第89話:レアクエスト④
逃げきれない、そう判断したアルストはアスリーライドの特殊効果を発動する。
アスリートを発動したアルストは飛ぶ連撃が命中する直前に左へ大きく移動して回避。そして意表を突くために連続で発動すると、スレイフニルを大上段に構えて赤い光を纏わせた。
「パワーボム!」
横合いから、それも仕留めたと思っていた相手が突然現れたことで、ソウフーガは驚きとともに体を硬直させてしまう。
回避行動も間に合わず、アルストが持つスキルの中で上位の攻撃力を誇る一撃がソウフーガに命中すると同時に、大爆発を巻き起こしてHPを削り取る。
残り六割まで削れたのを確認すると、アルストは間髪入れずに追撃を仕掛けた。
弱点である背後からということでもなく、回避を重視して一瞬の煌めきを発動しながら、攻撃できるところで攻撃を加えていく。
この戦法を取ったのには、もうすぐ五割まで減るソウフーガのHPが関係していた。
「俺のHPが多く残っているうちに、攻撃パターンの変化を確認しておきたいからな!」
アリーナとは異なり、アルストはソウフーガと互角の戦いを見せているが、攻撃パターンが変わってからも同じように戦えるのかは分からない。
変に時間を掛けてしまいHPを削られることを恐れたアルストは、まずは五割まで削る作戦を取った。
『グルラアアアアァァッ!』
「これで、どうだ!」
双剣の刃を受けながら、アルストはスターレインを放つ。
HPを七割まで削られながらも、ソウフーガのHPを五割まで削り取る。
直後には一瞬の煌めきで大きく間合いを取り反撃に備える。
「アルストくーん! グッジョブよー!」
突然後方からアリーナの声が聞こえてきたので振り返ると、笑顔で手を振っている。
HPもほとんど削られていないところを見て、アリーナの実力を改めて実感してしまう。
だが、ここで気を抜くわけにはいかない。アルストはソウフーガとの、アリーナはロウライガとの戦闘がまだ終わっていないのだ。
ソウフーガはアルストを見つめていたのだが、突然その姿を消してしまう。
慌てて視線を巡らせると、ソウフーガの姿はロウライガの隣にあった。
対のボスモンスター。お互いに五割を切った状態ならば、二匹で何かを引き起こす可能性は十分に思い浮かんだはず。
「ロウライガって、まだ生きていたんですか?」
「そうよー。だって、絶対に何かありそうだったじゃないの!」
「……き、気づいてて待ってたんですか! ソウフーガのHPが五割になるまで!」
アリーナは気づいていた。アルストも気づいていた。
だが、アルストは確認を怠ってしまった。アリーナがロウライガを倒したのかを。
そもそも、レアクエストをクリアしてレアアイテムを手に入れるのが最大の目的なのだから、実力がはるかに上のアリーナが打ち漏らしているなどとは夢にも思っていなかった。まさか、意図して倒していないとも思うはずがない。
結果、ソウフーガとロウライガの二匹が同時に五割を切ることになってしまった。
「め、めちゃくちゃヤバい攻撃が来たりしたらどうするんですか!」
「その時はあれよ」
「あれと言いますと?」
「……ぶっ飛ばす!」
「何にも考えてなかったんですね!」
『『——オオオオオオオオォォッ!』』
アルストが悲鳴にも似た声を上げた直後、二匹のボスモンスターが同時に咆哮する。
その姿は見た目に何も変わっていないのだが――否、変わるという概念を通り越していた。
「……ゆ、融合している?」
「わーお、これは一匹の強いボスモンスターの登場ってことだわね」
「そんな悠長なことを言っている場合ですか! 今の内に攻撃するのもありですよね!」
「ちょっとアルスト君、焦り過ぎよー」
「スマッシュバード!」
ボスモンスターの変化を楽しみながら見ているアリーナを横目に、アルストは少しでもHPを削るためにスマッシュバードを放つ。
命中したかに見えたのだが、ボスモンスターの周囲には透明な薄い膜、バリアのようなものが顕現していた。
「まさか、融合が終わるまで何もできないってことですか!」
「こういう類のボスモンスターの場合は、ほとんど同じ感じよ」
「それも知ってたわけですね!」
「まあまあ、もう始まっちゃったことなんだし、諦めて様子を見ておきましょうよ」
「……それしかできないわけですしね! でも、バリアが解除されたらすぐにスマッシュバードを放ちますからね!」
「そこまで怒らなくてもいいのにー」
アリーナの言葉に返すことなく、アルストはスレイフニルを肩に担ぎスマッシュバードを放つ準備を完了させる。
一方のアリーナは腰に手を当てて成り行きを見守っていた。
そして――名前を二柱神フーライソウと変えたボスモンスターが姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます