私の母乳を吸え!
壮絶な戦いだった。ビルの壁をぶち抜き、床に陥没痕を造り、拳がぶつかった衝撃で窓ガラスが割れた。
まるで戦争だ。眼の前で繰り広げられる光景を見た誠はそう思う。動き、速度、力。どれをとっても人間の能力を完全に蹂躙してしまっていた。
と、そのとき。吸乳鬼の女子生徒の胸倉をラミアが掴んだ。
「やるな。たいそう母乳を吸ってきたと見える。だが」
ビリビリッ! 吸乳鬼の女子生徒の制服がラミアによって引き裂かれた。胸部から焦げ茶色をした乳首が覗いた。
「これで終わりだ!
ガブリ! ラミアが吸乳鬼の女子生徒の乳房にかぶり付いた。瞬間、女子生徒の身体がビクン! と大きく揺れる。
『ひいん! しゅごい! しゅごいいいい! なにコレ! なにこれぇぇぇ!』
「気持ちよかろう。母乳を吸われる快感は。このまま母乳を吸いつくしてやる!」
『あああん! 止めて! 可笑しくなりゅううう!』
女子生徒は口をだらしなく空け、ヨダレを垂らし始めた。抗う素振りを見せるが、すぐに恍惚の表情へと引き戻された。
……吸い慣れている。誠はすぐに分かった。あのラミアという少女は自分と同じ、否、それ以上に搾乳慣れしていた。どうすれば効率よく母乳が出るか知っているのだ。このままいけば吸乳鬼を倒せる。勝てる!
だが、そのとき。誠は視界の端に動くものを見た。地面に倒れていた刑事の井上理沙が、もぞもぞと動き出したのだ。
生きてる! 大量の母乳を吸われ死んでだと思っていた。だけど生きている。でも、動いちゃだめだ! 身体の具合もそうだが、2人の戦闘に巻き込まれてしまう!
「理沙さん動いちゃダメだ!」
誠は理沙の元へと駆け寄って行く。だが、
「馬鹿者! 近づな! そいつは吸乳鬼になっている!」
一瞬、ラミアに隙が出来た。乳首から口を離し、搾乳が止まった。
その隙を、吸乳鬼の女子生徒は見逃さなかった。
『セカンダリーおっぱい!』
女子生徒は、自らの乳房を握り込み、母乳を噴出させた。バシャ! 吹き出した母乳がラミアの両目に飛び込む。
目つぶし?! ラミアが気が付いたときには遅かった。吸乳鬼の女子生徒はラミアを突き飛ばし、誠の元へと突っ込んだ。
『君のおっぱいで回復だあああああああ!』
「う、うわあああああああああ!」
誠は叫び、逃げ出そうとした。だが、足を引っ張られる。右脚を理沙がガッチリ掴んでいた。その眼は赤く染まっている。吸乳鬼の女子生徒と同じ赤い眼だった。
「誠!」
ラミアが駆け出す。すぐさま吸乳鬼の女子生徒の背後に迫り、そのまま股下を潜る形でスライディング。前転し、誠の眼の前に躍り出た。
「逃げ――ひぎぃ!」
ラミア乳房に吸乳鬼の女子生徒がかぶりつく。ズズ! と母乳を吸い上げる音が響いた。
「ら、ラミアさん!」
「ま、誠。ああっ! に、にげ――あへぇ!」
もう片方の乳房に、理沙が吸いついた。二人の吸乳鬼は無我夢中で母乳をすすり上げる。そのたびにラミアの乳首から白濁色の液体が巻き散らかされた。
「うわあああああ! やめてくれええええ! ラミアさんのおっぱいがあああああ!」
――僕のせいだ。誠は自分を責めた。眼の前で苦しんでいるラミアの姿を見て、自責の念に駆られる。僕がうかつに理沙さんに近付いたから!
