真実
「ちくしょう! 結衣っ! 結衣!」
誠は
額に浮かんだ汗が流れ落ちる。眼に汗が入る。だが汗を拭うことをせず、沁みる眼を開き続ける。
「うおおおおおおおおっ! 尺取! 君がぁ! 君がぁぁぁぁぁ!」
誠は階段を登りきる。しばらく突っ走れば玉城公園の入り口。誠はすぐさま飛び込んだ。
すると公園の中央。街灯のたもとに、私服姿の尺取さだめが佇んでいた。
誠は尺取の姿を見つけた瞬間、一気に加速する。
「うおおおおおおおお! 尺取ぃぃぃぃぃぃ!」
その絶叫に近い雄叫びに、尺取が顔を向ける。
「ああ、誠くん。やっと来て――」
「君のおおおおおおお! うおおおおおおおおお!」
誠は飛び上がり、鋭い蹴りを放った。
「君の母乳は! 何色だぁぁぁぁっ!」
バチイイイイ!
誠の蹴りが尺取に直撃し、凄まじい音が鳴り響いた。
「あげぇ!」
尺取が吹っ飛び、街灯の支柱に突っ込んだ。
誠は地面に着地すると、すぐさま尺取と距離を詰める。そして右の拳を振り抜いた。
「君の!」
右ストレート。
「母乳は!」
左フック。
「何色だと!」
尺取の頭を掴み、
「聞いているんだあああああああ!」
自分の膝に向かって引き寄せる。
ガコン! 鈍い音と共に、誠の膝が尺取の胸部に叩き込まれた。
「ふんぎぃぃぃぃぃぃぃ!」
バチイイイイイイ! 尺取の身体が地面に向かって飛び込み、何度もバウンドする。土埃を上げ、ゴロゴロ転がって止まる。
すると直後、尺取の服を、白濁色の液体突き破り、勢いよく飛び出してきた。
「あぇあ?! なにこれ?! あげぇぇぇぇっ!」
尺取が身体をビクンと大きく揺らすたび、乳房から大量の母乳が噴出される。
――伝導共鳴。
本来は吸乳鬼を人間に戻すための力。誠はそれを人間に使ったことはなかった。使えばどうなるか知らない。だけど、そんなことは関係なかった。怒りが身体を動かし、尺取に母乳を噴出させろと囁いた。
誠は地面に横たわる尺取へと、歩み寄って行く。
「結衣をどこにやった!」
「こ……小鷹さん? ああん! きっ、君は一体なにを―――んほおおおおおお!」
「あんな手紙を出しておいて、なぜシラを切るんだ! 尺取!」
「あ、あんな手紙? ――はぎぃぃぃぃぃぃ!」
尺取の乳房から飛び出した母乳が、誠の頬へ返り乳を残した。
「あくまでもまだやる気なのか! 尺取さだめ!」
ドゴン! 母乳まみれで地面に横たわる尺取の胸に、誠の拳が叩き下ろされた。
「あげぇ! やめて! あひぃ! なんでこんなことおおおおおおお!」
「君の罪は重い! くらえ! 圧搾伝導共鳴!」
グニュ! 誠が尺取の乳房を鷲掴みにしたその瞬間、またしても母乳を吹き出した。
「あへえええええ! ……やめてぇ……死ぬぅ……はああん! しぬぅ……。気持ち良すぎてしぬぅぅぅ! んほおおおおおおおおおおおお!」
ブシャ! ビシャ! ビシャビシャッ! 尺取の母乳が滝のような勢いで流れ出す。尺取は白目を剥き、「へあっ、へあっ」とマヌケな声を口から漏らし、最後にビクン! と身体を揺らして動かなくなった。ただただ、口が金魚のようにパクパク動いているだけだった。
誠は、怒りを滾らせた眼を尺取に向ける。
「どうしてっ! どうしてこんなことをした尺取! なぜ吸乳鬼を作り出し、おっぱいが大きな女の子を襲わせた! そして結衣はどこだ! さあ眼を覚ませ! 朝星伝導共鳴!」
バツン! 誠が尺取の乳首を弾くと「あひん!」と声を発し、意識を取り戻した。尺取は虚ろな眼を誠に向ける。
