劣勢

「僕は母乳を貪る吸乳鬼なる! 復讐のために!」


 その瞬間、誠は駆け出した。ユーリがあの仮面を使う前に、先んじて打ち倒す!

 しかしそのためには距離があり過ぎた。誠がユーリの元に到達する前にガコン! ユーリは自らの顔に乳仮面を押し込んだ。


「おおっ! おおっ! にょおおおおおおおお!」


 刹那、乳仮面の眼球部分から、白色をした二本の触手が飛び出し、それがユーリの乳首に吸いついた。


「んひょ! にょほおっ! んひいいいいいいいいいい!」


 触手が波打つようにしてうごめき、その度にユーリの乳首から白濁色の液体が噴き出した。ブシャー! ビシャ―! ビシャビシャッ! と音を立て、大量の母乳が地面に零れ落ちていく。


「んほおおおおおおおおおおお!」


 バフッ! 白い靄がユーリの乳房から沸き起こり周囲を白濁色に包んだ。だが直後、すぐにその白い靄が引き裂かれるようにして一気に四散する。


 そして中から現れる、赤い眼、とがった犬歯、それは……


「いい気分だぁ! これがっ! これが吸乳鬼か! 最ッ高に母乳が吸いたい気分だぁぁぁ!」


 母乳を貪る化物。頬の肉が裂けるかと思われるほど、口角を釣り上げたユーリがそこに立っていた。


「くっそおおおお! ユーリ! 分かっているのかっ。君はっ、君が恨みを持つ、僕の父さんと同じ行動を使用としていることにっ!」

「分かっているさ! 毒を以て毒を制す! だから僕は母乳を吸って強くなるっ!」


 ユーリは振り向き、昇の服を乱暴につかんだ。バリバリッと服が引裂かれ、昇の乳房をむき出しになる。


「まっ、まさか! やめろ!」

「遅いわ! お前の父親の母乳でパワーアップだ!」


 ジュルルッ! ユーリが昇の母乳を吸い上げる、すると昇は白目を剥いて恍惚の表情を浮かべ、乳房からおびただしい量の母乳が漏れ出した。


「んほおっ! 死ぬ! ひぎぃ!」

「ははっ! 不味い母乳だなぁ! 昇!」


 ユーリは一瞬にして母乳を吸いつくし、母乳まみれの口に浮かぶ笑みを誠に向けた。


「行くぞ誠! お前のおっぱいを吸わせろ!」

「くっおおおおおお! よくも父さんを!」


 誠はユーリに向かって突っ込む。「ひっひふー!」と呼吸を整え、右の拳を振り上げた。


「くらえ! 伝導共鳴っ!」


 誠の拳がユーリに頬に伸びてゆく。だが、ユーリは上体を逸らし、寸前で拳を躱した。


「はっ! そんな真っすぐな拳が当たると思っているのかっ! 喧嘩ってのはなぁ……」


 ユーリの右脚が跳ね上がり、誠の腹部を捉えた。


「こうやるんだよ! 誠ぉ!」


 ブンッ! 誠に叩き込まれた右脚が振り抜かれた。それにともない誠は後方へと突き飛ばされる。


「があああああっ!」

「甘いぞ! 誠! しょせんはお坊ちゃまだな! 殴り合いの喧嘩をしたことすらないんだろ!」


 瞬時に距離を詰めてゆくユーリ。

 誠は迫りくるユーリを見定め、素早く立ち上がる。

 ――ちくしょうっ。強い。慣れている。ユーリはこういう戦に慣れている。でも!


「僕は結衣のおっぱいを守らなきゃいけないんだ!」

 誠は地面に向かって手を伸ばし、ソレを拾い上げ、すぐさま駆け出す。

 スタンガン。先にユーリが放り投げた凶器。


 ――これでユーリの身体の自由を奪う! そうすれば伝導共鳴を打ち込込める!

 誠はスタンガンを右手に握り、突っ込んでくるユーリに向かって突き出した。

 だが、


「だから、甘いって言ってるんだよ! 誠!」


 ユーリは誠の右腕を側面からはたき、スタンガンの軌道を逸らした。そのために誠は重心を失い、地面に向かって転がりそうになる。

 瞬間、ユーリが誠の胴体へ拳を叩き込んだ。ドムッと鈍い音がして、誠の口から唾液を飛んだ。


「ぐあっ!」

「さあ! 搾乳タイムだ!」


 よろめく誠の両腕を掴んだユーリはガブリ! 服の上から誠の乳房にかぶり付いた。


「んへぇ! やっ、やめろ! ユーリィ!」

「なかなか美味いじゃあないか! 誠の母乳はっ!」


 ジュルジュル! ユーリは誠の母乳を吸い出す。しかし服の上からの搾乳のためか、大した量の母乳は流れ出ない。


「ははっ! やはり母乳は直接乳首から吸わねばダメなようだな! ならっ!」


 ユーリは右手をかぎ爪のような形にし、誠の胸部に向かって振り抜く。誠の服が裂け、男らしい乳房が覗いた。


「直接母乳を吸ってやろう誠! 狂うくらいに気持ちが良いらしいじゃぁないか! 吸乳鬼に吸われるのはっ!」


 ユーリの尖った唇が誠の乳房に迫る。

 不味い! あれを喰らったら僕は間違いなく負ける! 負けてしまう! 


「ちっくしょおおおおおおお!」


 誠は呼吸を整える。防御、防御のための伝導術だ!


「反発伝導共鳴!」


 バチイイイイ! 誠の両腕を持っていたユーリ手が弾かれ、そのままユーリは後方へと弾き飛ばされた。だが、すぐさま体勢を立て直し、誠に視線をやる。


「ほう、やるじゃないか。そう簡単には母乳を吸わせるわけにはいかないか」

「くっそ! 畜生!」


 誠は、重たい身体を引きずるようにして駆け出した。

 乳房を押さえ込み、流れ出る母乳を止めようとする。だが、脈打つようにして手の隙間から母乳が流れ出てゆく。


 ――真向勝負じゃ無理だ。なら……それなら!


 誠は襖を蹴破り、隣の部屋へ、そしてまた隣の部屋へ移動してゆく。

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