第83話:黒龍と白龍
アーカイブへの道中で、アリーナが手に入れた素材アイテムについても聞いていた。
一つ目が【パラディホースの黄金片】、二つ目が【超合金バリジオン】。どちらも前衛職の装備を作るのに適した素材なので、アリーナの腕の見せ所になる。
何を作ろうか、どんな素材と組み合わせようか、そんなことを口ずさみながら歩いていると、気がつけば一階層へと到着し、何事もなくアーカイブへと帰還した。
アルストはまたアサドが待ち伏せているのではないかと思っていたのだが、さすがに一日に四回も待ち伏せるようなことはなく、アリーナの武具店に入ることができた。
「なんで今回はいないのよ。いたら攻略前に一本くらいは売りつけられたのに」
「……何気に酷いことを言いますね」
「そうかしら? 装備が充実するんだから別にいいんじゃないかしら」
「そうですけど……でも、アサドさんの装備も高レアリティですよね? 攻略組のリーダーですし」
確かにレア度7は珍しいものだが、同等の装備をアサドが持っていない前提で話を進めるのもどうかとアルストは思ってしまう。
対してアリーナは淡々と口を開く。
「アサドの装備はレア度5と6の槍だから、喉から手が出るほど欲しいでしょうね」
「知ってるんですか?」
「私が打った武器を使ってるからねー」
「……な、なるほど」
納得するしかない理由に、アルストは苦笑する。
だが、そういうことなら確かに一本だけでも買えたら相当な戦力アップになるだろう。
なんともタイミングが悪いことである。
「まあ、いない奴のことを考える必要はないでしょ。それよりも、素材よ素材ー!」
「槍の使い道は以上ですか!」
「アサドに売る以外に使い道がないからね。そうそう、黒龍の方は私が預かろうか?」
「……お願いします」
「うふふ、アルスト君も分かってるじゃないのー」
どうするかは正直決まっていた。だからこそアルストも素直に頷いたのだ。
そして、話題はアリーナが手に入れた素材アイテムへと移っていく。
「【パラディホースの黄金片】は魔導銃の弾に使えそうだわねー。【超合金バリジオン】はどうしようかしらー!」
「あっ! そういえば、
「そうかしら? ただ魔法を撃ち出すだけの職業だけど?」
「……それを本人が言いますか? じゃなくて! あれだけ多彩な攻撃を連続で撃てるんですから、複合職でも人気の高い職業じゃないですか?」
今現在が魔導師であるアルストだから感じることなのかもしれない。
フレイムとサンダーボルトしか攻撃手段のない魔導師では、どうしても選択肢が狭まってしまう。これは初期職であれば仕方ないことなのだが、前衛職であれば個人の力量でやりようは出てくるものの、後衛職だとどうしてもサポートに回ることが多い。
魔導銃士は後衛職同士の複合職ながら、攻撃面でも様々な選択肢がある優秀な職業だとアルストは考えていた。
「天ラスが発売されて三ヶ月以上が経つけど、魔導銃士はそこまで見ないかな。攻略組でも私だけだったしね。まあ、固有能力が被るプレイヤーがそこまでいるはずもないし、人気とかはないんじゃないかしら」
「そっか、固有能力ってのがありましたよね……」
「ま、まあ、アルスト君はどの職業を選んでも補正が利くからいいんじゃないかしらー」
「……いいんです、慰めなくても。10%なんて、あってないようなものですから」
自分から話を振っておいて落ち込んでしまったことに、さらなる落ち込みを感じながら、アルストは気を取り直して話を進めていく。
「……えっと、それじゃあ複合職の人は、それぞれ固有能力に合わせて職業を決めている人が多いってことですか」
「それが普通の考え方よ。アルスト君みたいに
「そうですかね?」
「だいたいがダブルミリオンが出したゲームをやってみよう、っていう思いから初めて、固有能力が決まったらそれに合わせて職業を選ぶ。そうしているうちに発展職になって、たまたま複合職が出てきた、ってのが多いと思うわよ」
実際にアリーナの考え方が多数派で、アルストの考え方は少数派である。
そもそもランダムで決まる固有能力なのだから、狙った職業の固有能力を手にいれられる保証はない。
お金持ちなら本体を複数購入して狙った固有能力が出るまでやり続けることも可能だろうが、そんなことができる人は極々少数である。
手に入れた固有能力に合わせて天上のラストルームを楽しむ。それが普通の考え方なのだ。
「魔導銃士は素材アイテムを使って専用の弾を作れれば、それを所持しているだけでその効果を撃ち出すことができる。私が持っている弾は一二種類だから、まだ見せてないやつもあるんだよー」
魔導銃士の特徴は他にもあり、MPを消費して弾を撃ち出すことができるのだが、MP切れが起きにくいようにMPの自動回復がパッシブスキルとして習得できる。極少量の回復なのだが、それでも魔導銃士としては貴重なスキルでもあった。
「それに加えて、私は賢者の魔銃で威力の底上げもしてるからソロでもまあまあやれてるかなー」
「ちなみに、ソロではどこまで行けるんですか?」
「魔導銃士になってからは二〇階層かしら。まだまだいけそうだけど、今は武具を作る方が楽しいのよねー」
「……に、二〇階層」
初期職なのだから当然なのだが、自分はまだまだだと実感したアルストだった。
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