第82話:久しぶりのレアアイテム

 今回のアルストは討伐報酬のみだが、それでも特殊能力が発動することもあるので期待値は高い。それもアリーナを苦しめたパラディホース討伐の報酬なのだから当然だ。

 アイテムボックスを開いてNewの文字を確認すると、アルストは驚きのあまり汗が滴り落ちた。


「……えっ、これ、マジですか?」

「なになに、どうしたのよ!」

「……レ、レア度8、です」

「うっそ! それって素材アイテム? 素材アイテムなの?」


 アリーナからすると素材アイテムなら自分が鍛冶をできると踏んで期待に胸を躍らせている。

 だが、アルストの口から出た答えは素材アイテムではなかった。


「……双槍術師ツインスピア専用武器ですね」

「……えぇーっ、それってアサドの職業じゃないのよー」

「【黒龍の剛槍】って、名前は相当派手な槍ですね」

「そうだねー」

「……ちょっとくらい興味を持ってくれてもいいんじゃないですか?」

「素材アイテムじゃないし、双槍術師だしなー」

「それなら、アリーナさんのドロップアイテムはどうだったんですか?」


 アルストの高レアリティな装備アイテムには見向きもせずに、アリーナは笑顔を浮かべながらアイテムボックスを確認する。


「……おぉ……なるほど……アルスト君」

「は、はい」


 アレッサとエレナとパーティを組んでレアボスモンスターを討伐した時には、アルストのような高レアリティのアイテムがドロップすることはなかった。

 今回のアリーナはどうなのか、アルストはゴクリと唾を飲み込みその答えを待つ。


「……ありがとう!」

「ぶわっ!」


 突然抱き着いてきたアリーナに、アルストは顔を真っ赤にして驚きの声を上げる。

 慌てて引きはがそうとするもののなかなか離れてくれず、アルストは途方に暮れてしまった。


「レア度7の素材アイテムが二つよ! うっひょー! これで好きなものが作れるわー!」

「もう一つはなんだったんですか?」

「もう一つ? あー、うん、どうでもいい装備アイテムだったわよ」

「……き、気になるんですが」


 高レアリティなアイテムだと思ったアルストは気になってしまう。

 何故か言い難そうにしているアリーナだったが、アルストが視線を外そうとしないので仕方なく答えることにした。


「……私も、双槍術師専用武器だったのよ」

「……そ、そんなこともあるんですね」

「それも、おそらく黒龍の剛槍と対になる装備っぽいわね」

「というと?」

「名前が【白龍の神槍】だからよ」

「……黒龍と白龍ですか」


 まるで双槍術師のためにドロップさせたかのような装備である。

 現状、アルストやアリーナの周りで黒龍の剛槍と白龍の神槍を装備できるのはアサドのみ。

 使ってもらうのが武器にとっても嬉しいことなのだろうが、さすがにレア度8の装備アイテムを無償で差し出すのは勇気のいる行為である。

 特にアルストの固有能力は【全職業の能力10%補正】なので、双槍術士を目指そうと思えば目指せるのだ……だいぶ先は長いのだが。

 ゴールドに困っているわけではないが、それでもいくらかのGはいただきたいと思ってしまう。


「……アルスト君」

「……はい」

「おそらく、私達は今、同じことを考えていると思わない?」

「思います」

「せーので言ってみましょつか」

「はい」

「「……せーの」」

「アサドさんに売りましょう」

「アサドに売ろう!」


 二人して同じ考えを口にした途端、笑い声があるじ不在のボスフロアに響き渡った。


「まあ、それくらいしか使い道がないもんねー」

「でも、三〇階層の攻略は明日ですよね?」

「さすがに明日の攻略には間に合わないでしょうね……Gが」

「……そうですか」


 レア度8ともなればGが万以上必要になることもざらで、それが二本となればいくら攻略組のリーダーをしているアサドでもすぐに準備することは難しいだろう。


「確かに高レアリティで能力も破格だろうけど、複合職自体が少ないし、双槍術師を本職にしている人も少ないからね。そうそうに売れないだろうから、私が預かっておいてもいいわよ」

「ただの槍術士スピアメイトだったら俺でもすぐに使おうと思えば使えましたけど、さすがに双槍術師を目指して使うかって聞かれると……使わないですね」

「それが普通よ。それじゃあ、いったんアーカイブに戻ってそこで話し合いましょうか」

「そうですね」


 腕を回して一度伸びをするアリーナ。一方のアルストは軽く屈伸をしている。

 ここが五階層だったなら転移門を使って一気にアーカイブに戻れたのだが、残念ながらここは四階層。

 五階層へ上がり一気にボスモンスターを倒すこともできるが、それはゲームを楽しむうえでアルストが望むことではないと地道に足で戻ることにした。


「それにしても、レアボスモンスターかぁ」

「どうしました?」

「いや、久しぶりに苦戦したなって思ってさ。特に魔導銃士マジックガンナーになってからは初めての苦戦だったかもしれないって思ったんだよね」


 アリーナの言葉を受けて、パラディホースがそれだけの相手だったということを理解し、アルストは今さらながら本当に勝てたのだと実感を得ていた。


「アルスト君が良ければ、また誘ってね」

「基本ソロですけど、もし良ければお願いします」


 次は一人で四階層を攻略しようと心の中で決めていたアルストだった。

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