Episode 5 「貧乳は誰だ」

強靭なクーパー靭帯

 誠はおっぱいを揺らして走るはるかを追い、河川敷まで出てきた。


「まってくれえええええええ! そんなに走っちゃだめだあああああ! クーパー靭帯が切れてしまう!」


「いあああああ! こないでえええええ!」


 くそう! 乳原さんのクーパー靭帯はナノカーボン製なのか?! あんな巨乳が全力疾走したら、痛くては走れないはずだ。なのに、あんなに走れるなんて!


『――誠』 


 と、誠は頭の中でラミアの声を聞いた。


「なんすか?! ラミアさん!」

『お前の母乳を吸わせろ。そうすれば、私は全力を出せる。いますぐ追いついて、あの女を快楽搾乳で大人しくさせてやる』

「ダメですラミアさん! 女の子をおっぱいを吸って黙らせるなんて、そんな酷いことッ!」

『やかましい! でないとあの女のおっぱいはさらに酷いことになるぞ!』

「――っつ!」


 仕方ない。誠は覚悟を決めた。母乳を巻き散らかし恍惚の表情を浮かべるはるかの姿なんて見たくない。でも、仕方ない。そうしないと、もっと酷いことになる。


「わかりました! もう仕方ありません! でも、僕もちゃんと見学しますから! それが僕の責任です!」


 と、誠が自らの胸元をはだけさせようとした、その瞬間。鼻孔を、甘い香りがくすぐった。この香りは……


「――母乳の香り?!」


 ズズッ! 誠の足下に出来た影がうごめき、中からラミアが飛び出してきた。

「ラミアさん! 母乳の香りがします! でもなんで?!」

「理由はわからん! だか、この濃い匂いは吸乳鬼だ! どこか近くで搾乳しているぞ!」


 誠は急ブレーキをかけ立ち止まり、周囲を見渡す。前方には走り去って行く乳原はるか。異常はない。

 だが、誠が視線を動かしてみれば、河川敷に掛かる高架橋の下に2人の人影を見た。その二人は制服を着た女子生徒だった。一方がもう一方の乳房にしゃぶりついていた。


 ――吸乳鬼!

 瞬間、誠は方向を変え、高架下に向けて走り出した。


「誠! あの女は後だ! とにかく今は吸乳鬼を倒せ!」

「わかってます! ひっひっふー!」

 誠は駆けながら、呼吸を整える。吸乳鬼を倒すための呼吸法。伝導術を発動させるために。


「そこまでだ! 巨乳の女の子から離れろ!」

「あああん?! なにあんた――」

「くらえ! 脚先伝導共鳴レッグ・バイブス・トランスミッション!」


 誠の鋭い飛び蹴りが、吸乳鬼の女子生徒の肩口に叩き込まれた。

 バチイイイイイイ!

