おっぱいエクセル表

 誠の話を聞き終えた尺取しゃくとりは、顎に手を当てた。

「なるほど。昨日、誠はあの事件に遭遇して、犯人の意図に気が付いた……ってことか」

「そうなんだよ。だから生徒のおっぱい情報を教えて欲しいんだ。おっぱいを守るために」

「……」


 数秒、尺取が思案する様子を見せた後、「わかった」と言って頷いた。


「OK。それじゃあこっちに来て。おっぱいエクセル表はパソコンの中にあるから」

「ありがとう尺取! 助かるよ」

「いいんだ。さあ、早く」


 誠とラミアは尺取に案内されて部屋の中を進む。生徒会資料室というだけあって様々な資料が山積みにされており、部屋の中央にある机の上は、乱雑に書類の束が置かれていた。   

 そして誠とラミアが案内されたのは、その机の上にあるPCの前だった。

 尺取がパソコンを操作して、マウスを動かす。


「えっと……コレだっけ。いや、これは生徒会のヤツか。じゃあコレ? でもない。あ、ヤベ。これ提出しないとユーリに怒られるな。じゃなくて……えっと、ああ、これだ」


 カチカチっとクリック音がして開かれたのはエクセル表。

 誠とラミアが覗き込んでみると、女子生徒の名前と学年、そしてバストサイズが記載されているエクセル表だった。


「ほう……大したものだな尺取。お前のおっぱいへの愛も相当強いと見える。しかもおっぱいの形まで書いてあるじゃないか」


 ラミアが感心したような面もちを浮かべると、尺取は「おっぱい博士ですから」と照れた。

 尺取がマウスを操作して、マウスをカチカチっとクリックする。


「それで……なんだっけ? あの事件でおっぱいを吸われた女の子……だっけ?」

「うん、そうだよ。あ、待って、尺取。その前にこの学校で一番おっぱいが大きな女の子が誰なのか知りたいな。知的好奇心を僕は抑えられない」

「ははっ。仕方ないな。誠くんは。えっとね……この学校で一番おっぱいが大きいのは……西村かおる。Jカップだね」

「Jカップッ?! ABCDEFGHI……Jカップ! で、でかい! ということは、この人が学校で一番おっぱいが大きい女の子ということだね?!」 

「……そうなるね。だけど」


 尺取はスッと眼を細める。


「誠。……この子だよ」

「え?」


 突如、顔を暗くした尺取に、誠は首を傾げた。


「彼女は強制搾乳事件の最初の被害者なんだ」


 尺取がエクセル表の備考欄をクリックすると、文章がクローズアップされた。


「4月10日、深夜2時頃、夜に散歩をしていたら突然母乳を搾乳されたらしい。見つかったときには、半狂乱状態で「んほほほおほ」って言いながら母乳の海を作っていたとか」

「……そうなのか。えっと、それじゃあ、他に被害に合った女の子は分かるかい?」

「OK。ちょっと待って……ん?」


 と、尺取がマウスの動きを止め、西村かおるの、すぐ下の欄をクリックした。


「エマ……留学生だね。西村かおるさんの次におっぱいが大きい……Iカップだ。4月14日の未明、河川敷の下で襲われている。発見当時は「にょほおお」と雄叫びを上げ、母乳の噴水……えっ、なんだこれ?!」


 尺取はマウスを動かし、カチカチっとクリックする。


「エマの次におっぱいが大きい女の子は……佐倉さくら、Iカップ。被害者。その次はニーナ……Hカップ。被害者。イザベラ……Hカップ。被害者。……こ、これ。まさか?! 誠!」


 尺取が顔を上げてみれば、誠はワナワナと震えながらビシッ! とPC画面を指差した。


「なっ、なんてことだ! 巨乳の女の子ばかりが狙われている! し、しかも。おっぱいが大きい順に狙われているッ!」

「――それで、次は誰だ」


 それまで沈黙を守っていたラミアが画面に顔を付ける。


「次におっぱいが大きいのは……誰だ? ヤツは夕暮れを迎えると活動を始める。今日にでも被害が出る可能性があるぞ。急げ」


 尺取が慌てた様子でマウスを操作する。


「えっと。ちょっと待ってね……。このファイルはおっぱい5王のヤツだから、これ以下のバストサイズ表は…‥‥こっち? いや、違う。あ、これも印刷してユーリに提出しないと。いや、前みたいにパソコンごと渡せば――」

