強い決意

「ああっ! 待って父さん!」


 だが、遅かった。ガチャリと扉が開き、天道てんどうのぼるが姿を見せた。ところが、


「どうしたんだ。入ったら不味かったか? そしてなぜ裸なんだ? 誠」


 と、何事もなかったような顔を浮かべている。

 ――どうして? ラミアさんは? 

 誠が素早く振り向いてみれば、そこには誰も居ない。代わりに、足下からモゾモゾっという気配を感じ、目を向けてみれば影が少しばかりうごめいていた。

 よかった。ラミアさんは影に戻ってくれたみたいだ。

 誠は息を吐き、様子を窺ってくる昇に首を振った。


「いえ、なんでもないです。裸なのは、着替え中だったからです。それよりお父さん。なにか用事?」

「誠の様子を見に来たんだ。だけど、その様子なら大丈夫そうだな」

「はい。特に問題は。すいません、心配をかけて」


 そう誠が言うと、昇は「そうか」と言って頷く。だが直後「ところで誠」と神妙な面持ちになった。


「誠……さっきはユーリがいたから控えていたが、今日の夕方、学校から父さんに連絡があったよ」

「え?」

「お前は授業中に「おっぱい」と叫んでみたり、いつも女子生徒の胸ばかり見ているそうじゃないか。そのことで担任の岡先生から電話があったんだ。少し、節度を持つように伝えてくれ、と」

「そ、それは……」


 誠は眼を逸らし、地面に向けた。すると昇は少し険しい顔になった。


「誠。そのあたりのことはとてもデリケートなことだ。おっぱいと聞いて不快に思う人がいるという想像を働かせなさい。それに女の子の乳房を見て話すのは失礼だ」

「……ごめんなさい、父さん。次からは気を付けます」

「それでいい。同じ過ちを繰り返さないのなら、父さんは叱ったりしないよ。それに、父さんだって誠を叱ることなんてしたくはないんだ」


 昇はフッと強張った顔を崩し、微笑んだ。


「だけど誠。お前はこの天道家、たった一人の跡取り息子だ。その点、私は結局のところ、妻であるスイの婿だ。だからお前を立派に育てないと、母さんに……天道家のご先祖に合わせる顔がない。誠からしてみれば古臭い考えかもしれないが……どうか分かってほしい」

「分かっています。父さん。僕も天道家であることを誇りに思っています」

「わかった。それじゃ、おやすみ。誠」

「はい、おやすみなさい」


 昇は部屋を出て行く。誠は疲れた様子でベッドに腰を落とした。


 ごめんなさい。父さん。


 僕はその約束、守れそうにありません。なぜなら僕はおっぱいを守るために、明日からより多くのおっぱいを見なきゃいけない。おっぱいに対してより強い注意を向けないといけない。だから、守れません。……だけど。

 誠は眼光を鋭く光らせ覚悟を決めた。


「おっぱいの為なら僕はどんな試練も乗り越えて見せる! 女の子のおっぱいについて調べるぞ!!」


 腕を高く掲げ、誓った。絶対に乳仮面所持者を捕まえてみせると。

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