第91話:五階層の秘宝
アルストのレベルは36に上がり、
必要経験値が多くなるので初期職に比べると上がりにくいため、レアクエストとはいえ一気に上がるということはなかった。
その分、職業補正は高く
MVP賞はアリーナだったが、ラストアタック賞はアルストが手にしている。
ドロップアイテムを確認したいところなのだが、まだレアクエストは達成されていない。
二人はレアクエストを達成させてから、ドロップアイテムを確認することにした。
「うーん、ボスフロアのどこかに秘宝が隠されていると思うんだけどなー」
「前回は、そんな感じでしたからね」
ボスフロアの隅から隅まで歩き回り秘宝を探しているのだが、全く見つからない。
アルストの時には秘境へと繋がる隠し通路があったのだが、そのようなものも見つからない。
「ここであってるはずなんだけどなー」
「他に見てないところってありましたか?」
「いや、ないと思うんだけどな……あれ?」
アリーナが首を傾げながら視線を固定する。
気になったアルストも視線の先に顔を向けると、そこには六階層に上がる階段へと繋がる大扉が広がっている。
特に変わりのない風景なのだが、アリーナは何故だか視線を止めていた。
「どうしたんですか?」
「……いや、クエストの場合は普段のバベルと違うって言ったけど、普通なら出口に繋がる大扉はないはずなのよね」
「まさか、実際にあっちにあるじゃないですか」
「そうなのよ、あるのよ」
「「……ま、まさか!」」
揃って声を上げるとそのまま駆け出し、大扉に二人で手を掛ける。
「一緒に開けるわよ? いいかしら?」
「だ、大丈夫です」
「一」
「二の」
「「三!」」
合図に合わせて一気に大扉を押し開けた二人は、その先に広がる見たことのない光景に目を奪われた。
一面に広がる大海原。バベルから見えるはずのない景色が、大扉の先に広がっている。
一階層の秘境が心安らぐ大自然だったことを考えると、大海原を一望できるこの場所も秘境と呼ばれるに足る場所であり、ここに秘宝があると思って間違いないだろう。
しばらくは大海原を眺めていた二人だったが、ただ眺めているだけではレアクエストを達成できないと思いだし周囲に視線を巡らせる。
すると、先の地面が崖に繋がっていることが分かり、崖の
一歩、アルストが足を踏み出して土の地面を踏みしめる。
振り返りアリーナに一度頷いて見せると、続いてアリーナも一歩を踏み出した。
「た、たぶんだけど、あれが五階層の秘宝、だよね?」
「絶対にそうだと思います。そうじゃなかったら、この空間の意味がありません」
「そうだね……そうだよね! うふふ、何が手に入るんだろうなー!」
「バージョンアップ用のアイテムか、それ以外なのか。確かに楽しみですね」
アリーナの興奮に当てられたのか、アルストも宝箱の中身に思いをはせている。
どのようなアイテムであっても、無駄なアイテムが手に入ることはないだろう。今後、必ず役に立つアイテムが手に入るはずだと思いながら足を進めていく。
そして、二人が宝箱の目の前まで移動すると、アリーナが口を開く。
「……アルスト君は、どっちの宝箱にするの?」
宝箱の形状は、近くて見てみると少し異なる部分があった。
大きさは同じなのだが、施されている意匠が異なっている。
右の宝箱には鎧の意匠。左の宝箱には宝石の意匠。
アルストとアリーナの二人なら、選ぶ宝箱はおのずと決まったようなものだ。
「俺は、鎧の宝箱を」
「だよね! 私は宝石の宝箱! うふふー、どんな素材が入ってるのかなー!」
本当に素材が入っているのかは分からないが、アリーナとしては完成された鎧よりも、宝石でも素材とみなせるアイテムの方が価値が高いようだ。
それぞれが宝箱に手を乗せると、ひとりでに開いて中から光が溢れ出す。
光はアルストとアリーナに降り注ぎ、頭の中に電子音が聞こえてきた。
『
普通の装備アイテムだったことに少しだけ拍子抜けしたアルストだったが、電子音はそれだけでは終わらなかった。
『イベントアイテム【
これが秘宝なのだろう、とアルストだけではなくアリーナも考えていた。
装備アイテムや素材アイテムはおまけで、イベントアイテムが本命。そして、神獣と名前がついているということは、【神獣の卵】と何かしら関係しているアイテムだと理解できる。
だが、アルストとしては風雷の鎧も嬉しい装備アイテムだった。
何故なら、これが魔導剣術士専用の鎧であるとともに、レア度が7もあったからだ。
「……あっ、景色が、変わりますね」
「レアクエスト達成で間違いないわ」
風景がぐにゃりと歪み、しばらくするといつもの廃遺跡へと戻ってきた。
目の前にあったはずの大扉は姿を消してただの壁になっている。
レアクエストの不思議を感じながら、アルストはアリーナと共にアーカイブへと戻って行った。
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