おっぱいの友
誠は放課後を待ってから、生徒会資料室へと向かう。
2年C組の教室が入る一般連棟から渡り廊下を経て、特別連棟3階までやってくる。廊下を突き当りまで進めば、そこが生徒会資料室だ。
放課後、特別連棟の教室は文系の活動場所になっており、廊下はしんと静まり返っている。
そんな廊下を歩くのは誠。そして……ラミアだけだった。
「ねえ、ラミアさん」
「なんだ? 誠」
「僕は全然かまわないんですが、さすがに全裸で学校の廊下を歩くのは止めてもらっていいですか? せめて服を着てもらえませんか?」
「ほう、どうして? 少女が全裸で歩いていたら問題もあるのか?」
ラミアは両手を腰に当て、小さな胸を誇張するかのような体勢で歩いていた。上も下もすっぽんぽん。腰まで伸びた緑の髪しか裸体を隠すものがなかった。
「はい。問題しかないので服を着てください。それと、夕方になったからと言って僕の影から突然飛び出すのも止めてください。心臓に悪いです」
「仕方ないだろう。私は夜行性だ。太陽が沈みかける頃に起床する。逆に聞くが、お前は明け方に起きるなと言われたら反発するだろう? それと同じだ」
「分かりましたから服を」
「ああ、もう。分かった。分かった」
ラミアはげんなりした顔を浮かべ、サッと自分の身体を撫でた。すると、突然。ラミアの身体に制服が纏われる。誠が通う、心学館高校の女子制服だった。
誠は「す、すごい」と慄く。
「それ、どうなってるんですか? そう言えば昨日も、何もない場所から乳仮面を出しましたけど」
「昨日も言っただろう。私の身体はエネルギーの集合体のようなもの。だから、大抵の物は作れてしまう。と言っても、ハリボテ程度が関の山だ。私が影に封印されたとき、自分で自分のエネルギーを極力使えないようにされてしまったのでな」
廊下を歩いていた誠とラミアが、扉の前で立ち止まった。
部屋の上部には「生徒会資料室」と書かれたプレート。そして扉には馬のデザインのドアノッカーが掲げられていた。
「それで、昨日言っていたおっぱいに詳しい友人というのはココにいるのか?」
ラミアはドアノッカーに手を伸ばす。が、誠が先んじてそれに手にかけた。
「そうです。ただ、とても気難しい友人なので、できればラミアさんは喋らないでください。僕が全部対応します」
コンコン! とドアノッカーが打ち付けられる。すると、扉の奥でゴソゴソという音がして、うめき声が聞こえた。
「だあぁれ?」
寝起きの声だった。ただ、異様に甘ったるい声をしていた。
「尺取さだめ。僕だよ。誠だ。君のおっぱいの友。天道誠だ」
「ああ、誠くんかぁ。どうしたの?」
「実はおっぱいのことで聞きたいことがあるんだ。だから、この扉を開けてくれないかな?」
「もちろんいいよ。他でもない誠くんの頼みだからね……ただし」
と、尺取さだめと呼ばれたその人物は、扉越し「くくく」と上機嫌に笑った。
「誠くんのおっぱいへの愛と知性が健在か確かめさせてもらうよ。君がおっぱいをのぞく時、おっぱいもまた君をのぞいているのだ。」
チッ! とラミアが舌打ちをした。
「なんだコイツは。いますぐドアを蹴破って、快楽搾乳攻めで知りたい情報を吐かせてやろう」
「ああっ、それはダメですラミアさん。とにかく落ち着いてください!」
誠はラミアを静止させる。
するとすぐさま「デデン!」という掛け声が、扉の向こうからかかった。
「第一問。 世界でもっとも多いカップ数はな~んだ?」
「ははっ。簡単すぎるよ尺取。答えはBカップさ。いいよねBカップのおっぱい。なんたって『B』って文字がおっぱいみたいでえっちだ」
「ふぅん。簡単すぎたかな。じゃあ続いて第二問!」
「おい、誠。これがずっと続くのか? 私はそこまで気が長くないぞ」
「大人しくしておいてください。ラミアさん。これは尺取と僕の挨拶みたいなものなのです。さあこい! 尺取!」
扉の向こうからコホンと出来払いをする音がした。
「デデン! WHOでは、母乳を赤ちゃんに何歳まで与えることを推奨しているか答えよ」
「う~ん、ちょっと難しいけど。でも、わかるよ。答えは二歳。さらに言うなら、6カ月までは完全母乳で育てる。そしてそれ以降は離乳食を与えるけど、二歳までは母乳を与えることが推奨されている」
「正解だ! じゃあ最後の問題だ。人間を含め霊長類の中でもっとも授乳期間が長いのは……オラウータン。では、最近の研究で何年の授乳期間があるとされているでしょーか?」
「ははっ。その論文なら僕も読んだよ。答えは8――」
ガン! ラミアがドアを蹴破った。
「あああっ! なんてことをするんですか! ラミアさん!」
「やかましい。400年近く生きてきたが、ここまで鬱陶しい輩は初めてだ」
