会えない寂しさ
「はぁ…」
ケータイの待ち受けを見ては、ため息ばかり。
夜、わたしは自分の部屋でぼ~としていた。
つい三十分前、正義くんとあんなに話してたのに…。
話せば話すほど、寂しくなる。
待ち受けには、安らかな寝顔の正義くん。
彼も今頃、わたしと同じように待ち受けを見ながらため息をついているんだろうか?
またため息をつくと、いきなりケータイが鳴った。
この着信音は…。
「正義くん?」
慌てて通話ボタンを押した。
「どっどうしたの?」
「ひなさん…。ゴメン、窓の外見てくれる?」
「えっ?」
わたしは慌ててカーテンを引いて、外を見てみる。
すると道路に正義くんが…いた。
「えっ、えっ。どうしたの?」
「ゴメン、どうしても会いたくて…。今、どうしてもダメかな?」
正義くんが泣きそうな顔で、こっちを見ている。
「…ちょっと待ってて」
そう言ってケータイを切った。
父さんがいない時なら、お母さんに言えば外には出られる。
けれど今は、父さんがいる。
…しかも玄関を通る時に必ず通る、リビングに。
ちょっと考えた後、わたしはケータイを見た。
そしてお母さんに電話した。
「あら、どうしたの?」
「あっあのね!」
簡単に事情を説明すると、お母さんはゆっくりと答えた。
「分かったわ。お父さんはこっちで引き止めておくから、行ってらっしゃい」
「ありがと!」
わたしはすぐに下におりた。
すると廊下にお母さんがいて、笑顔でリビングに入っていく。
―今のうちだ!
父さんはお母さんにベタ惚れだから、意識がお母さんに向いているうちに、玄関を出る。
「正義くん!」
「ひなさん!」
道路に出ると、すぐに正義くんが駆けつけてくれた。
だから思いっきり彼に抱きついた。
「ゴメンなさい! …ホントはずっと会いたかったの」
「オレも…ゴメン。ひなさんを困らせるって分かってて、来ちゃった」
「でもよくウチが分かったわね」
「あっ、ゴメン。実は…ひなさんをつけてたんだ」
「…尾行したってこと?」
「ホント、ゴメン! でも一回だけだから!」
彼の顔が暗闇でも分かるぐらい、真っ赤に染まった。
…ヤレヤレ。
尾行には気をつけていたつもりだったんだけどな。
知っている人だと、気もゆるんでしまうのかな。
それが…正義くんだと、特に。
「とりあえず、家から離れましょう。近くに公園があるから、そこへ」
「うっうん」
家の前で騒ぐのは、さすがにマズイ。
近くに児童公園があって、わたし達はそこへ移動した。
ベンチに並んで腰掛ける。
「あの…ね。実は言ってなかったことがあるの」
わたしは思いきって、翠麻のことを言うことにした。
「うん、なに?」
わたしは彼の眼を、真っ直ぐに見上げた。
「翠麻くんのことと芙蓉さんのこと…」
二人の名前を言うと、彼の表情が固まった。
「えっ…。ひなさん、どうして二人のことを…」
「ちょっと前に、声をかけられてね」
「二人とも正義くんのことを心配して、わたしの所に来たの。正義くんがその…美夜の学校の人とトラブっているって…」
「アイツら…!」
「あっあの、怒らないであげてね!」
彼から殺気立つオーラを感じて、わたしは慌てて止めた。
「それでわたしにも危険が及ぶかもしれないから、しばらく正義くんに会わないようにって言われたの。翠麻くんからは1ヵ月以内には片がつくからって言われたし、それならと思って…」
「オレと会うことを控えてたんだ」
「うん…。ホント、ゴメン。翠麻くんのこと、何となく言い出しにくくて」
「いや、オレも知らなかったのが悪いし」
正義くんは深く息を吐くと、罰が悪そうな顔をした。
「美夜とは…確かに今ちょっとゴタゴタしてる。ひなさんに危険が及ぶことは絶対に無いとは言えないし、オレもずっとひなさんを守れるワケじゃないから…。藤矢や楓のしたことを、責められないケド…」
「うん…」
「でも…寂しいな」
正義くんは優しくわたしの肩を抱いて、引き寄せてきた。
「わたしもすっごく寂しかった。…でも確かにわたしが足手まといにならない可能性はゼロじゃないから」
「うん。ゴメン、オレにもっと力があったら、ひなさんと一緒にいられるのに…!」
ぎゅっと肩を掴む手に、力が込められる。
わたしは正義くんの体に寄り掛かった。
「あと少しで解決できるって、翠麻くんは言ってたけど…本当なの?」
びくっと彼の体が震えた。
少し唇を振るわせた後、苦しそうに唇を噛んだ。
「…多分。藤矢がそう言うなら。アイツは食えないところがあるけど、言ったことは必ず守るヤツだから」
「仲が良いのね。芙蓉さんとも付き合い長いの?」
「あっああ、二人とも幼馴染だから。ずっとオレの面倒を見てくれてて…」
「ふふっ、良いわね。正義くんのこと、わたしよりも分かっているみたい」
「そうかな? でっでも、オレの1番はひなさんだから!」
「うん、知ってる」
弱々しく微笑みながらも、顔を上げると…正義くんの顔が近かった。
そりゃそうか。こんなに密着しているんだもの。
「ひっひなさん…」
彼の顔が近付いてくる。
わたしは目を閉じて、感覚を唇にだけ集中させた。
―はじめて触れた彼の唇は、とても優しくてあたたかかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます