【第5回】第1章 可愛い戦闘侍女が付きました③

    * * *


「お前はフィリアに悪いからと、これまで侍女を付けずにきたが、やはりこの際専属侍女を付ける事にする。命には代えられぬからな、きよは許さぬ」

 学園に通う際に、はくしやく以上の貴族は従者を1人連れて行っていい事になっている。身の回りの世話をさせる為だ。自分では何もできない貴族の子が多いからだそうだ。

 俺にも16歳の入学に合わせて、3人ほど従者教育されていたようだ。しかし1名がちゆうだつらくし、残っている候補者はせんとう系の侍女が1人、しつ系に教育された者が1人だ。

 で、今回の件で戦闘ができる侍女の方が選ばれる事になったようだ。まぁ、俺的には男子より女子のほうが嬉しい。ヤッターと内心で思ってしまった。

 足の悪いナナには特別処置として侍女が2人付くことを学園が許可している。

 ナナの世話をするのに特化した介護侍女だ。首席合格と公爵家という点がはいりよされたのだろう。車椅子とか重いからね……1人では厳しいのだ。

「執事候補の者は優秀だが戦闘があまり得意ではないのだ。今回の件もある……お前には戦闘系の侍女を付ける事にする。やはり学園に公爵家が侍女や執事を連れずに行くのは体裁が悪い」

「分かりました。父様が選んだむすめなのですから、兄の従者のように優秀なのでしょ?」

「ああ、優秀なのだがちょっと変わった子でな。あはは、まぁだいじようだろう」

 何だ、今のリアクションは? めずらしく父様が言葉をにごしたぞ? あまり見た事がない反応だ。


 父様がどこかにれんらくして、10分ほどで騎士に連れられて1人の少女がやってくる。

 いや言い直そう、1人の幼女がやってきた。どうみても10歳くらいにしか見えない。

 しかもメイド服だ! 我が家のメイド服は公爵家だけあって全て品の良い特注品だが、クラシックな英国風のたけの長いタイプだ。だが、この娘の着ているタイプはメイドきつとかにいそうなゴスロリ風な丈がひざうえ可愛かわいいやつだ……なんかい! すごく良い! メイド服は大好物だ!

 かみ色はダークグリーンで黒髪にも見えるが、太陽光を通すとライトグリーンにかがやいている。全体的にショートヘアーだが、まえがみが長すぎて顔がほとんど見えない。うつむいているせいもあって顔をかくにんできない。身長は130cmほど、体重も30kg無いぐらいだろう。耳が長くてとがっている。エルフの子供だろうか?

「父様、どうみても子供じゃないですか。こんな子供じゃ戦闘なんてできないでしょ? 侍女としての仕事も、これじゃ逆に俺が子供の世話係じゃないですか」

ちがうのだ! これでも彼女はお前と同じ15歳なのだぞ! ちょっと訳有りでな」

「ん! レディーに対して失礼!」

「ええ~! 15歳なの? これで同い年? ……」

 自分でレディーとか言っているけど、どうみても幼女ジャン! お子ちゃまジャン!

「彼女はエルフと人間のハーフエルフの母と、ドワーフとホビットのハーフの父親の間に生まれた子なのだ。小さいのはホビット族の血のえいきようだろう。ドワーフも力は強いががらな種族だしな」

 なんと4種の混血だった……幼く見えるのは異世界特有の種族特性のようだ。

「エルフもドワーフも混血をぎらいする種族だ。エルフからもドワーフからも村や町を追われ、この街に辿たどり着いたが、道中のろうで母親は病にたおれ、この教会に彼女をたくした後、数日で息を引き取った。彼女が8歳の時だが、私が丁度その場に居合わせてな……ナナかお前の侍女にしようと考え引き取ったのだ。エルフはほうけているし、ドワーフは力が強くや戦闘にもすぐれている。ホビットもしゆりよう民族で弓やちようほうに特化していて優秀な種族だからな」

「でも、平民は王族である公爵家の侍女に成れないのではないですか?」

「その点は心配ない。彼女は我が配下の子爵家の養女にしてあるので、貴族として王都に登録されている。お前たちの入学に合わせて準備はばんぜんにしてある。ゆいいつの誤算は、私が初めて会った時からちっともこの子は成長していないのだ。この小ささじゃ流石さすがにナナの世話はできない。かかえて移動する事も多いし、トイレやの介助ができないからな」

「……こんなに小さくて大丈夫なのですか? 本当に戦闘なんかできるのですか?」

「これも私の予想外なのだが、彼女はほどがんったと見えて、あの三番隊隊長のカリナに10試合中7勝して勝ちしているほどの猛者もさだ。お前なんかよりずっと強いぞ。それに侍女としても優秀だそうだ。口調だけはきようせいできなかったそうだがな……」

「ん、公爵様に拾ってもらい、貴族の養女にまでしてもらった。恩を少しでも返したくて頑張った! 毎日リューク様の役に立てるように凄く頑張った!」

 彼女の必死さが伝わってくる。

 8歳からだと約8年間この時のために日々努力してきたのだろう。

 エルフとホビットのハーフとか可愛いんだろうな……顔が見たい!

「目を見せてもらえるかな?」

「リュークよ、彼女は私にもずかしがって顔は見せてくれないのだ、許してやれ」

「目は口ほどにものをいうといいますが、性格なども目に出ます。主従関係になるのですから、おたがいに大事なことではないでしょうか?」

「ん、わかった。恥ずかしいけど、リューク様になら見せてあげても良い……」

「な! ずるいぞ! 俺も見たい!」

「ん! 公爵様でもダメ! リューク様だけ特別!」

 彼女は部屋のすみに俺を連れて行き、ほかの者に見えないように前髪をき上げて俺だけに目を見せてくれた。

「なっ!」

 ようせいさんが居ました!

 あ! この子もデモに映っていた可愛いエルフの女の子だ!

「どうしたリューク!」

「父様! 可愛い妖精さんが居ました! ナナやフィリアにおとらないほどの美少女です! とてもんだ濁りの無いれいな目をしています!」

「どれ、私にも見せておくれ」

「ん、ダメ! 母様との約束! 顔は絶対見せちゃダメなの!」

「あー、そういう事か……」

「リュークには理由が解るのか?」

「母親は彼女を心配して見せちゃダメと言ったのでしょう。エルフやホビット族は男女共に可愛い美形が多いので、よくさらわれてれいとして売られると聞きます。彼女もとても整った妖精と思えるほどの美少女です。大事な娘が攫われたりしないように、母親はつねごろよりこの子に注意していたのではないでしょうか」

「成程、養父から凄く可愛いとは聞いていたが、それほどの美少女なら私も見てみたいのだが……」

「ん、公爵様でも絶対ダメ!」

「うっ、仕方がない……あきらめるか。で、リュークよ……どうするのだ?」

「はい、俺の専属侍女は彼女にお願いします。暗殺者も小さい娘なら油断するでしょうし、うってつけかも知れないです」

「ん! ありがとうリューク様! うれしい!」

 声から本当に嬉しそうなのが伝わってくる。

 侍女の中には、親に言われてしぶしぶ侍女見習いをやっている貴族のごれいじようもいるのだ。

 高位貴族に付いて、自家とのえんを深め、こうぐうしてもらうのが主な目的だが、『なぜ従者のごとを』と思っている者も多いようだ。しつけとして渋々任命された感じの娘より、この子はずっと好感が持てる。

「じゃあ、君の名前を教えてもらえるかな?」

「ん、サリエ・E・ウォーレルです。よろしくお願いします」

「サリエ、これからよろしくね」

 俺に可愛い戦闘メイドが付きました。


「リュークよ、具体的に暗殺者にたいこうする案はあるのか?」

「特にないのですが、少し揺さりをしてみたいと思います。俺は西館に今日から何日かかくれると、それとなく周りに情報を流してもらえませんか?」

 西館は、本館から500mほどはなれている場所にある。見晴らしの良い場所に建っているので、主にらいひん宿しゆくはく時に利用されている。

「成程、あえて情報を流し、ゆうどうしてらえるのか」

「厳重警備にすると、敵に場所が気付かれるので、こっそりじよと数名の部下だけでやり過ごすと情報をあたえてください。何時いつがみさまに犯人だとばくされるかしれないので、おそらくこれで何らかの行動をしてくると思います」

「だがかなり危険だぞ、いくらサリエがゆうしゆうでも暗殺はそう簡単に防げるものではない」

「はい、理解しているつもりです。ですが俺には女神様から頂いたスキルがあります」

「そのさずけていただいたスキルはそれほどのものなのか?」

「そうですね。父様が『ずるい!』って言うくらいのものです」

「うーむ、ますます知りたくなったが、教えてはくれないのだろ?」

「今はダメですね。女神アリア様が教えても良いと言うまでは勝手に言えません」

「色々不安だが、女神様のおぼしだ……だまって見ていよう。だが、もう死ぬんじゃないぞ。親より先に死ぬ事ほど親不孝な事は無い」

「はい、女神アリア様にちかって」

 7日間しか期間がないのだ。早くこういう事件は解決して、異世界でしか見られない本物のエルフやねこみみちゃんを俺は探しに行くのだ!

「忘れるところだった。少し前にラエルから連絡があって、この際お前たちといつしよに学園に向かいたいと言ってきたのでりようしようしておいたぞ」

「そういえば先ほど教会内で見かけましたね」

わざわざ王都からゼファーと共にお前のそうけつけてくれたのだ」

 ゼファーとは父様の弟で、その子供がラエル君だ。俺からすれば従弟いとこだね。ラエルとは同い年という事もあって、俺やナナとも仲が良い。フィリアとこんやくしてからは、フィリアも交えてこの4人でよく遊んでいた。

 ラエルはうちのカイン兄様と同じく王家の血がいろく出たようで、身体の強化系スキルを得ていて、学園の騎士科の首席合格者だ。けん上手うまく、将来有望だとすでうわさされているほどの天才はだの従弟だ。

「でも、今、俺の近辺に居るのは危険ですよね?」

「そうだな……ラエルは学園出発まで、我が家の所縁ゆかりの者の別館で待機してもらうことにする。ゼファーは公務が有るので先に帰るそうだ。ラエルも3日の退たいくつな旅を、どうせならお前たちとワイワイ楽しく行きたいのだろう」

 リューク個人をねらったのか、フォレスト家の人間を狙ったのか解らないから、危険がおよぶとまずいのでラエルにはかなりきよをおいた別館で待機してもらっているそうだ。

 追いめられた犯人が、周りを巻き込んで俺ごとこうりよくこうはんほうとかってこないとも限らない。父様の言うとおり、今は安全の為に俺と距離をおいたほうが良い。

 ラエルは自家から護衛でともなってきた騎士と従者を数名別館に連れ込んだようだ。何かあった際は、加勢してくれると意気込んでいるらしい……たのもしいやつだ。

 父様は、ナナと母親たちを事が終わるまで実家に護衛付きで帰したそうだ。

 体調が悪く、熱のある第二夫人のセシア母様は移動が困難で本館に残ったと聞いたが心配だ。コール機能で話はしたが、後でゆっくり会いに行く約束をしている。

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