Episode 7 「大きなおっぱい、小さなおっぱい」

進路を北西にとれ

 月曜日。まことはベッドに寝ころび、天井を見上げていた。

 ふと顔を横に向ければ、部屋の壁に掛けられた時計が17時50分を指し示している。

 ――そろそろだ。

 誠はベッドから身体を起こし、学校から帰宅後そのまま着ていた制服を脱ぎ、私服に着替え始める。


 生徒会資料室での一件から、土日を挟んだ月曜日。朝、誠はいつも通りに学校へ向かい、授業を受け、そのまま帰宅した。学校いる途中、尺取しゃくとりと廊下ですれ違うことはあったが、お互いに無視してすれ違っているし、結衣ゆいを見かけることはあったが声をかけることはしなかった。


『――誠』


 と、誠の頭の中にラミアの声が響いた。誠は、ワイシャツのボタンを止める手を一瞬だけ停止させたが、再び手を動かし始める。


『それで、誠。そろそろ行くのか?』

「……はい。尺取が言うには、今日の夜に玉城たましろ公園でその集まりがあるらしいですから。逆に、その集まりがいつ行われるのかまではわかりません。そろそろ結衣が部活を終える時間なので、今から張り込んでいたほうがいいかと」

『そうか。わかった。張り込みのときは私も影から出る』

「わかりました」


 誠は服を着替え終える。


「それじゃあ、行きましょう。ラミアさん」

『ああ』


 誠は自室を後にして、玄関で靴に履き替え外に出る。

 そして石畳の道を通り、屋根付き門の扉に手を掛けよとしたその瞬間、扉が開け放たれた。


「ゆっ、ユーリっ」

「おおっ‥‥‥なんだ、誠か。びっくりするじゃぁないか」


 そこには、驚いた表情のユーリが立っていた。生徒会の活動を終えいま帰ってきたのだろう。制服姿で通学鞄を手に持っている。


「ん? ……誠。その服。これからどこか出かけるのか?」

「うん。実はそうなんだ。テーブルの上に置手紙を置いていたんだけど、無駄になっちゃったね。とにかく、ちょっと出かけてくる」

「それはいいけれど……でも、ご飯までには帰ってくるだろうな、誠」


 ――あっ。と誠は声を上げる。


「ごめん。朝に言っておくべきだった。今日はごはんいらない」


 するとユーリは、眼をスッと細めジッと誠を見つめた。


「……もしかして君は、また尺取さんとなにかしているんじゃないのか? 今日のことだって……」

「……それは」


 誠は視線を地面に落とす。だけど、素直に喋るわけにはいかなかった。


「なあ、誠。もし君になにかあったら、僕は昇さんに向ける顔がないんだ。だから……」


 ――しつこい。

 誠は少しばかりユーリを睨む。だが直後、自分のことを心配してくれているユーリに対し、そんな感情を抱く自分を恥じた。でも、


「……ごめん、ユーリ。時間がないんだ。それに、今日で決着がつくはずだ。だから僕は行かないと行かなくちゃいけない」


 黙り込む誠。その様子を見たユーリも数秒沈黙した後、小さく溜息を付く。


「わかったよ。僕は君が何をしようとしているか知らないけれど、でもできればいつか、僕にも話をしてくれ。その……僕と君は」


 ユーリは言い淀むと、照れくさそうな顔をした。


「兄弟、みたいなものだろう。だから、心配なんだ」

「ユーリ……」


 誠は、ユーリの心配そうな顔に心を痛めた。自分がユーリの心を乱している。そのことが申し訳なかった。だけど、それでも行かないと。


「ごめんね。ユーリ。全部終わったら、話すから」


 誠はユーリの隣を通り、門の外にでる。するとユーリが誠の背中に声を掛けた。


「わかった。でも、無茶はするんじゃないぞ。……ああ、それから誠」


 ユーリは嬉しそうに微笑んだ。


「来週の金曜日、昇さんが帰ってくるらしい。さっき連絡があったよ。そのときにでも、話してくれ」

「……うん。わかった」


 誠は速足気味に歩き出した。

 向かうは、玉城公園。井ノ原町の北西、小高い丘に立ち並ぶ住宅地にある公園だ。

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