第106話:ドロップアイテムと折れた魔剣

 そんなこととは露知らず、アルストとアリーナは最終的に特殊能力のおかげだろうと結論付けてドロップアイテムの確認へ移ることにした。

 というのも、アリーナの我慢が限界に近づいていたのだ。


「早く見ましょうよ! ってか見るわよ、いいわね!」

「す、すみません、それじゃあ見ましょうか」

「ひゃっほー!」


 歓喜するアリーナに苦笑しながらアルストもアイテムボックスを開く。

 今回は討伐ドロップアイテムのみで数が少ないだけにあまり期待をしていなかったのだが、アルストが見たレア度は驚きのものだった。


「……レア度9って」

「レア度9ですって! み、見せて! 見せなさい!」

「わ、分かりましたから! その、ちょっと離れてください!」


 ゲームの中とはいえ女性ににじり寄られるのは苦手なアルストは後退る。

 それにも関わらずどんどんと迫ってくるアリーナは視線をガッチリとアルストに固定していた。


「えっと、【魔神の黒翼】ってアイテムです」

「素材アイテムじゃないのよ! レア度9……興味深いわねー。うん、とても興味深いわ!」


 パーティメンバー全員が受け取れる討伐ドロップでレア度9が出るとは思ってもいなかった。

 困惑するアルストだったが、一度自分を落ち着かせるためにアリーナのアイテムを確認することにした。


「私のアイテムは四つよ、四つ! アルスト君がラストアタック賞を譲ってくれたからねー!」

「あっ、気づいてたんですか?」

「それくらい気づくわよー。本当にありがとうね!」


 満面の笑みを浮かべているアリーナを見ていると、譲ってよかったと心から思えたアルストだった。

 そしてアイテムを見たアリーナは目を見開いた後に肩を震わせている。そして――


「レア度7が二つ! そしてレア度8が二つよ!」

「おぉっ! おめでとうございます!」

「これは鍛冶師としての腕が鳴るわー! アルスト君! しばらくは鍛冶に集中したいからパーティを組むのは難しいかもしれないけど、ごめんなさいね!」

「それは構いません。元々アリーナさんにお礼をしたくて誘っていましたから。危ない目には遭いましたけど、満足いくドロップアイテムだったみたいで良かったです。それに、俺の方も目標に近づきましたからね」


 アルストもソロでプレイする機会が少なくなっていたので久しぶりに一人でのんびりバベル攻略をしたいと思っていた。

 そもそもソロプレイの為にレベル上げも含めてアリーナとパーティを組んでいたのだから十分な結果を得ている。


「モンスターパーティで大量のモンスターを倒しましたからね。プレイヤーレベルが39、魔導師マジシャンのレベルが23まで上がりましたよ」

「すごいじゃないの! これ調子なら魔導師はすぐに卒業できそうだね」

「この後は剣術士極ソードマスター魔導師極マスターマジシャンのレベルを上げて、ようやく魔法剣術士マジックソードですか。先は長いですけど、頑張れる気がします」


 アルストにとって一番の収穫は一角獣の銀角だ。

 その効果は絶大であり、ボスモンスターと戦う時であれば装備を変更して使用することも可能だろう。

 そんな中でアイテムボックスを何気なく確認していると、一つの変化に気がついた。


「あれ? これって……」

「どうしたの?」

「いえ、【折れた魔剣(ディアブル)】の必要素材が一つ埋まっているんです」

「えっ! それって凄いことだよ!」

「……今回の【魔神の黒翼】がそうだったみたいです」


 必要素材の欄は残り三つ。これらが揃えば魔剣ディアブルを手にすることができる。

 だが今回はたまたま一つが埋まったものの、残り三つの素材がいつ手に入るかは分からない。アリーナが最初に言った通り気長に待つしかないのだろう。


「……ねえ、もしかして折れた系の装備に必要な素材ってクエストでしか手に入らないなんてことないわよね?」


 そんなアリーナから驚きの推測が口にされた。


「どうでしょうか。実際に何人かは折れた系の装備を再生させた人はいるんですよね? その人たちはどうしてたんでしょうか」

「うーん、そこまでは私も分からないな。私もアサドも再生はできてないし、攻略組で再生させたプレイヤーって、ロキなのよね」

「えっ! それじゃあ、ロキは相当強力な装備を持っているってことですか」


 アサドと対立しているロキが折れた系装備の再生を成功させているのであれば、素材集めに奔走している可能性が高い。

 今後の攻略がロキの攻略組を中心に回る可能性に不安を抱きながら、アルストは自身の折れた系素材に目を向けた。


「……しばらくは、バベルだけじゃなくてクエスト屋にも顔を出して検証してみます」

「無理はしないようにね。本当にどうしようもなくなったら声を掛けてよ」

「ありがとうございます。でも、アリーナさんの邪魔をしたくはないので、無理そうなら諦めますよ」


 そのように話を進めながら、今日はログアウトしようとなり解散となった。

 アリーナの武具店を出たアルストはなんとなくフレンドリストを開く。

 そこにはいまだログアウト状態のアレッサとエレナの名前が浮かんでいる。


「……二人とも、もうログインはしないのかな」


 そんな呟きを落としながら、アルストはログアウトした。

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