第88話:レアクエスト③

 一方のアリーナは、射程の優位を利用して一気に仕留める予定を立てていた。

 名前に雷神と表示されている時点で麻痺への耐性は高いと判断、その中でロウライガの動きを止めながら仕留める方法を考える。


「まずはこれね――ブリザードバレット!」

『グルアッ!』


 槍を振り抜きアリーナのブリザードバレットを打ち砕く。

 ならばと次いで撃たれたのはウッドバレット。

 廃遺跡のフロアではあるが、地面を撃ち抜くと植物が地面の隙間から一気に生え始めてロウライガへ襲い掛かる。

 大きく飛び上がることで地面からの攻撃を回避したロウライガだったが、アリーナはそこへフレアバレットを撃つ。

 空中で上段斬りを放つロウライガだったが、着弾と同時に大爆発を巻き起こしたフレアバレットはそれだけで大きなダメージをもたらした。

 ロウライガのHPは八割まで減少し、火傷の付与を与える。


「せっかくの火傷なんだから、フレアバレット中心で攻めましょうかね!」


 巨大な一発ではなく、小さな火の玉を連続で撃ち出していく。

 だが、ロウライガは槍の中心を掴むと両手で器用に回転させて火の玉を防いでしまう。

 まるで曲芸だとアリーナは思ったものの、一発の威力が低い攻撃では通らないと判断、確実に強力な一撃を当てることへ攻撃手段を切り替えた。


「それなら、アルスト君に言ったことを実践するチャンスだわね」


 地形を利用して攻撃を確実に当てる。

 パラディホース戦ではアルストが周囲の状況を利用して倒しきることができた。MVP賞はアリーナが手に入れた物の、実際のMVPはアルストだったと本人は思っていた。

 ならば、ここでいいところを見せなくてどこで見せるのだと、アリーナは内心で気合を入れている。


「サウザンドバレット!」


 無数の弾を撃ち出すサウザンドバレットは、威力は低いものの面を制圧するのに適した弾である。

 アリーナはそんなサウザンドバレットをロウライガの頭上と足元に殺到させた。

 天井を落とし、地面を砕き、そして粉塵がロウライガの周囲に舞い上がる。

 間髪入れずに撃ち出されたのは、先ほど防がれたブリザードバレット。

 視界を悪くした中でロウライガを凍らせて動きを封じる――というわけではない。

 アリーナが狙ったのは、舞い上がった粉塵だった。

 ロウライガを包み込んでいる粉塵がブリザードバレットによって空中で氷、廃遺跡の中に一ヶ所だけ氷の世界が出来上がる。

 冷気が漂う氷の世界、その中心で氷漬けになったロウライガの姿を確認したアリーナは、MPを消費する一発を準備して銃口を向けた。


「ぶっ飛びなさい! 九の弾——メテオバレット!」


 撃ち出されたのは炎を纏った巨大な岩の塊。

 土属性に加えて火属性を混合させたアリーナとっておきの一発が、氷を砕き、溶かしながらロウライガへと迫り、直撃する。

 大爆発が巻き起こると氷の世界は消失し、熱波が周囲へと広がっていく。

 これで五割は削れるだろう、そんなことを考えてアリーナだったが、そこへ飛ぶ刺突が炎を貫いて襲い掛かってきた。


「ちいっ!」


 完全に回避することはできず、左腕を掠めたもののダメージはそれほど大きくはない。

 だが、ロウライガの一撃はダメージを優先した一撃ではなかった。


「……これは、状態低下かしら?」


 アリーナの予想は正しかったが、ロウライガの状態低下攻撃はどれか一つのステイタス、というわけではなかった。


「……うっそ、全ステイタス低下って、ありなの?」


 経験上、ステイタス低下の攻撃はほとんどが一つのステイタスであり、複数でも三つのステイタスまでしか体感したことがなかった。

 それが全ステイタスとなれば、アリーナが驚くのも無理はない。

 あってもさらに上層が解放されてからだと思っていたが、まさか五階層のレアクエストで体感するとは。


「うーん、いい経験になったわ」


 しかし、アリーナは慌てるどころか、ここであったなら上層でもあるだろう、くらいにしか考えていなかった。

 アリーナの思考は、自身のレベルとロウライガとの実力差、そしてアルストがソウフーガと戦えている、というところに飛んでいた。

 アルストがソウフーガと戦えているということは、レベル35の発展職で互角に戦えているということ。ならば、レベル93の複合職である自分が負けるはずがないと思っている。

 実際にアリーナの一発はロウライガのHPを大きく削り、残り四割まで減少させていた。


「……アルスト君、やるわね」


 アリーナの言葉は、アルストが追い込まれて飛ぶ連撃を受けた直後に発せられていた。

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