だが、ラミアが最後の抵抗を見せる。吸乳鬼2人の乳房を鷲掴みにし、乱暴に揺らした。すると2人は「ひん!」と声を上げ、後方へ弾き飛ばされる。
ラミアが地面に崩れ落ちた。誠が駆け寄り、母乳まみれのラミアを抱き起す。
「ラミアさん! 僕のせいで!」
「……言うな。それより……誠。あああっ!」
ラミアは苦しそうに顔を歪める。脈打つようにして乳房から液体が噴き出していた。
「母乳を……母乳を吸われすぎたっ」
「どうすればいいですか!? もっとラミアさんに僕のおっぱいを吸わせたら……」
「ダメだ。これ以上すれば、お前の命が危ない」
ラミアがチラリと視線を上げる。誠がその視線を辿れば、そこには様子を窺っている吸乳鬼の2人がいる。薄暗い闇の中で赤い眼が浮かび上がっていた。襲い掛かってくるのは時間の問題だった。
「ちくしょう! こんなとことで死にたくない! 僕にはまだやり残したことがあるんだ! 世界中のおっぱいを守る、ノンストレスのブラジャーを開発するまで僕は死ねないんだ!!」
それは生への渇望だった。誠の心の底から湧き上がる欲求の爆発だった。生きたい。生きて、おっぱいに全てを捧げる人生を送りたい。
「……まだ、終わりたくないのだな」
ラミアは弱弱しく口を開く。
「誠。お前が愛するおっぱいを守る力を与えてやろう。ただし、一つだけ私の願いを叶えてもらう」
「願い?! こんなときにいったい何を言って……」
ジャリっ! 二人の吸乳鬼が地面を踏み鳴らした。瞬間、ラミアは誠に迫った。
「助かる方法はただ一つ! 吸え! 私のおっぱいを! 私の母乳を吸え!」
「そ、そんな。少女のおっぱいを吸うなんて、そんなおかしなこと!」
「いいから吸え! そして誓ってくれ! 私の願いと叶えてくれると! さあ!」
バッ! 誠とラミアの元に2人の乳吸鬼が殺到する。
――おっぱい。愛するおっぱい。それを守る。守るための力を! 僕に力を!
「誓います! だから僕に力を! うおおおおおおおお!」
誠はラミアの乳首に口を付ける。あらん限りの力で母乳を吸いあげた。
「んひぃ! しゅごいいいいいいいいいい!」
バチィィィィィ! 凄まじい音が生じた。その瞬間『『あげぇぇぇぇぇ!!』』と悲鳴を上げ、2人の吸乳鬼が弾き飛ばされる。地面に転がりつつ、自らを吹き飛ばした力の正体を見極める。するとそこには、俯き気味に佇む誠の姿があった。
誠は自らの両腕を見て慄く。身体が小刻みに振動していた。細胞レベルで起こっているような微振動。
「ラミアさん! これは!?」
「説明は後だ! 繰り返せ伝導の呼吸を! 『ひっひっ、ふー!』だ!」
「もうわけが分かりません! でもやります! やってみせます! ひっひっふー! ひっひっふー!」
ぶおおおおおおおおん! と音が鳴り、誠の身体がさらに振動し始めた。そのせいで誠の身体の輪郭がぼやける。
『年下のおっぱい! 男子高校生のおっぱい!!』
理沙が誠に向かって突っ込んだ。
「うおおおおおおおおお!」
誠も駆け出し、拳を突き出した。突っ込んできた理沙の胸部に打ち込む!
バチイイイイ! 理沙が地面に転がり、雨あられのように母乳を噴出させのたうち回る。あの赤い眼の光が弱弱しくなっていく。
「理沙さん!」
「誠! そのまま突っ込め! それは吸乳鬼を人間に戻すための力、伝導術! 死にはしない! だから全力で叩き込め!」
「わ、分かりました! いくぞおおおおおおお!」
誠は拳を放つ。――ッチと音が鳴って、拳が女子生徒の腕をかすめた。
『んお?!』
ピュっと女子生徒の乳房から白濁色の液体が噴き出した。だが、量が少ない。
――浅い! かすっただけじゃ、上手く力が発動しないんだ! だから、もっと強く打ち込まないと!