「ね、ねぇ……誠くん。なんでぇ……こんなこと、するのぉ……ひん!」
「なにを分けの分からないことを! 君が乳仮面所持者だろう?!」
「そ、それはこっちのセリフ……だってばぁ。だって……だってぇ……ひっぐ」
尺取は震える手をポケットへと向け、中から真っ白な封筒を取り出した。そしてそれを誠へと突きつける。
「これぇ…………罪を懺悔したいからって書いてあるから……」
尺取は喉の奥から絞り出すような声で言った。
「誠くんが……乳仮面所持者だって書いてある手紙! だから私はここに来たのぉ!」
「――なに?!」
誠は手紙をひったくり中身を確認する。するとそこには、
『乳仮面所持者は僕だ。罪を懺悔したい。だから、玉城公園に来てくれ。天道誠より』
カサリ。誠は手紙を取り落とした。
――なぜ、こんな手紙が尺取の元へ? これはいったいどういうことだ?!
「僕はこんな手紙知らない。出していないっ。それじゃ尺取からの手紙は? 僕の家のポストに入っていたって……」
「私だって知らない! 知らないよう! それにっ」
尺取は喘ぎ、涙を零し始める。
「私は誠君の家の場所を知らない! ポストに手紙を入れられるわけないだろ!」
誠はスッと、尺取の乳房から手を離した。
そうだ。尺取は天道家がどこにあるのか知らない。一度も家を訪れたことがない。だからこそ尺取は、天道家に遊びに行きたいと言っていたはずだ。
あの日。二年生教室が入る階の廊下で。雨宮と土倉の友人を探し出すことを決めたあの日に。
誠は自らの過ちに気が付き、ワナワナと震え出す。
「なっ、なら君は……本当に乳仮面所持者じゃない、のか」
「だからそう言ってるだろ! 真っすぐな性格通り過ぎて、君はもう馬鹿だろ!」
「そんなっ! あの事件はおっぱいが大きい順に襲っていた。だから僕は、あのおっぱいリストを知る人間。つまり君が犯人だと思って――」
「――おっ、おっぱいリストを知る人間? ……っ! おい誠くん!」
尺取は上体を起こし、誠の胸倉を掴む。
「……いるっ。いるぞ! 私と君以外に、おっぱいリストを知る人間がいる! だってあのおっぱいリストは、私のパソコンに入っている! だから――」
「尺取の……パソコン」
――はっと誠は息を飲んだ。
あのおっぱいリストを手にすることができる人間。見ることができる人間。僕以外に、尺取が作成したあのリストを……見る……っ。パソコンごと、見る。
「はっ! まさか! そんなっ!」
誠はスッと立ち上がり、顔を強張らせる。
尺取はあのパソコンを手渡していた。ある人物に手渡していた。僕の眼の前で。
そしてなにより……この正体不明な手紙は、誰から受け取った?
「ユ……ユ……」
誠は足下に落ちていた手紙を踏み潰した。
「ユ――――――リぃぃぃぃっ! 君かっ! 君が本当のっ!」
誠は奥歯をギリッと鳴らし、拳を握り込んだ。
「君が乳仮面所持者かぁ! ユーリ! 君のせいで尺取が! 尺取がっ!」
「いや、これは誠くんのせいで――」
「許さん! 許さんぞ! ユーリ! うおおおおおおお!」
瞬間、誠は駆け出した。地面に横たわる尺取をものともせず、公園の出口に向かって突っ走る。
「せ、せめて救急車を、誠く――」
「許さんぞ! ユーリ!」
誠は公園を飛び出し突っ走る。
太陽は山間へと消え、もうじき黄昏時を迎えようとする井ノ原町を南へとひた走る。
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