吸乳鬼の女王

「くっそおおおおおお!」


 誠は駆け出していた。悲鳴が聞こえた方向に向かってひた走る。

 ――おっぱい。

 その単語が誠を動かした。もし、この先にいるのが強制搾乳事件の犯人であるならば、あの理沙という刑事のおっぱいは……おっぱいは!

 誠は大部屋に飛び込んだ。


「理沙さん! おっぱいは大丈夫ですか!? いま助け――」


 バシャ! 誠の上半身に液体がかかった。生暖かい白濁色の液体。誠は自分の両手を見て、視線を前に向け……


「うわあああああああ!」


 視線の先にあったのは、膝立ちになり、おびただしい母乳を噴出させている理沙の姿だった。こみ上げてくる何かに抗おうとしている眼。だが口元が緩み、恍惚をした顔に変貌しつつあった。ビクン! と身体が揺れ、むき出しになった胸部がたわんだ。


「り、理沙さん――」


 ブンッ! その音がしたかと思えば、誠のすぐ横の壁面に何かが突き刺さる。

 誠が素早く横を見ると、そこには黒色の折れ曲がった棒が突き刺さっていた。――警棒。理沙が先ほど取り出していた警棒だった。それを壊すほどの投擲。


『……君は……巨乳?』


 冷たい声が聞こえた。

 コツ、コツと足音がする。だんだん。だんだん、その足音が大きくなっていった。

 誠は顔を強張らせ暗闇の先に視線を向ける。


「そこに居るのは誰だ!」

『私? 私は……巨乳が憎い。憎い』


 ぬっと姿を現したのは、制服を着た女子生徒。それも、誠の通う心学館高校の女子制服を纏っていた。だが、その眼は赤色に染まっている。まるで、おとぎ話に出てくる吸血鬼ように。


『私は……私は『吸乳鬼』。母乳を飲む。飲みたい。飲ませろおおおお!』


 女子生徒は抱き込むようにして理沙を捕まえ、乳房にしゃぶりついた。

 ジュルルルルッ! 音を立て勢いよく吸い上げる。理沙の乳首から母乳が吹き出し、身体 がガクガクと痙攣し始めた。


「ああっ、嫌! 見ないで! 見ないでぇええ! あへぇえ!」

「ああっ! 理沙さんのたわわに実ったおっぱいが!」


 誠はなにもできなかった。立ち向かうことも、逃げ出すこともできなかった。怖い。怖いからこそ動けない。

 すると女子生徒は、まるで人形でも投げ捨てるかのようにして理沙を地面に放った。そのまま、誠に向かって歩みを進める。


『君は巨乳……じゃない。でも、見られた。だから君も吸乳鬼になろう。おっぱいを一緒に吸おう! おっぱい、いっぱい。美味しい! 美味しい!』

「く、来るなぁ! 来るなあああああ! おっぱいが美味しいのは知ってるから来るなあああ!」


 誠は気持ちを奮い立たせ走り出した。だが、地面に撒かれた母乳に足を滑らせ転倒する。

 しかし転んだその先で、柔らかいなにかに突っ込んだ。誠がハッとそれを見ると、母乳まみれで気を失っている女子生徒がいた。一番最初に聞いた悲鳴の主だろう。すでに吸乳鬼の女子生徒に搾乳され、捨て置かれているらしい。


『――捕まえた』


 その声を聞いた瞬間、誠はひっくり返され仰向きになった。眼の前には吸乳鬼の女子生徒。

 その女子生徒は誠の胸元を掴み、ガバっと服をはだけさせた。男らしい、固い胸部がむき出しになった。


「や、やめてく――」

『男でも母乳は出る。飲める!』


 じゅるるっ! 誠は母乳を吸われる感覚に陥る。乳首から勢いよく母乳が噴き出した。同時に今まで感じたこともない快感が脳を突き抜ける。


「あああっ! 止めてくれぇ! おっぱいが! 僕のおっぱいが!」

『美味しい! 美味しい! 君のおっぱいは美味しい! すごく美味しい! 巨乳のおっぱいより美味しい!!』


 誠は身体の中を渦巻く快感に、意識を飲まれそうになっていた。

 ――狂う。

 そう思った。このままでは、自分の中の決定的な何が失われ、狂ってしまう。この快感によって、戻れなくなると。それが怖かった。

 誠は手を伸ばす。暗がりに向かって手を伸ばした。せめて抵抗したかったのだ。


「おっぱいを吸うなんて……狂ってる! おっぱいを吸うヤツは可笑しい!」

「――いいや、狂ってはない」


 瞬間、ザシュっという音と共に、黒い影が吸乳鬼の女子生徒をはじき飛ばした。女子生徒は受け身をとり着地する。


『だぁれ? アナタ?』

「ふふっ、誰……か? 名前を名乗るなど、何百年ぶりか」


 吸乳鬼の女子生徒の問いに答えたその声は、誠の足下に出来た、影の中から聞こえた。

 すると、ゆっくりとその黒い影が盛り上がり、人型に変化する。かと思えば、一気に黒い影がはじけ飛び、金色の粒子をまき散らしながら、中から人が現れた。

 裸の少女。艶のある緑色の髪の毛に、ほっそりとした身体つき。形の良い臀部が、誠の眼の前で揺れた。

 誠はよろよろと立ち上がり、その少女の後ろ姿を眺める。


「き、君はいったい?」

「私の名前はラミア。そして、吸乳鬼の女王」


 ラミアが肩越しに振り向いた。誠はその眼を見た瞬間、ゾクリと身体が震えた。綺麗な金色の目をしていた。シャンパンのような、キラキラとした輝きを放っていたからだ。


「お前を助けてやる。だからよこせ。お前の……母乳を」

「ぼ、母乳をよこす? いったいなにを言って……あっ、危ない!」


 誠が指で指し示したその先。ラミアに向かって突っ込んでくる吸乳鬼の女子生徒がいた。ラミアは素早く振り返り、誠を引き寄せる。


「おっぱいを吸わせろ! でないと母乳を巻き散らかして死ぬことになるぞ!」

「ち、ちくちょう! 僕の、僕の母乳を吸ってください!」


 ガブリ! ラミアが誠の乳首に吸いついた。瞬間、誠はとてつもない快感を覚える。そして思い出す。この快感。夢に出て来た、あの子とだと。

 その瞬間、吸乳鬼の女子生徒が、ラミアに向かって飛びついた。しかし、


「あがああああっ!」


 振り向き様に放ったラミアの手刀が、吸乳鬼の女子生徒の脇腹に叩き込まれた。


「ははっ。所詮は眷属。 吸乳鬼の女王たる私の敵ではない!」

『おっぱいを……おっぱいを吸わせろぉぉぉぉ』 


 体勢を立て直した吸乳鬼の女子生徒がラミアに殺到した。

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