黄龍出現

片手を上げ、白雨の顔を掴んだ。





「うぐっ!」





呻いた声を出した白雨に驚いて、正義くんは顔を上げた。





「―さっきっから大人しくしてりゃ、調子付きやがって…! このチンピラがぁあ!」





ナイフを掴む手を握り、そのまま背負い投げをした。





「がはっ!?」





「ケンカ売る相手、完全に間違えたわね。アンタ」





「ひっひなさん?」





わたしは正義くんに視線を向けると、彼に近付き、





ぱぁんっ!





…頬を叩いた。





「えっ…」


「仮にも人を率いる者が、簡単に膝をつくなっ! みっともない!」





そう言って無理やり立たせた。





「何でわたしの言うことを聞かないの! 玄武が白虎に服従するなんて、前代未聞だわ! もうちょっと考えて行動しなさいよ!」





「かっ考えたさ! 服従したら、すぐに玄武を下りるつもりだった!」





正義くんは顔を真っ赤にして、叫んだ。





「それが無責任ってもんなの!」





わたしは正義くんの頬を、思いっきりつねった。





「ひっひだいっ! ひははん、ひらいっ!」





「頭の悪いコは、このぐらいしなきゃダメでしょ!」





最後に両頬をバチンっと叩いて、終了。





「翠麻くんや芙蓉さんのこと、言える立場じゃないわね。…2人のことは許してやんなさいよ」





「でっでもっ!」


「でも、じゃない!」





わたしの一喝に、彼は黙った。





「頂点に立つものなら、ケジメはちゃんとしなさい! 分かった?」





「はっはい…」





剣幕に押され、彼は素直に頷いた。





「それで良し!」





わたしは彼の頭を撫でた。





「てってめぇ…」





おや、倒したと思った白雨が、上半身を起こした。





ちょっと投げが甘かったかな?





「何モンだっ、てめぇ…!」





「女の子に向かって、汚い言葉を投げつけるのが、チンピラだってーのよ」





わたしは深く息を吐いた後、真っ直ぐに白雨を見つめた。





「―まさかこんな所で正体を明かすことになるとは思わなかったケド、これも運命なんでしょうね」





次に正義くんを見て、苦笑した。





きっと、彼と出会った時から、動き出していた。





わたしが今まで逃げていたことから。





でも…このことはわたし自身の責任でもあるから。





改めて白雨を見つめ、声高らかに言った。





「竜星会と空龍組―。二つの組織には十八年前、お互いに後継者がいたわ。竜星会は長男が、空龍組は孫娘がその地位を引き継ぐ予定だった。でも―」





ふと遠い眼になる。





「2人は年に一度行われる、全国の組織の会議で知り合い、恋に落ちてしまった。そして生まれたのが…」





息を思いっきり吸って、止めた。





「わたし、月花陽菜子よ」


「えっ…。ひなさんが…」





この場にいる全員が、眼を見開いた。





「許されない恋だったけれど、母がわたしを身ごもったことで、一応結婚は許されたわ。母が父のところに嫁入りする形で、話はまとまったわ」





当時はそれこそ血の雨が降ったみたいだけど…。





「けれど両親がわたしが両家の血を引く者として、将来をとても心配していたわ。だから父は、この学院を作ったの」





「そっそれじゃあ、アンタが…!」





白雨が震える指で、わたしを指さした。





「ええ、黄龍はわたしのことよ」





わたしはアッサリ認めた。





「父は将来、わたしの役に立つ手下を作る為だけに、この学院を設立したの。父は相変わらず龍星会の後継者だし、このぐらいは簡単だったわけ。そして黄龍の存在を根付けさせたのも、わたしの為よ」


将来、わたしは父の後を継ぐ―。





それはつまり、龍星会を継ぐという意味だ。





だがそれだけじゃ、収まらない。





「でもちょっと出るのが遅かったみたいね。黄龍の存在がこんなに根強かったなんて分かんなかったから、気にも止めてなかったのよね。だけど…」





わたしは正義くんと白雨を見て、ため息をついた。





「最近の出来は、あんまり良くないと見た」





「えっ! ひなさん?」





「父は将来、二つの組織を背負わせたいみたいだし、わたしもそのつもりで生きてきたけど…。部下候補のコ達がこんなんじゃな~」





「ちょっ待ってよ! オレ、ひなさんの為なら、何だってできるよ!」





「それがよろしくないと、言っているでしょうが!」





再び頬をぎゅぅっとつねる。





「あうっ」


「まったく…」





パッと手を離し、わたしは周囲の不良達を見回した。





「こんなんじゃ、二つの組織をまとめる者なんてできないじゃない。わたしは融合とまではいかないけれど、二つの組織の間に立つ立場にはいかなきゃいけないんだから、もうちょっとしっかりしてよ」





「うっ…」





「ごっゴメンなさい」





青城先輩と朱李ちゃんはわたしの気迫に驚いてか、すぐに謝ってきた。





「くっくそっ…! 黄龍が女だったなんて!」





白雨がゆっくりと立ち上がる。





正義くんがすぐにわたしと白雨の間に入る。





「ひなさん、下がってて。コレは同じ四獣神としての問題だから」





「でもアイツはそうは思っていないみたいよ?」





白雨は殺意を含ませた視線を、わたしと正義くんに向けてくる。





「ここで終わらせてやる! 四獣神も、黄龍もっ! 全部だっ!」





「あ~あ。逆ギレパターン。厄介なヤツねぇ」





「それでも一応強いから」





「アラ、わたしも強いわよ? 幼い頃からじーさま達に、しごかれてきたんだもの」





「それは分かっているけどさ…」





正義くんはわずかに頬を赤くして、わたしを見た。





「彼女の前ぐらい、カッコ付けさせてよ」





あっ、ヤバイ。





胸きゅーん状態に…。





「こんな時にイチャ付きやがって…!」





…白雨の言うことが、正しいな。


再び倉庫内に、殺気が満ちる。





う~ん。久々だなぁ。





この肌がチクチクするカンジ。





将来二つの組を背負う者として、幼い頃からしごかれてきた。





でも中学に上がる頃には、さすがに減っていた。





だからこういうシーンは、本当に久々!





血が熱くなる!





「じゃあ、決着、付けましょうか?」





わたしの言葉で、空気が固まる。





「古き校則を守るか、それとも新たな校則がはじまるのか―」





「勝つのは俺だ! 俺が全てを統べる!」





「頑張りなさいよ。でも、わたしは強いわよ?」





「くそぉお! ヤレっ!」


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