「尺取早く!」


 誠は痺れを切らし、尺取に迫る。


「分かってるって。えっと……あったこれだ! 次に巨乳な女の子は……岩井さやか、Hカップ。いや違う。この子は誠が話してた、昨日、被害に合っていた子になるのか。なら……」


 と、尺取が指先でパソコン画面を指示した。


「…………乳原、はるか」


「ち、乳原はるか?!」


 ガタ! と誠は椅子から立ち上がった。

 乳原はるか。あのたわわに実ったおっぱいの持ち主。巨乳、巨乳、巨乳。そして、ユーリの恋人だ。


「ありがとう尺取! このお礼はまたいつか!」

「お、おい誠!」


 誠は駆け出し、壊れた扉から廊下へと躍り出た。


「ラミアさん!」

「急げ、誠。今日、襲われる可能性がないとは言えん。とにかく、警告してやったほうがいい!」


 ラミアは誠の影の中にズズっと沈み込んだ。

 誠は廊下を走りながら目指すは、生徒会教室。

 乳原さんの連絡先は知ってる。けど、携帯電話は昨日の事件で壊れてしまっている。だから、ユーリに会って電話を借りる。この時間なら、まだいるはずだ。

 と、そこで誠は、生徒会室に入って行こうとするユーリを見つけた。


「ユーリ、いいところに! 教えてくれ! 乳原さんはいまどこにいる?!」

「ま、誠? えっと、どうしたんだい急に? はるかに何か用事でも……」

「教えてくれユーリ! 早く!」


 その、誠の必死な形相のためにか、ユーリは押し切られるようにして口を開く。


「えっと……さっき下駄箱で話をして別れたから、そのまま校門に向かったんじゃないのかな。それより――」


 ――ついさっきまで下駄箱にいた。なら、走れば間に合う!


「助かった! ありがとう!」


 誠は駆け出し、階段を駆け下りていく。

 ――不味い。誠は奥歯をギリッと鳴らした。校舎の窓から外を見れば、もうすぐ夕日が沈みそうになっている。夕刻、夕暮れ、黄昏時。この時間になると、吸乳鬼の活動は活発になる。だから一刻も早く、警告を!

 誠は昇降口までやってくると、素早く靴に履き替え校門を目指す。すると視界の先に、


「――見つけた!」


 校門から出て行こうとする乳原はるかの姿があった。


「乳原さん!」


 だが、はるかに誠の声は聞こえていないらしく、振りむく素振りを見せない。

 ――ちくしょう! 誠は必死に走る。

 学校の前の通りは、井ノ原町の観光地と重なるために、観光客が多い。はるかが人の波にまぎれてしまえば見失うかもしれない。


「ち、乳原さん! 大きなおっぱいが特徴の乳原めぐみさん!! 乳原さーーーーーーーん! おっぱあああああああああい! たわわに実ったおっぱいの乳――」

「うるさい!! なんなの天道くん! 昨日の今日で頭おかしいんじゃないの!!」


 はるかがバッと振り返る。恥辱にまみれた顔をしていた。

 誠ははるかに追いつき、両膝で手を支える。


「ご、ごめん。だけど、これは重要なことなんだ!」

「なに? ブラサイズなら直したけど?!」

「違うブラサイズじゃない! 聞いてくれ! 乳原さんのおっぱいが……おっぱいが!」


 誠はスッと息を吸って、はるかに詰め寄った。


「乳原さんの母乳が狙われているんだ! だから、僕におっぱいを守らせて欲しい!」

「いやあああああああああああ!!」


 はるかは叫び、駆け出した。


「ああっ。待って! 話を聞いてくれよ!」


 誠もはるかを追って駆け出す。


「いやあああ! 変態! 最低! 死ね! やっぱあんた犯人でしょ?!」

「ちがう! 僕は変態じゃない! おっぱいと母乳が好きなだけだ! だから犯人じゃなあい!!」


 はるかが逃げ、誠が追う。古民家が立ち並び風情ある街並みを爆走する。道を歩く観光客の隙間を縫うようにして、井ノ原町を南にひた走る。 

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