第80話:アリーナとレアボスモンスター⑥
驚愕に目を見開いたパラディホースは、先ほどまでアリーナが立っていたはずの場所を通過しながら方向転換。
横目で再度確認をしたが、その場にアリーナの姿はない。
だが、一メートルほど横に立っている姿を見つけて困惑する。
確かに捉えたはずだった。残り数メートルの距離を見間違えるはずがない。
パラディホースの頭の中は、困惑に支配されていた。
「アクアバレット!」
そこに撃たれたのは、飽きもせずダメージがほとんどないアクアバレット。
人間に蚊が集るように、鬱陶しさを感じてしまう。
体も冷え、動くにも問題がなくなったパラディホースは、再びアリーナめがけて突っ込んでいく。
先ほどと同じ光景が広がり、アリーナはまたしてもパラディホースの目の前で消えてしまう。
何故だと思っている背中にまたしてもアクアバレットが命中。
苛立ちを募らせるパラディホースは、突進ではなくアリーナを中心にして回り始めた。
背後を取らせないために、アリーナもその場で回りながらパラディホースを正面におき続け、その間もアクアバレットを撃ち続けている。
何が起きているのか分からない。そのことがパラディホースの怒りを買った。
どんな小細工をも踏み潰さんと、パラディホースは四肢を踏み鳴らす。
※※※※
火の森と化したボスフロア。いまだに広がりを見せる火の手は温度を上昇させ、ゲームだというのにアルストは大粒の汗を垂れ流していた。
状態異常の一種である火傷によって、HPは僅かながら徐々に削られていく。
再び回復薬を使って七割まで回復させると、アルストはパラディホースの一挙手一投足に目を向ける。
熱せられては冷やされ、また熱せられては冷やされ、を繰り返している。
そのことが、アルストの狙いの一つだった。
「そろそろ、俺も仕掛けるか」
仕掛けるならば一度でけりを付けるしかない。そうでなければ同じ手は使えず反撃にあい、今度こそDPを喰らってしまうだろう。
立ち位置的に、今のアルストはパラディホースの後ろに陣取っている。
アリーナとアイコンタクトを取り、仕掛けた。
「フレイム!」
三発のフレイムが、パラディホースの背中に命中した。
※※※※
突然の衝撃に、今にも駆け出そうとしていたパラディホースは前のめりになる。
だが、アルストの攻撃は威力が低く、ダメージは少ない。
いまだ七割のHPを残しているパラディホースは、ゆっくりと振り返りアルストを照準する。
「よそ見しないでよね! フレアバレット!」
そこへMPを消費させてのフレアバレットがパラディホースへ襲い掛かる。
ダメージも気になるフレアバレットに対しては回避行動を取り、そこへ再びアルストのフレイムが着弾。
パラディホースの警戒度はアルストよりもアリーナの方が高い。
体内の熱が再び上昇、動き回ることでその速度はさらに加速していく。
徐々に動きが落ち始めた時に、アリーナがアクアバレットを撃つ。
ダメージの少ないアクアバレットならば、熱を下げることができると回避することもなく体に当てるパラディホース。
「ブリザードバレット!」
『ギギッ!』
ここにきて、アリーナはアクアバレットではなくブリザードバレットと撃つ。
ダメージはアクアバレット以上だが、フレアバレット未満であることはこの身で体感しているパラディホースは、ダメージと冷却を天秤にかけて、冷却を選択した。
アクアバレット同様にその身に受けて一気に冷却することで、動きを加速させる。
飛ぶ刺突をアルストに放ちながら、その身はアリーナへ突進するタイミングを見計らっている。
周囲の炎で火属性が溜まっていき、動けなくなればアクアバレットを受けて熱を下げる。
火の玉を放つこともあるが、アルストは直後に回避専念で姿をくらまし、アリーナはサウザンドバレットで相殺してしまう。
その繰り返しが、パラディホースを内部から破壊する行動とは知らずに。
――バキッ!
『——ギュオラッ!』
過度に熱を帯びて、そして冷却される。その繰り返しが、パラディホースの内部に存在する精密機械を、この短い期間で疲労劣化へ追い込んだ。
右前脚が動かなくなり、その場に立ち竦む。
溜め込んだ熱が内部で荒れ狂い、動かなくなった右前脚にひびを作り出すと隙間から高温の煙が噴出される。
そこへ浴びせられたのがアクアバレット。
ここに来て何故アクアバレットなのか。ダメージ重視のハンマーバレットやフレアバレットで良いのではないか。
パラディホースは右前脚を疲労劣化させたものの、そのHPはいまだに六割を残している。油断するとあっという間にDPを喰らってしまうだろう。
だからこそ、アルストの考えた作戦を実行に移す必要がある。
「動けなくなったなら好都合。まさか、本命を当てる前に壊れるとは思わなかったけどね」
「一気に畳みかけましょう!」
熱を出し切ったパラディホースの体は、水を蒸気に変えることなくその身を濡らしており、足元にも水たまりが出来上がっている。
そこに放たれるは、当初とは意図が異なる同じ魔法と銃弾。
「サンダーボルト!」
「サンダーバレット!」
頭上からサンダーボルトが、正面からサンダーバレットが、パラディホースの身に殺到する。
水に濡れた体は雷属性の攻撃を増幅し、HPを大きく削り取っていく。
さらにひびが入った右前脚から蓄積されるはずの雷属性が漏れ出し、それが再び自らの体を蝕んでしまう。
極めつけは、疲労劣化していたのは右前脚だけではなかった。他の部品にも疲労が蓄積しており、サンダーボルトとサンバーバレットによって粉砕、自壊が始まってしまう。
『ギ、ギギ、ギュオオオオオオオオォォォォッ!』
それでも、ただでは倒されてくれないパラディホースは、漏れ出る中でも蓄積されていた雷属性と、残っていた火属性を一気に放出することで自爆の一撃を放とうと咆哮する。
「——させるわけないでしょ?」
先ほどまで正面に立っていたはずのアリーナが、気がつけばパラディホースの頭上に姿を現した。
「潰れなさい――ハンマーバレット!」
MPを極大に消費した超重量のハンマーバレットが、重力に従うように真下へと撃ち出され加速していく。
この時には四肢全てが動かせなくなっていたパラディホースは、抵抗することなく押しつぶされ、放出しようとしていた雷と火属性が暴発して大爆発を巻き起こす。
パラディホースがいただろう場所には大きなクレーターが刻まれ、頭の中には電子音が流れてきた。
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