Episode 4 「おっぱい探偵」
居候の彼女
ふぁっと口からでたあくびを、
隣を歩いていていたユーリが「おいおい」とあきれ顔を浮かべる。
「どうしたんだ誠? 昨日、眠れなかったのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。ちょっと、疲れがとれなくて」
「ふぅん。そうか。やっぱり今日は休んでおいたほうが良かったんじゃないのか? 昨日、あんなことがあったんだから」
「大丈夫。それに今日は……やっておきたいことがあるんだ」
誠が視線を前に向ければ、自分と同じ制服に身を包んだ生徒を多く見かける。
朝の通学路。誠とユーリは登校する生徒たちに混じり、学校へと向かっていた。そして、その生徒たちに交じり、観光客らしき人間がカメラを片手に歩いている。
2人の通う心学館高校の周囲には、歴史的な建造物が多数点在しているため、朝の登校時間には生徒と観光客が入り混じった光景を、この路では眼にすることができる。
と、そこで。誠が眼をこすった直後、進行方向の先に見知った人物を見かける。
短いツインテールを揺らして歩く、
すると、誠の隣を歩くユーリが「おっ」と声を上げた。
「誠。じゃあ僕はココで。はるかと一緒に行くから。誠は小鷹さんと登校するだろう?」
「え? あ、ああ。そうだね。わかった。それじゃあ」
誠の返事を待たずしてユーリは小走りに掛けてゆく。そして結衣とはるかに追い付き、挨拶をした。
ユーリと乳原はるかは恋人の間柄だ。
「高一年のゴールデンウィークから付き合い始めたんだ」、誠はユーリそうから聞いている。はるかはユーリを訪ねて天道家に遊びにくることもあるために、誠は、はるかと面識があった。だからこそ昨日、ブラジャーサイズが合ってないことを指摘したのだ。
……おせっかい、だったかな。僕は全然かまわないけれど、やっぱり女の子はブラサイズを指摘されるのは嫌なのかもしれない。誠は憤怒したはるかの顔を思い出し、そんなことを思う。
だがそこで、前を歩いていた結衣がパッと後ろを振り返る。どうにもユーリが「誠もいるよ」と教えた雰囲気だった。結衣は歩く速度を落とし、乳原とユーリから離れる。誠はぎこちない笑みを浮かべ結衣に追いついた。
「おはよう。結衣。えっと…‥‥昨日は、ごめん」
「……ホントにごめんて思ってるなら、昨日とか電話くれたらいいじゃん」
「ああ、えっと。実は携帯電話が壊れちゃって。それに、色々忙しかったんだ」
「あっそ。……あとさ、学校じゃ他人のふり続けるんでしょ」
「……」
結衣の素っ気ない態度に、誠は唇を噛んだ。
怒っている。謝りたい。でも、これはどうやっても許してくれそうになかった。
「あのさ。結衣。今度、結衣が行きたがっていたクレープ屋さんに……」
「もう友達と行った」
「なら、見たいって言ってた映画を……」
「友達と見た」
「……」
ダメだった。誠は小さく溜息を付くと、結衣が「あとさ」と声を尖らせた。
「今日からバスケ部が忙しくなってくるし、当分おっぱい吸わせてあげられないから。それじゃ」
結衣は速足気味に歩き、誠の元から離れる。ユーリとはるかの元まで行き、はるかの腕を掴むと、「ごめんねー。夜神くん。はるかちゃんお借りしまーす」と言ってはるかを強奪していった。
「ねえ、はるかちゃん。教えてもらったあの体操続けたらちょっと大きくなったかも」
「ええ? ホントに? そんなにすぐ効果あるもんなの?」
誠がその様子を見ていると、ユーリが速度を落とし並び歩いてくる。
「……まったく。仲がいいね。あの2人は。でも、彼氏よりも小鷹さんを優先するって、どう思うよ誠?」
「え? ああ。ごめん。なんか‥‥‥ウチの結衣が」
「ウチの結衣……か。ははっ。まるで夫婦みたいじゃないか。許嫁ともなると一味違うな」
「もう! からかわないでくれよ! ユーリ!」
誠とユーリは「ははっ」と笑い合う。
ユーリは誠と結衣が幼馴染であることを知っている。同じ屋根の下に暮らしいるからこそ、隠しようもないことだった。
すると誠が「あ」と何かを思い出したような顔をする。
「そう言えばユーリってさ、生徒会に入ってるよね?」
「そうだけど……それがどうかしたのかい?」
「えっとね。この時間でも学校に来てるかな? ……
誠がその人名を口にしたとたん、ユーリが苦笑した。
「ああ、書記の尺取さんか。あの子は……遅刻魔だからね。放課後なら、生徒会の資料室にいるんじゃないかな。なにか用事があるのかい?」
「ちょっとね。聞きたいことがあるんだ。わかった、放課後に訪ねてみるよ」
誠は肩にかけていた通学鞄を掛け直す。そして気持ちを切り替えた。
尺取さだめ。乳仮面所持者への手がかりを探すために、欠かせない人物だ。
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