力な結界が張られている神域に堕ちちゃったわけだ。魔族や黒魔導士は手出しできないもんね」


リアムも得心したようだ。

アイシャとリッカルドは目を合わせた。


「うむ。その仮説ならフィラがリッカルドに謁見するために王宮に来た時を狙われた理屈が通るな。ーーどうだ、リッカルド?」


「ーーーー…」


顎に手を当てていたリッカルドはやがて頷いた。先程より生気のある顔をしている。

現実を受け入れる覚悟ができたのだろう。

その気持ちの切り替えの早さはさすがだと

言える。


「私もカディルの仮説に同意する。フィラがこの地に現れたのは何かしらの意味を持っていると考えよう」


しかしーー、とリッカルドは首をひねった。


「フィラは特別な力などないのだろう?

兄上はフィラを何のために拉致しようとしたのか…」


「あ!」「あ!」


アイシャとカディルが同時に叫んで顔を見合わせた。


しまった。忙しくて言い忘れていた。


「なんだ?」


「いや、実はな…」


代表してアイシャが説明を始めた。

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