自動販売機の前で出会った不良

「ふぅ…」


アレから、学校の用事が忙しいのだとウソをつき、彼と会うことは避けていた。


だけどその分、さみしさを埋めるように、よく電話やメールをするようになった。


そんな中で彼がさみしがっていることを、感じていた。


でも…わたしには何にも出来ない。


翠麻からも、連絡がくる。


何とか1ヵ月以内には、事が片付くとのことだった。


別に翠麻からは口止めされてはいない。


だから聞こうと思えば、聞けるハズだった。


彼と―美夜の関係を。


でも…あくまでもわたしは…。


「あ~、くそっ!」


がんっ!


大きな声と音に驚いて顔を上げた。


数メートル先の自動販売機の前で、一人の学生が機械にあたっていた。


周囲にいた人は、さっさと逃げていく。


何故なら学生の着ている制服が、美夜のものだったからだ。


わたしはとことこ歩き、学生に声をかけた。


「どうしたの?」


「ああっ!?」


まるで般若のような形相で怒っている学生に、もう一度冷静に声をかける。


「どうしたの? 何、自販機にあたっているの?」


「この自販機、金を入れたのに飲みモン出さねーんだよ!」


そう言いつつ、ゲシゲシ蹴る。


「まあまあ、落ち着いて」


わたしは学生の肩をポンポン叩いた。


「ちょっとわたしに見せてみて」


「…ああ」


学生は面食らっていたが、素直に避けてくれた。


わたしはコイン入り口を覗き込んだ。


別に何かが詰まっているワケじゃなさそうだ。


でもお金を入れても、機械は動いていない。


それにお金が入った表示もされていない。


コイン返却のスイッチを押しても、無反応。


「…ホントはお金なんて、入れてないんじゃないの?」


「ねぇ。ああやって、ジュースを盗もうとしているんじゃ…」


近くにいた主婦二人組みが、こちらを窺いながら言った。


「何だと! このババアども!」


「やめなって」


学生の腕を掴みながら、わたしはもう片方の手で財布を取り出した。


「入れたのは120円?」


「ああ、ピッタリ入れた」


「それじゃ、多分原因は…」


わたしは十円玉を取り出し、力を入れながらコイン入り口に投入した。


ガッコン! 


コインが落ちる音がして、自販機が動き出した。


表示も130円になっている。


「何飲もうとしてたの?」


「…コーラ」


わたしはコーラのボタンを押す。


ガコンッ


「はい」


落ちてきたコーラの缶を、学生に渡した。


「…ありがとよ」


「いいえ」


わたしは返却ボタンを押して、十円玉を財布に入れた。


「原因はこの自販機。古いからコイン入れる所が錆びてて、お金が落ちなかったの。少し力を入れながら入れれば、大丈夫になるの」


わたしは学生と、近くにいる主婦二人組みに向かって話した。


主婦達は罰が悪そうに、去って行った。


「…まっ、お金が戻ってこない時は、紙に書けばいいから」


自販機にはトラブルが起きた時に書く用紙とペンが付いている。


「ああ…」


学生は少し呆然としていた。


あっけない解決に、脱力したんだろうか?


学生にしては老けているように見えるなぁ。


まあ渋いとも言えるけど…。


「…お前さ」


「わたし?」


「俺のこと、怖くないのかよ?」


「何でよ?」


聞き返すと、学生は黙ってしまった。


「ジュースが買えなくて、あたり散らかしているところを見ると、子供みたいよ。ちょっとは落ち着きを持ちなさいよ」


「…ああ」


学生は少し考えた後、わたしを真っ直ぐに見た。

「借りができたな」


「こんなの借りとは言わないわよ。困った時はお互い様、でしょ?」


「お互い様、か。なら困ったことがあれば、俺を頼りな」


「あなた…美夜の学生よね?」


「ああ。美夜の高等部3年、青城

せいじょう

松本

まつもと


「あら、先輩。わたしは光輪学院・高等部2年、月花陽菜子」


「月花な。覚えとく」


そう言って青城は去って行った。


…ヤレヤレ。


相変わらず美夜への風当たりは強い。


そして人は見かけによらない。

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