第90話:レアクエスト⑤
フーライソウのHPはソウフーガとロウライガが融合したことにより九割まで回復、結果としてHPバーが二本あったのと同じ展開になっていた。
パラディホース戦でもここから苦戦を強いられ、アリーナも手痛い攻撃を浴びている。
アルストはそうさせないためにも、渾身のスマッシュバードを放った。
名前が表示された直後からバリアは消失しており、スマッシュバードはフーライソウに命中。
だが、威力がそこまで高くない一撃では一割も削ることはできずに舌打ちをしてしまう。
ようやく賢者の魔銃を構えたアリーナもフレアバレットで追撃を試みるが、両手に持つソウフーガの双剣がフレアバレットを斬り裂いて霧散する。
ぎろりと双眸がアリーナを睨みつけたかと思えば、ロウライガの槍がひとりでに宙を舞い、真っすぐに飛んで襲い掛かってきた。
「ふっ!」
「アルスト君!」
「俺が前に出ます、アリーナさんは援護を!」
「何か考えがあるの?」
「まだ一つ、試していないスキルがあります。それを使えばあるいは」
「……了解よ。パラディホースの時にもうまくいったもんね、お手並み拝見といきましょう!」
槍を打ち払い声を掛けたアルストは、すぐさま駆け出すとフーライソウとの距離を五メートルまで縮める。
だが、そこに襲い掛かってきたのは打ち払ったはずの槍。
背後から迫る槍に対して、今度はアリーナの弾丸が撃ち出される。
撃ち出されたブリザードバレットは槍を凍結させて地面に転がした。
後ろにはアリーナがいる、その安心感がアルストをさらに加速させ、一瞬の煌めきが発動する三メートルに侵入。
直後には双剣が、ソウフーガ以上の剣速で嵐のように振るわれる。
一瞬の煌めきを警戒しての行動だろうが、アルストは双剣の間合いに入ることなく、
「エクステンドブレイド!」
パワーボム、スターブレイドやスターレインが近距離攻撃。スマッシュバードが遠距離攻撃なら、エクステンドブレイドは中距離攻撃といったところだろうか。
双剣の間合いよりも遠く、さらに三メートル以内から攻撃できるとなれば、一瞬の煌めきを持つアルストにとってこれ以上相性のよいスキルはないだろう。
刀身から白い光が伸びて刃に変わると、袈裟斬りを放ちフーライソウを斬りつける。
八割まで減少したHPを見て、エクステンドブレイドの攻撃力はスマッシュバードを大きく上回っていると判断、このまま一気に攻めようと決めたアルストだったが、フーライソウは謎の言葉を口走り始めた。
『ナムアミアムカミナラブツカミ――』
その間も双剣は振るわれ続け、凍結した槍は小刻みに震えて氷を砕こうとしている。
アリーナも攻撃に加わりフーライソウのHPは六割まで減っていた。
『——オンキリソワカ!』
だが、ここで謎の呪文が唱え終わると、アルストの体から一気に力が抜けてしまう。
視界の中の光が弾けるように明滅し、慌てて後方へ移動する。
「ぐっ! ア、アリーナさんは!」
振り返ったアルストが見たものは、同じように膝をついているアリーナの姿。
「さっきの、状態低下以上の、威力だわ!」
槍による一撃が与えていた状態全ステイタス低下を、フーライソウは謎の呪文によって発動してみせた。
回避不能の状態低下に、二人は片手を頭に当てて呼吸を整えようとしている。
だが、この状況を作り出したフーライソウが黙って見ているわけもなく、双剣を携えてゆっくりとアルストへと近づき始め、さらに凍結していた槍が氷を砕き宙に浮いている。
槍の切っ先はアリーナを向いており、同時に仕留めようという狙いを見せていた。
「これで、終われるかよ!」
「その意気よ、アルスト君!」
アルストとフーライソウの距離が残り四メートルになったところで、アルストは最後のアスリートを発動する。
一番攻撃力の高いパワーボムの予備動作をすでに完了させていたアルストは、大上段斬りを真正面から叩き込む。
双剣で受け止めたものの、爆発の余波が襲い掛かりHPが五割まで減少。
だが、その余波はアルスト自身をも傷つけてHPが六割を切ってしまう。
そして槍がアリーナめがけて放たれると、そこで時空を超える長靴の特殊効果——短距離転移を発動。
ストックは三回、一度使うと次のストックまで三時間を要してしまう。
槍はアリーナを貫いたかのように見えたが空を切り、勢い余って壁に突き刺さる。
短距離転移を行ったアリーナが何処に行ったのか、それはフーライソウの背後だった。
「メテオバレット!」
『——!!!!!!』
弱点である背中への強烈な一撃は、フーライソウのHPを三割まで減少させた。
全ステイタス低下によって威力が落ちているものの、その破壊力はアリーナが持つ弾の中でもトップクラスであり、弱点への攻撃となれば抜群である。
続けて撃とうとしたアリーナだったが、壁から抜けた槍が再び襲い掛かってきた。
「スマッシュバード!」
アルストが放ったスマッシュバードは槍を打ち落とすまではいかないものの、その軌道を変えることには成功、アリーナは自力で回避する。
フーライソウは近づいてきた後衛を仕留めるべく、ソウフーガの俊敏を活かしてアリーナを間合いに捉えると、双剣をいかんなく振るい始めた。
だが、フーライソウの行動を読んでいたアリーナは二回目の短距離転移を発動して再び背後を取ると、MPを消費した三度のメテオバレット。
しかし、フーライソウは即座に振り返り双剣を叩きつけることでダメージを軽減、残るHPは二割となる。
爆発の余波に身を焦がしながら、フーライソウはアリーナへと駆け出し、さらに背後からは槍が真っすぐに迫ってくる。
残る一回の短距離転移を発動すれば勝負は決するだろう――だが、アリーナはあえてそれをしなかった。
「ラストアタックは任せたわよー!」
「どおおおおりゃああああああああぁぁっ!」
アルストの声に弾かれたように振り返ったフーライソウ。
そのまま双剣で斬り刻もうと考えていたのだが、アルストが放ったのはエクステンドブレイドであり、双剣の間合いの外である。
HPが残り一割になったフーライソウは、せめてアルストだけでも倒そうと一歩踏み出したのだが――アリーナのように、アルストの姿は一瞬でその場からなくなってしまう。
一瞬の煌めきは、疑似的な転移と錯覚するに申し分ない速度を誇っていた。
溜めが必要にあるパワーボムではなく、近距離から即座に放てる剣術士極のスキル、スターブレイドがフーライソウを斬り捨てる。
『グリア……ァァ……ァ…………』
三つの斬撃がフーライソウのHPを全損させ、光の粒子に変わっていった。
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