明かされる彼氏の秘密

美夜の学校は、相変わらずウワサ通りに荒れていた。





いたる所からアルコールの匂い。





生徒達も一目で不良というのが分かる。





わたしは久々に背筋に汗をかいていた。





かなりマズイことになっていることを、自覚していたからだ。





「―こっちだ」





白雨は校舎から少し離れた倉庫の扉をアゴでさした。





手下と思われる生徒が、鉄の扉を開ける。





まるで港の倉庫みたいな建物だ。





「ココ、本来の使い道は何だったの?」





「多目的倉庫だとよ。外で使う体育の備品とか入れてたらしいけど」





今はアナタの本拠地と化しているんですか。





中に入ると、不良のたまり場そのものだった。





あちこちに酒瓶と、タバコの吸殻。そして…エロ本が転がっている。





でも奥の方に行けば、ソファとテーブルのセットが置かれてある。





立派な家具は、白雨がそれなりの権力を持っていることを示す。





「さて、そこに座ってくれ」





白雨は1番大きなソファーに座り、わたしは一人かけソファーを勧められて座った。





「自己紹介がまだだったな。俺は2年の白雨しろう弓寅てとら。よろしくな。月花ちゃん」





「っ! わたしの名前をっ…!」





「知ってるよ、モチロン。玄武のお姫様だもの」





「玄武? お姫様?」





わたしは思わず顔をしかめた。





玄武とはまとめ役の一人の名称だ。





それとわたしが何の関係があるというのか。


「玄武―私立美夜学院・高等部1年、夜上正義クンのことだよ」





「はっ…?」





正義くんが、玄武?





…この美夜学院のまとめ役の一人…?





「あらら、本当に何にも知らなかったんだ」





ショックを受けているわたしを見て、白雨は笑った。





「…お互いのことを詮索しないのが、付き合う条件だったのよ」





「それがアダになっちゃったワケだ。玄武は有名だよ、ここでは。1年だけど、小等部の時から暴れん坊として有名だったからね。でも最近」





白雨は目を細め、わたしを見た。





「彼女ができて、浮かれているんでね。今が好機と、ちょっと暴れさせてもらってたんだ」





「じゃあアンタが原因でっ!」





翠麻達が言っていたのは、コイツのことだったのか!





「まっ、それも今日までだ。いい加減、こっちとしても決着をつけたいからな」





「…でも四獣神は4人いるからこそ成り立つんでしょう? 彼を叩いたら、バランスが崩れるんじゃないの?」





「詳しいな。でも大丈夫。俺は別にヤツを叩こうなんて、コレっぽっちも思ってないから」





ワザとらしく、肩を竦めて見せる。





「じゃあ…何が目的?」





「うん、あえて言うなら、少し玄武には大人しくしててほしいんだ」





「大人しくって…。そんなに暴れているの?」





「自分の領域に入ってきたもの、あるいは荒らすものには容赦ないよ、彼は。だから俺も動きにくい」





「領域を守るのが、四獣神の役目だからでしょうが!


そんなことしたら、他の3人がっ!」





「あっ、大丈夫。1人は俺だから」





そう言って白雨は自分を指さした。


「えっ?」





「あっ、言ってなかったっけ? 俺、四獣神の1人で白虎なんだ」





「…じゃあこの騒ぎは、四獣神同士の…」





「ああ。滅多なことじゃ四獣神同士はぶつからないが、珍しいことじゃないんだ」





…厄介だな。





立場が均等している者同士の戦いは、めんどくさい上に厄介なのを知っている。





「彼が大人しくしてくれることを約束してくれるなら、俺はキミに危害を加えないって約束するよ」





…このことを翠麻達は予想していたのか。





きっと彼はこの条件を飲んでしまうと分かっていて…。





完全にわたしの失態だ。





彼に合わす顔が無いな。





「に、しても」





いきなりアゴを捕まれ、上を向かされた。





「全然怯えないんだな、月花ちゃん」





「―あいにくとアナタ達みたいなのには慣れててね。簡単には怯えるような女じゃないのよ」





わたしは白雨の手を叩いて、顔をそむけた。





「いいねぇ。ちゃんとした女、俺の好みだよ」





「残念。わたしは正義くんの彼女だから、ムリ」





「どうかな? 無理やり奪ってしまうことだって、できるんだが」





挑発的な視線を受け止め、わたしも睨み返す。





「アンタじゃ役不足よ。引っ込みなさい」





「あはは! 役不足ときたか!」





白雨は手を叩き、涙を浮かべるほど笑った。





「俺のオンナになりたいってヤツ、結構いるんだけどな」





「じゃあその子らを相手にしてなさい」


「うんうん。そういう気の強いところも良いな。玄武が惚れるワケだ」





正義くん…本当に来るかな?





…というより、翠麻が正義くんに言うだろうか?





この場合、翠麻と芙蓉の2人が来そうだ。





わたしのことは絶対に見捨てられないだろう。





でも正義くんに負担がかかることは、絶対にしないだろうな。





ふと、外が騒がしくなった。





「おっ、早いな」





「えっ、まさか…!」





驚いて腰を浮かすと、扉が開いて、一人の不良が飛び込んできた。





「びゃっ白虎っ! タイヘンです! 朱雀と青竜がっ!」





「あ?」





わたしと白雨は思わず首を傾げた。


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