第105話:攻略を終えて
戻ってきた場所はバベルの五階層、その一室にあるフロアだった。
紫のフロアではモンスターパーティがあったフロアと同じ形状をしているので立地的には同じ場所なのだろうと判断された。
アルスト達は疲労もあったので攻略には進まずに自らの足でアーカイブまで戻ることにした。
五階層のボスをアリーナが倒してしまえば転移装置で一階層まで戻れるのだが、ここでレアボスモンスターが出てしまえばアルストの身が持たない。
その点にはアルストも同意を示しており、多少時間は掛かるが歩いて戻った方が安全だと判断された。
アーカイブに戻ってきた二人はクエスト屋に立ち寄りクエスト完了を報告すると、いつもの流れでアリーナの武具店へと移動する。
そこで今回のレアクエストに関する見解を話し合うことにした。
「アリーナさんも初めて見た依頼書だったんですよね?」
「最初にそう言ったじゃないのよ」
「ですよね。……アサドさんは見たことあるでしょうか?」
「アサド? どうかしら、最初の頃はクエストも受けていたみたいだけど、攻略組になってからは受けてないと思うからないんじゃないかしら」
現状、一番情報を持っていそうなのはアサドである。
そのアサドが知らないとなればアルスト達では紫の依頼書がどういった条件で出現したのか見当を付けることすらできない。
アルストがいたから、と言われればそれまでなのかもしれないが、それだけで済ませていいのかも分からないのだ。
「でも、アルスト君が言っていたみたいにあのタイミングで誰もいなかったのはおかしな話なのよね」
あのタイミング、というのは攻略組が三〇階層の攻略に失敗した時のことだ。
クエストの受注は今だとDPを受けている時に暇潰しで行われるのが通例になっている。
それにも関わらず、アルスト達がクエスト屋を訪れた時には誰一人として中にいなかったのだ。
「みんながみんな、DPの時間が経過するまでログアウトしていたってことなんですかね」
「その可能性だってありはするけど、あの場で移動していったプレイヤーもいたのよ?」
アリーナの指摘についてはアルストも見ている。
ポルカやジョエルがその場でログアウトをしており、アサドが場所を移動してログアウトしているが、それ以外のプレイヤーはただその場を後にしただけだ。
もちろんアサドのように場所を移動してからログアウトしたプレイヤーもいたかもしれないが、それでも全員がと考えるのは難しい気がしていた。
「……もしかして、私達だけ別のサーバーにいたとか?」
「いやいや、それの方が現実味に欠けますって。それだと運営の問題――バグってことになっちゃいますよ?」
「……そうだよねー。さすがにそれはないか。そんなことがあったら他のプレイヤーから運営に報告がいってるだろうしね」
あまりに突拍子のない発言にアルストはすぐに否定してしまう。
だが――それはあながち間違いではなかった。
※※※※
――とある空間には猫型NPCであるID123が空中に浮かぶ数多にある画面の一つを見つめていた。
そこに映るのはバベルから戻ってきたばかりのアルストとアリーナ。
ID123は溜息混じりに視線を外して何もない天井を見上げる。
「……にゃにゃー。アルストに一角獣の銀角を渡したのが仇になったにゃ」
アルストが一角獣の銀角を手に入れたのは一番最初のレアボスモンスターである武神ゴルイドを倒した時である。
アルストのチュートリアルを担当したのもID123だったことで、最初から目を付けられていたということだ。
「ソロでプレイすると思ったから面白い特殊能力を与えたのに、これじゃあ意味がないのにゃ」
最初はID123が差し向けたアレッサとエレナとのパーティだったから許容範囲だったが、アリーナとのパーティは許容範囲外だった。
だからこそ様々なレアボスモンスターやレアクエストを与えて叩きのめそうと思っていたのだが、それは全て失敗に終わってしまった。
紫の依頼書はID123がサーバーを捻じ曲げてでも放った一手だったのだが、それをアルストに阻まれた格好になっている。
「DPからちょっとしたバグを送り込もうと思ったのににゃ」
ID123が考えていたのは操作速度の遅延バグだった。
今までの反応速度で回避できていたものができなくなることで回避が間に合わなくなり何度もDPに追い込まれるだろう。
すぐに送り込むことも可能である。しかし、それでは面白みがないとも思っている。
DPをきっかけにできればアリーナに疑われることもないと考えたのだが上手くいかなかった。
「……まあ、今後も色々と仕掛けてみるかにゃ」
軽くそう呟いたID123の周囲には誰もいない。アレッサもエレナも。
誰の意思で動いているのか分からないID123の行動は、ただただ実行に移されていくだけだった。
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