四獣神

「月花、無事か?」





「陽菜子さん! 大丈夫?」





…青城松本先輩と火祇朱李ちゃんだった。





しかも2人の後ろには、男女共々大勢の生徒が…。





「青城先輩に、朱李ちゃん…。…青竜に朱雀ってまさか」





わたしは白雨の顔を見た。





白雨は緊張した面持ちで、頷いた。





「青城松本センパイが青竜で、火祇朱李ちゃんが朱雀だ。でもどうして2人が月花ちゃんのことを…」





「…2人とはちょっとした知り合いで…」





まさか四獣神のうち、3人と知り合っていたとは…。





…これも縁なのかな?





「おい、白虎。素人には手を出さないのが、鉄の掟だろうがよ。何勝手に破ってやがんだ?」





青城先輩の体から、静かで重い殺気が滲み出てきた。





「しかも四獣神同士の争いに巻き込むなんて…! 四獣神の1人としての誇りを無くしたの?」





朱李ちゃんも険しい表情で、殺気を出してくる。





コレは…!





四獣神の1人だというのも、素直に頷ける。





でも正義くんも、彼等と同じ立場だ。





彼等と同じように、闘志に溢れた人なんだ。





…別に隠されていたことに、ショックは受けない。





お互いに詮索しないというのは、わたしから出した条件だった。





ただそれが…わたしが秘密にしていたことと、深くつながっていた事が、何とも言えないというか…。


「誇りを忘れたワケじゃない。ただ、玄武にはもう少し大人しくしていてほしいだけだ。お前らだって、そう思っているだろう?」





白雨はどうやら懐柔するつもりらしい。





2人は歩みを止めたが、殺気は止めない。





「確かに玄武は勢いが良い。けど若いヤツにはありがちなことだろう? てめぇだって、そうなんだからな」





地獄の奥底から響くような声に、思わず背筋が寒くなる。





「それにアンタより、玄武の方が話が分かるわ。アンタはただ、自分の力を誇示したいだけだもんね」





「言ってくれるな、朱雀。でもしょうがないだろ? 俺は白虎なんだぜ?」





「理由になるか! 一般人を巻き込んだことで、アンタは白虎の地位を剥奪されるわよ! 覚悟しといたほうがいいんじゃない?」





「おやおや、そりゃまいったね」





参った、と言うのは口だけで、態度は相変わらず軽々しい。





「―でも、その口塞いでしまえば、話は終わりだろ?」





パチンッと白雨が指を鳴らすと、いろいろな所から学生達が姿を現した。





けれど中には、美夜以外の制服を着ている人もいる。





「…ちっ。ここまで落ちたか、白虎よ」





「他校生を入れるなんて…! 呆れたヤツね!」





青城先輩も朱李ちゃんもそう言うけど、緊張感が顔に表れている。





―2人の手下と合わせても、この人数では勝負は五分五分か。





「あいにくとこの学校は俺には狭すぎてなぁ。優しい友人がたくさんいて、助かったぜ」




「…四獣神、3人を敵に回して、もし黄龍が現れたらどうするの?」





わたしは声をひそめ、白雨に言った。





「黄龍? そんなヤツ、いねーよ」





しかしヤツは鼻で笑った。





「創立十七年経っても、姿を現さない黄龍なんて存在いるかよ。はじめは理事長のことかとも思ったがな。そうでもねーみてーだし」





「でも四獣神のお互いの立場は、同じでなければならない。その掟を破れば、ただでは…!」





「それすらも良しとする立場に、俺がなれば良いだけだ」





「自分で黄龍になろうと?」





「―ああ、そりゃ良いね。美夜の卒業生も在校生も全て掌握できる存在なんて、ステキだな」





白雨は野心に満ちた眼をする。





「でも黄龍はここらを取り締まるヤクザの血筋だって聞くけど?」





「ああ、しかも全国のヤクザをも支配できるって話だろ? ありえねーよ。そんな存在」





けれどわたしがいくら言っても、白雨はバカにするだけ。





「ここ東日本を取り締まる最大の組織・龍星会と、西日本を取り締まる最大の組織・空龍組の血筋を組む者こそが、黄龍だって話だがな。そんな存在、いたとしたらとんでもねーだろ?」





「…確かに、ね」





「俺が思うにだ。学院側はそうやって架空の存在を出して、生徒達の心を支配したいと考えたワケだ。黄龍なんて存在、ウワサだけでも存在したら、おっかなくて中々悪さができねーからな」





「まあ、ね」





「そんないもしない存在に、いつまでも怯えてちゃなんねーワケよ。俺は」





「あっ、そ」


「だから、俺が取り締まってやんのよ。―ここをな」





「全てを、でしょう?」





「話が早くて良いねぇ。月花ちゃんは。アイツらもそうだと良いんだが」





そう言って、緊迫している2人に視線を向ける。





2人も、2人の部下達も今は動かない。





動いたら、始まって、終わる。





そしてわたしは…巻き込まれる。





…あまり良い結末ではないな。





そう冷静に考えていると、新たに倉庫に駆けつけて来た人物がいた。





「月花さんっ! ご無事ですか!」





「月花っ! 大丈夫かっ!」





翠麻と芙蓉だった。


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