EX2 月夜のモノローグ
ぱちりと、目を覚ます。
カーテンから漏れるほのかな月の光に、
私の左手は日和ちゃんの右手で固く握られていて、簡単に離れないようになっている。私は握られた手を確かめるように、少し緩めてからそっと握り返した。
この子は私がダメなところをいっぱい知っている。それらを知った上で私を認めて、好きでいてくれる。それにどこか安心感があって、この子には肩を寄せてもいいと思う。
今日、キスをしてからなにかがおかしい。いや、それより前から、この子といるだけで調子が狂うことがよくあったけど、いまはもっとおかしくなっている。
この子の前で上手くやろうとしても、全然格好がつかない。この子と会うたびに、私の思い描いていたヒーロー像は粉々に砕かれてしまう。
正直、怖くなかったかと言えば嘘になるけど、同時になにか安心感を覚えている自分がいた。
自分は憧れていたようなヒーローには向いてないのだと、私を捕らえていた見えない枷が外れたような、そんな気がする。それはいまの私にとっては、どちらかといえば良いことだったと思っていた。
改めてカナデお姉ちゃんに託されたものだから、私はまだヒーローを辞めるつもりはない。これからも、多分辞めるつもりもない。ただ、無理にヒーローぶるのを辞めるだけ。
これでもう、私の中のハイドはしばらく出てこない。ヒーローという妄執と溜めこんだ感情の入り混じったあの怪物は、しばらく生まれてくることはない。そう信じている。
誰かが内側さえ認めてくれれば、ハイドなんて生み出す必要もなくなる。それが私なりの『ジキルとハイド』の結論だった。ジキルの進んだ行く末は不幸だったけど、その点では私は幸せだと思う。
私は君に認めてもらえたから、ちょっとだけ肩の力を抜けた気がする。だから、君が私に好きでいてほしいと願うなら、私だってそれを認めてあげたい。
君の言う、好きという気持ち。いまでも完璧に分かるわけじゃないけど、これから少しずつ分かっていきたい。
私は日和ちゃんの寝顔に顔を近づけて、昼頃にしたように、こっそりと唇を重ねる。合間に柔らかい寝息が頬を撫でて、それがちょっとくすぐったかった。
どうにか起きないように気をつけながら顔を離して、寝る時の体勢に戻り、空いてる手で日和ちゃんの頭を軽く撫でる。
私はまだヒーローとしてダメダメだけど、もし君が困った時は助けてあげたいと思う。
君の言うヒーローがそういうことならば、私は少しは成長できたのかな。なんて思いながら、私はまた、明日へと進むために目を閉じた。
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