第81話:アリーナとレアボスモンスター⑦
『おめでとうございます。アルスト様のレベルが35に上がりました』
『おめでとうございます。
『レアボスモンスター:機械騎士パラディホース討伐により、ドロップアイテムを獲得しました。アイテムボックスをご確認下さい』
パラディホース討伐が確認された直後から、森の中に姿を変えていたボスフロアは元の廃遺跡に戻っていた。
アリーナがいなければ確実にDPを喰らっていたであろう相手を倒したことで、アルストはしばらく呆けてしまう。
そこに飄々と声を掛けてきたのはアリーナだ。
「アルスト君、お疲れ様ー」
「……お、お疲れ様、です」
「いやー! 久しぶりに歯ごたえのある相手だったから疲れたわー」
「その割には、いつもと変わらないんですね」
「そう? これでも焦ってたんだけどなー」
「……そうですか」
アリーナを見ていると、自分が何故ここまで疲れているのか不思議に感じてしまう。
MVP賞を手にしたということは、一番活躍したことを意味している。そのアリーナが自分より元気だということに、アルストは男としての自信を失いかけていた。
「……それよりも、アリーナさんのあの動きってなんだったんですか?」
「あの動きって?」
「いや、急に消えて、瞬間移動みたいなことしてましたよね?」
「あー、あれか。あれは装備の特殊効果かな」
そう教えてくれたアリーナは、自分の足を指差している。
「この脚当は【時空を超える長靴】といって、ある一定距離なら瞬間移動することができるのよ」
「……なんかすごい特殊効果ですけど、名前はまんまですね」
「そうよねー。レア度9なんだから、もっと格好いい名前を付けてくれてもよかったのに」
「へぇー、レア度9ですか…………き、9ですか!」
レア度の最高が10なので、アリーナが装備している時空を超える長靴は滅多にお目に掛かれない高レアリティ装備だった。
「そんな装備を持っているなんて、さすがは元攻略組ですね」
「まあ、二八階層のボスモンスターを倒した時にたまたまドロップしただけだからね。まあ、全職業で装備できてこの特殊効果だから、だいぶ重宝はしてるかな」
「
「そうなのよ。私もドロップした時は驚いたわ。これがあったから、攻略組を抜ける時も逃げられたんだけどねー」
アリーナが攻略組を抜けると告げた時、多くのプレイヤーが反対の声を上げた。アサドもその一人だった。
アサドは必至に説得を試みたのだが、一部のプレイヤーが抜けるなら貴重な装備を提供しろと暴論を唱え、アリーナは時空を超える長靴の瞬間移動を駆使してその場から逃げ切った。
その日から攻略組には戻っていない。
噂ではアサドをリーダーとしたグループと、暴論を唱えたプレイヤーをリーダーとしたグループに分かれたと聞いたこともあったが、アリーナはどちらにも顔を出すことはなかった。
「——まあ、いまだにアサドだけは私に声を掛けてくれるけど、戻るつもりはこれっぽっちもないのよねー」
「……それって、アサドさんはアリーナさんのことを心配しているんじゃないですか?」
「心配? アサドが? ないない、それはないわよ」
「もしかして、俺がアリーナさんと関わるようになってからじゃないですか? 頻繁に訪ねてきたのって」
「うーん、どうだったかなぁ。今までもちょこちょこ顔は出してたけど……でも、言われてみると確かに誰かしらが私に絡んできた時に顔を出してたかも」
アルストの予想は半分正しく、アサドはアリーナへ近づくプレイヤーが現れた時にだけ、頻繁に顔を出すようにしていた。
ただ、心配していたわけではなく、ちょっとした下心があっての行動なのだが。
「アリーナさんとアサドさんって、リアルでの知り合いですか?」
「あら、よく分かったわね」
「アリーナさんの態度を見てたらなんとなく。あれだけ気安く話ができるなんて、リアルで知り合いじゃないと難しいかなと思ったんですよ」
最後の記憶が『DPいっとくか?』だったのであまりよい記憶とは言えないが、それだけの言葉を投げつけても許される関係性だということだ。
「まあ、だからこそアサドは私のことをしつこく勧誘してくるんだけどね」
「あはは。……でも、悪い人ではないですよね?」
「そうねー、悪い人とはかけ離れたやつだわねー」
気持ちのこもっていない返事にアルストは苦笑する。
「そんなことよりもさ! 早くアイテムボックスを確認しましょうよ! うふふー、MVP賞とラストアタック賞もあるから楽しみだわー!」
「そ、そんなことって……」
アサドの扱いが雑すぎてかわいそうになりながらも、アルストもドロップアイテムが気になっていたので確認を優先することにした。
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