 凄まじい音ととともに、吸乳鬼の女子生徒が吹っ飛んだ。


「あげぇええええええええ!」


 ザザッ! と音を立て地面にスライドしていく女子生徒。だが素早く立ち上がり、誠に向き直った。その瞬間。


「んほおお?!」

 その女子生徒の乳房から母乳を吹き出し、服を突き破った。ピンク色の乳首の先からとめどなく母乳があふれ出し、ピュッーー! と飛んだ母乳が誠めがけて飛んでいった。

 パクッ! 誠は口を開け、その飛んできた母乳を飲み込んだ。


「美味い! さあ、大人しく人間に戻るんだ!」

「ああっ‥‥‥う、うるさい。私は……私は巨乳を抹殺する! 貧乳が生きやすい世界を作るんだ。あああっ! ひん! しゅごい!」

「なにをわけのわからないことを! 人間の心を失ってしまっているのか君は!」

「黙れ! 貧乳は常に虐げられている! んほおおおっ! その元凶は…‥巨乳だ! 巨乳がいなくなれば、貧乳はない胸を張って生きていける!! 巨乳さえいなければ!」


「生きていけるんだあああああ!」、吸乳鬼の女子生徒叫び、誠に突っ込んでゆく。地面の土がめくれ上がるほどの、凄まじい勢いの突進だった。

 ガコン! 拳が誠の右頬にさく裂した。

「あがっ!」脳が揺さぶられ、誠の視界が揺らいだ。


「貧乳連撃! 胸に邪魔な脂肪がないから早いぞ! 私の攻撃はッ!」


 ――ラッシュ。拳、蹴りによる連撃だった。残像が見えるほどに素早いラッシュだった。

 誠の乳首から母乳が噴き出した。

 白濁色の液体を吐乳した。

 全身が母乳まみれになった。


「があっ……ちくしょうっ!」


 ――僻み。おっぱいに対する僻み。それがきっと、この女の子を支配する感情だ。おっぱいが小さいから、巨乳を恨む。だけど。だけどそんなこと。

 誠はグッと拳に握り込み、眼光を強く光らせた。


「巨乳さえ……いなければ? 違う。おっぱいは、そんなふうに憎しみ合う対象じゃない! 大小や形で優劣が決まるわけじゃない! おっぱいは! おっぱいは!」


 グニュ! 誠は両手を伸ばし、女子生徒のおっぱいを握り込んだ。


「おぎょおおおお?!」


 吸乳鬼の女子生徒は乳房から母乳を漏らし、ガクリと膝から崩れ落ちそうになる。

「うおおおおおおお! おっぱいは、おっぱいというだけで正義なんだ! 上も下もないんだ! そこにあるだけでいいんだ!」


 誠は「ひっひっふー」の呼吸を繰り出した。すると、身体がぶおおおおおおんと震える。


「清めてやる! その穢れたおっぱいに対する価値観を! くらええええ! 圧搾伝導共鳴マンモグラフィー・バイブス・トランスミッション!」

 バチイイイイイイ! 

 女子生徒の身体小刻みに振動し、それが次第に大きくなってゆく。その揺れの大きさに伴うようにして母乳の噴出量が増えていく。


「おおっ! おおッ! あああッ! 私の……私の母乳が! 私の貧乳からでもこんなに母乳がああああああ!」


 ブシャアアアアアア! 女子生徒は大量の母乳を噴出させ、ガクガクと痙攣を起こす。頬を赤く染め、だらしなく開け放たれた口からはヨダレが垂れた。しばらくの後「あへええええ」とマヌケ声を発し、地面に崩れ落ちる。そしてそれ以降、ピクピクと身体を揺らすだけで動かなくなった。


「や、やったぞ。倒した。吸乳鬼をッ」


 誠は膝を付き、肩で息を繰り返した。


 ――あぶなかった。凄まじい憎悪。巨乳に対する憎悪に怖気づきそうになっていた。でも打ち勝てた。おっぱいを愛しているから打ち勝てた。


「大丈夫か、誠。ほら、私の母乳を飲んで回復しろ」


 ラミアが制服をはだけさせ、乳房を誠の口元にもっていく。誠はラミアの腰に腕を回し、そのまま搾乳を始めた。


「ありがとうございます。ラミアさんのおっぱいも美味しいですね。コクがあります」

「んんっ……それは、ああっ。よかったな。し、しかし……どうしたものか」

「どう、どうは。どういうことですか?」


 誠は声色を変えたラミアに不審そうな目を向けた。

 するとラミアは、吸乳鬼の女子生徒に襲われていた、地面に倒れているロング髪の女子生徒を指差す。


「見ろ。今回襲われたのは乳原めぐみではなかった。私とお前は、あの学校で一番おっぱいが大きい生徒が次のターゲットだと想定し動いていたが……」

「この女子生徒が襲われたことで、その法則みたいなものは崩れた……ということですか。でも、ラミアさん」


 誠はラミアから離れ、吸乳鬼の女子生徒に襲われた、ロング髪の女子生徒の元へと向かった。そしてむき出しになった乳房を握り込む。その後すぐ、所持品を漁り、生徒手帳を確認した。


「うん。やっぱり」

「なにが……やっぱりなのだ?」


 ラミアが不思議そうな顔を誠に向ける。


「この襲われた女子生徒のおっぱいの大きさは……恐らくGカップです。尺取ほど正確な数値は分かりませんが…‥‥たぶん合っていると思います。それに」


 誠は生徒手帳をラミアに見せる。


「見てください。中田えり。とあります。さっき尺取におっぱいエクセル表を見せてもらったとき、乳原さんの下にこの子の名前がありました」

「なるほど。乳原の次におっぱいが大きいのが、そこにいる田中えり。……つまり、乳原を除けば、一応は順番通りというわけか」

「はい。だからもしかすると、何かしらの意味があるのかもしれません。乳原さんを狙わず、その次におっぱいが大きい、田中りえさんを狙った理由が……でも」


 誠は肩を落とし、母乳まみれで気を失っている田中えりを見た。


「でも、次に誰が狙われるのは……わかりません。もしかすると乳原さんかもしれませんし、田中りえさんの次に巨乳の人かもしれません。ただ、田中さんの次におっぱいが大きな女子生徒は同サイズで数人もいると、あのエクセル表にはあったと思います」

「なるほど。……襲われる人間に先回りして、手を打つというのも難しくなった。というわけか」

「そうなります」


 誠は地面に横たわる中田えりに、伝導術を打ち込みながらそう答えた。こうしておけば、おっぱいを吸われたとは言え吸乳鬼として蘇る可能性はない。人間のままでいられるはずだ。


「――となればやることは一つだ。いや、そもそもコッチが本命だぞ。誠」


 誠がその声に顔を上げれば、ラミアが吸乳鬼となった女子生徒へと向かっていた。

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