誠は腰を落とし、両拳を握り込んだ。「ひっひっふー!」と呼吸を繰り返す。
一瞬だけ出来た隙。吸乳鬼の女子生徒はそこを狙った。
『おっぱいいっぱい!』
誠の乳房に、吸乳鬼の女子生徒が襲い掛かる。だが誠は、それを逆手に取った。
「うおおおおりゃああああああ!」
誠は自ら乳房を突き出し、女子生徒の口に押し当てた。
――?! 女子生徒は驚愕の表情を浮かべる。搾乳されるとわかっているのに、なぜ?!
「分かっていたさ! 君が僕の乳房を狙うことは! だから僕は自分のおっぱいを突き出した! こうすれば、君は絶対におっぱいに吸いつく!」
刹那、誠はいっきに胸を引く。すると、誠と女子生徒との間に空間ができた。女子生徒は無防備に、小さな乳房をさらけ出していた。
「君の性! おっぱいを吸いたいという搾乳衝動が君の敗因だ! くらえ!」
誠は両拳を握り込み、一気に突き出す! バチイイイイ! 女子生徒の胸部に拳が叩き込まれた!
『おごぉ! おおおっ!! おおおお!! おおおおおおおお!』
ビシャアア! ブシャアア! 女子生徒の乳首から母乳が一気に吹き出した。出口を狭めたホースから水が噴き出すかのように。
『もう……らめぇ。許してぇ! 許してぇ!』
女子生徒は背を向け、這いつくばるようにして逃げ出す。それにとない誠も拳を下ろしかけた。だが、「誠!」とラミアが呼びかける。
「まだだ! そいつは吸ってきた母乳の量が尋常ではない! もう一度食らわせろ!」
「で、でもそんな! これ以上彼女の痴態を晒させるわけには!」
「やれ! お前はおっぱいを愛しているのだろう?!」
――おっぱい。その単語が誠を突き動かした。
「くっそおおおお! 本当はこんなことしたくない! だけど、それでもやらなくては! 僕にはやるだけの理由がある! おっぱいを愛しているから母乳を噴出させる!」
誠は拳を握り込んだ。その拳を見た女子生徒はついに嗚咽を漏らし始めた。
「ひぃ! や、やめてぇええええ! もういいから! 人間に戻ったから! もうおっぱいなんて吸わないからだから!」
「うおおおおおおお! 震えろおっぱい! 吹き出せいっぱい! 刻むぞ母乳のぱいぱい! 母乳を伝われ! 白濁色の伝導共鳴!」
バチイイイイイイ! 誠の両手が女子生徒の乳房を握り込んだ。
「んほおおおおおおおおおおお!!」
勢いよく母乳が噴き出す。甘い香りをまき散らし、地面に白濁色の海が出来ていた。
そしてしばらくの後、女子生徒はビクン、ビクンと身体を震わせ、その震えが次第に小さくなっていき、最後に「へあああ」と声を漏らし、白目を剥いて倒れた。
誠はそれを見届け、ラミアの元へ歩み寄って行く。ラミアは地面にうずくまり、虚ろな眼をしていた。
「ラミアさん。……やりました。僕は……僕はおっぱいのために戦いました」
「よくやった。ねぎらってやろう……と言いたいが。くっ……」
ラミアは苦しそうな表情を浮かべる。
「休ませろ。聞きたいことは、あとでたっぷり話をしてやる」
「分かってます。いまは、休んでください。とりあえず救急車を呼んで‥‥…」
「いらん。自分でどうにかできる」
するとラミアはズルズルと誠の足下に這って行く。まるで、そこが帰るべき場所のように。
「ラミアさん。いったいなにを‥‥‥」
「深夜だ。深夜に再び出て来る」
ラミアは言い残すと、ズルズルっと誠の影に入り込んでいった。
「な!?」
誠は自分の影を触る。だが、そこにあったのは何の変哲もない影。いつも自分の足下から離れた事がない影だった。
「いったい……どういうことなんだ?」
だがその声に応えてくれる者はもういなかった。
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