ラミアが部屋に入っていき、誠もすぐさま中に入る。すると蹴破られたドアの下で、生徒がモゾモゾと動いていた。
「いてて。酷いな誠くん。君はそんな脳筋じゃないかったはずだ。君が小学校の頃は……」
「すまない。尺取。大丈夫かい? ほら立って」
誠が扉をのけてやり、手を差し出す。するとその手を女性的な細い手が掴んだ。
のっそりと立ち上がったその人物は、短めのスカートをパンパンと払い、サッと髪の乱れを直した。
「やあ、誠くん。久しぶりだね」
――
眠たそうな目に、色白の肌。ワイシャツのボタンを2つ目まで外され、鎖骨が覗いていた。いまどきと言えば今時な女子生徒だった。
誠とは小学校で友人となり、それ以来、中学高校も同じ。共に語り合ったおっぱいの話は数知れず。誠にとって尺取とは、悪友のような存在だった。そして同時に、
「ところで、誠くん。小鷹さんは一緒じゃないの? 許婚だろ?」
「もう、その話は秘密だって言っただろ。まったく」
誠と小鷹結衣が許婚であると知る数少ない人間でもある。そしてそれは、誠との親密度の表れでもあった。
と、尺取が誠の横に立つ人物に視線を動かす。
「で、その緑が髪の君は誰かな? 私の知り合いだったりする?」
緑が髪、と呼ばれたラミアは「はん?」と首を傾げた。その不機嫌な顔つきを見た誠が、慌てて割って入る。
「尺取、紹介するよ。こちらラミアさん。僕の知り合いさ」その後、誠は尺取を手で示し「それで、こっちが尺取さだめ。僕が小学校の頃からの友達です」とラミアに紹介した。
「へえ、……ラミアさんかぁ」
尺取は興味あり気な眼をラミアに向ける。右から見て左から見て。様々な角度からラミアの身体を眺めていた。
対するラミアは疑わしそうな顔を誠に向ける。
「おい、誠。この尺取というヤツは本当におっぱいに詳しい――」
「Cカップ」
「は?」
「Cカップだ。アンダー85cm。トップ100cm。サイズはDカップに限りなく近い、Cカップ。C85がきみの適切なブラジャーサイズだ」
サッと。ラミアの顔から血の気が引いたように誠には見えた。誠は「ほらね」と自慢げな顔になる。
「尺取は見ただけで、女性のカップ数を言い当てることができるんだ。測定誤差は±0.5m。彼女の前では服もブラジャーもないに等しい」
「ははっ。褒めるなよ。誠くん。役に立たない技術さ」
「そんなことないよ! 僕はおっぱいを鷲掴みにしないとカップ数も分からないっていうのに。まったく尺取はすごいなぁ」
誠と尺取は仲良さげに「ははっ」と笑い、その様子にラミアは軽蔑の目を向けた。
尺取が「ところで」と言って首を傾げる。
「それで誠くんの用事ってなに? おっぱいのことで聞きたいことがあるって言ってた気がするけど」
「そうだった。……実は君の力を借りたいんだ。この学校で、例の事件の被害に合った女の子のおっぱい情報が欲しいんだ」
すると尺取は、期待外れだという顔を見えた。
「なんだ。そんなことか。私は全校の女子生徒全員のおっぱいのサイズを始め、色々なおっぱい情報を把握済み。エクセル表で管理しているからね。もちろん、あの事件でおっぱいを吸われた生徒も把握済みさ」
「す、すごい! さすがおっぱい博士。おっぱいのことならなんで知ってるね!」
「なんでもは知らないよ。知ってるのはおっぱいのことだけ」
えっへんと胸を張る尺取に、誠が期待の眼差しを送る。
「それで尺取。できれば、そのおっぱい情報一覧を見せてくれないか。ワケあって女の子のおっぱいについて調べなくちゃいけないんだ」
だが、そこで。尺取がスッと眼を細めた。その眼は冷たい感情を感じさせた。
「それはダメだ。誠くん。おっぱい情報は個人情報。はっきり言ってグレーよりのブラックだ。限りなくブラックだ。特別な事情でもない限り見せるわけにはいかないよ」
「――なに?」
と、声色を尖らせたのはラミアだった。誠がラミアを見れば、不適な笑みを浮かべ、口を開いていた。その口の形は昨日、吸乳鬼の女子生徒を搾乳したときの口と同じだった。
――快楽搾乳。ラミアさんは尺取の母乳を吸い、快楽によって屈服させ、情報を聞き出す気だ。
誠はラミアの前に腕を突き出す。
「まってください。ラミアさん。たしかに、尺取の言うことも一理あります。ここは一つ。尺取にも情報を伝えて意見を聞きましょう」
続け様に「ラミアさんのことは伏せますから」と誠はラミアに耳打ちをした。するとラミアも不承不承という顔で頷いた。
「よかろう。なら、誠。話してやれ。全校女子生徒のおっぱい情報が必要な理由を」
「わかりました。実はね尺取……」
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