第87話:レアクエスト②

 二匹のボスモンスターが二人を睨み付け、ゆっくりと武器を構える。

 今までのボスモンスターが咆哮を上げていたのに対して、意外な展開を見せた。

 そして、頭上に名前とHPバーが一本現れたことで戦闘準備が完了したのだと認識する。


「左が風神ソウフーガ、右が雷神ロウライガ」

「風神雷神って、対のボスモンスターみたいな感じかしらね」


 お互いが感想を口にしていると、二匹は一歩ずつ間合いを詰めてきた。


「とりあえず、正面にいるので俺がソウフーガ、アリーナさんがロウライガってことで」

「了解よ。状況を見ながら、変わる場合は声かけね」


 アルストがスレイフニルを、アリーナが賢者の魔銃を構え、左右へと駆け出していく。

 二匹も正面にいた相手を照準しており、思惑通り一対一の状況を作り出した。


「双剣か。手数では勝てないかもしれないな。それなら、まずは牽制から!」


 剣術士極ソードマスターになって初めてのスマッシュバードは、剣術士ソードメイトだった時と比べて倍以上の大きさと威力を伴った一撃だった。

 放ったアルストは驚いていたのだが、ソウフーガはそんな一撃を双剣で受け、さらには斬り裂いてしまう。


「飛ぶ斬撃を斬るって、できるものなのか?」


 実際に目の前で起こったことに驚きながらも、遠距離攻撃は防がれてしまうと早々に判断、手数では勝てないと思いながらも接近戦を仕掛けることにした。

 ただ、スマッシュバードは剣術士のスキルであり、剣術士極のスキルではない。

 アルストは駆け出して間合いを詰めると、横薙ぎを放つようにスレイフニルを構える。すると、全身に黄色の光を纏い始めた。


「スターブレイド!」


 刀身の上下に黄色の斬撃が顕現、一振りで三連撃となるスターブレイド。

 手数で勝てないなら、一振りで複数回の攻撃を加えればいい。

 しかし、ソウフーガはスターブレイドすらも受けてしまおうと双剣を振り抜く──が、アルストの考えはこれで終わりではなかった。

 突然の急加速、一瞬の煌めきが発動すると、ソウフーガの双剣を潜り抜けてスターブレイドが直撃する。


『グガウアッ!』

「よし!」


 奇襲を成功させたアルストは、振り返りHPの減り具合を確認すると、そこには意外な結果が表示されていた。


「……い、一割も削れたのか?」


 レアクエストで遭遇した後光神アシュラとの一戦では、一割を削るだけでも相当な労力を使っていた。


「これも、発展職の能力ってことなのか?」


 発展職の能力補正は、初期職の補正が引き継がれた状態でさらなる補正が上乗せされる。

 初期職で合計120の能力補正が行われており、発展職に転職しただけでもさらなる上乗せがあるのだから、能力は初期職と比べて桁違いに高くなる。


「これを経験すると、魔導師マジシャンに戻るのが嫌になってくるかも」


 いまだ初期職の魔導師と比べてしまうと、そう考えてしまうのも仕方ない。

 だが、思考はそこで一度停止、ソウフーガが振り返り双剣を構えて仕掛けてきた。


「うおっ!」


 風神という名前に負けない速度で肉薄し、鋭い連撃がアルストへと襲い掛かる。

 風を斬り裂く剣速は、剣術士極になったアルストの体を掠めて少しずつHPを削り取っていく。

 それでも、これだけのダメージで収まっているのは剣術士極になっているからでもある。これが魔導師であれば、とっくにDPを喰らっていただろう。

 特に耐久力の部分では大きな補正が掛かっている剣術士極だからこそ、ソウフーガとやりあえているのだ。

 それでも双剣の手数に押されているのは事実であり、このままではジリ貧になることは明白で、残りHPは八割まで減少していた。


「これで、どうだ! ——スターレイン!」


 左手を前に出し、スレイフニルを握る右手を引く。刀身が黄色の光を纏うと、繰り出されたのは刺突の高速六連撃。

 双剣の嵐、その間断を縫って放たれたスターレインは、四連撃が防がれたものの、二連撃はソウフーガの左肩と右脚に命中した。

 ダメージは少ないものの、攻撃が当たるという事実にアルストは自信を覗かせる。


『グルラアアアアァァッ!』

「それでも、速いな!」


 しかし、ソウフーガの動きを抑制するには至らず、さらなる連撃が、斬撃の嵐がアルストに襲い掛かる。

 たまらず一瞬の煌めきを利用して後方へ、ソウフーガの射程外に移動し態勢を整える――が、それを許すソウフーガではなかった。

 双剣を肩に担ぎ体を逸らせると、最初に右腕の剣を振り下ろす。

 スマッシュバードと同じ飛ぶ斬撃がアルストへと襲い掛かる。

 距離を取っていたこともあり大きく横へ移動することで回避したアルストだったが、その表情は驚愕に彩られる。

 振り下ろされた右腕を再び肩に担ぎながら、今度は左腕を振り下ろして飛ぶ斬撃を放つと、続けざまに右腕が振り下ろされる。

 飛ぶ斬撃の連撃、最初は回避できていたアルストだったが、徐々に追い詰められていく。


「剣速が、加速している!」

『グルラアアアアァァッ!』


 左右の飛ぶ斬撃の間が徐々に詰まっていくと、回避するアルストの動きは制限を余儀なくされ、気づけば壁を背にしている。

 そして――迫る飛ぶ連撃に押しつぶされてしまった。

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