クレープ屋の前で会った女子学生

その後、公園の前を通った。


かなり広い公園で、中には屋台が並んでいたりする。


その中で、珍しい光景を目にして、わたしは思わず立ち止まった。


美夜の女子学生がいる。


黒いセーラー服は、高等部の証。


彼女はおかっぱの黒い髪がとてもキレイで、顔立ちもキレイだ。


しかし…挙動不審。


さっきからクレープ屋の周囲をウロウロ、行ったり来たり。


クレープ屋の近くにいる女の子達は、妙な顔をしている。


あのクレープ屋は美味しいと評判。


多分…食べたいんだろうな。

けれど恥ずかしいのか、中々並べないでいるみたい。


そのうち、並んでいる女の子達がヒソヒソ話はじめた。


「美夜の女の子…」


「たかりに来た?」


ヒソヒソ話のつもりだろうが、ちゃんとわたしや彼女の耳に届いていた。


彼女は耳まで顔を真っ赤にして、俯いてしまった。


「はあ…」


今日は厄日だろうか?


正義くんとは会えないのに、美夜との学生にはよく会う。


しかもトラブル真っ只中で。


わたしは歩き出した。


そして彼女の腕を掴んだ。


「えっ…」


「何食べたいか、決めといて」


わたしは彼女の腕を掴んだまま、列に並んだ。


すると女の子達の話し声も止まった。


「今日のオススメは…ピーチクリームロールとアップルカスタードか」


背伸びして、看板を見ながら言った。


ちなみにオススメにはサービスがあって、トッピング無料。


チョコとかコーンとか好きなだけ頼んで良い。


「わたし、ここのクレープ、久し振りなのよね」


「そっそう…」


消え入りそうな声。でもキレイな声だ。


「前は女友達と来てたんだけどさ。最近、彼氏が出来てね。彼とも来ようかと思ってたところなの」


「…ふぅん」


「でね…」


わたしは自分達の番が来るまで、一方的にしゃべり続けた。

彼女は頷くだけだったけど、手を振り払ったり、嫌がったりはしなかった。


「さて、やっとわたし達の番ね。何食べる?」


「えっええっと…」


彼女はメニュー表を見て、戸惑っていた。


「もしかして…クレープ食べるの、はじめて?」


彼女は再び真っ赤になって、頷いた。


「ん~。ならわたしのオススメで良い?」


「うっうん…」


…美夜にあるまじき、大人しさだな。


「じゃあ今日のオススメのピーチクリームロール1つ、フルーツ付けてください」


「はい」


「あとアップルカスタード。チョコスプレーと生クリームを付けて…」


…ととっ、クレープだけじゃノドが渇くか。


「それとウーロン茶2つ」


「かしこまりました。少々お待ちください」


しばらくして注文の品が来たので、わたしは手を離した。


「はい」


わたしはピーチクリームロールとウーロン茶の紙コップを彼女に差し出した。


「あっありがと」


わたしは財布を取り出し、会計を済ませて、自分の分を持った。


「あっ、お会計」


「後で良いわよ。それよりアッチに行って、食べましょ」


先に歩き出すと、彼女もついて来る。


うう~ん。やっぱり大人しいな。


そして公園の中で、噴水近くに来た。


ベンチに座ると、彼女も座る。


「ここで良い?」


「うん…」


彼女はクレープをじぃ~と見た後、大口で頬張った。


「! 美味しい…」


表情に喜びの色が滲む。


「それは良かった。ではわたしも」


はむっと食べる。


うん♪ カスタードと生クリームの甘さ、そしてリンゴの酸っぱさにチョコのカリカリ具合がステキ♪


半分ほど食べたところで、ウーロン茶を飲んだ。


「友達とかと一緒に来ないの?」


わたしはそう言って、声をかけた。


「とっ友達は、こういう所、来ないから…」


「ふぅん。あっ、ねぇ、交換しない? わたし、ピーチも食べてみたいな」


「ふぇっ? あっ、うん」


彼女は恐る恐る半分を差し出してきた。


そして交換して、食べる。


「うん♪ ピーチも美味しいわね」


「りっリンゴも美味しいね」


二人でニコニコしながら、間食。


「あっ、お金払うね」


慌ててお財布を取り出す彼女。


「良いわよ。今日はわたしのオゴリ」


「でも…」


「代わりに今度ここで会ったら、クレープ奢ってね」


「えっ…それって…」


わたしはカバンを持って、立ち上がった。


「わたしは光輪学院・高等部2年の月花陽菜子」


「あっあたしは美夜学院・高等部1年の火祇

かし

朱李

しゅり


「それじゃあ後輩クン、またね!」


わたしは笑顔で手を振り、駆け出した。


…ヤレヤレ。


今日は早く家に帰ろうと思っていたのに。


思いのほか、遅くなってしまった。


ケータイを開くと、正義くんからのメールがたくさん来ていた。


「会いたいな…」


会いたいけど…会えない。


言いたいけど、言えない。


…いつまでガマンできるのかな?




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