第77話:アリーナとレアボスモンスター③
一撃で、それも余波だけで何故こうもダメージを負ってしまったのか。
それはアルストが
魔導師には耐久力への職業補正がなく、前衛職に比べるとどうしてもダメージが大きくなってしまう。
さらに、レア度3で揃えた装備とはいえ、パラディホースが相手では力不足。たったの一撃で簡単にHPを削り取り、アルストを一瞬にして瀕死状態に追い込んでしまった。
「──が、はあっ!」
「アルスト君、動けそうかしら!」
「……む、無茶を、言いますね!」
歯を食い縛りながら、少しでも生き残る可能性を高めるために回復薬を使用する。
HPは五割まで回復したものの、同じ攻撃をもう一度受けてしまえば、即DPを喰らってしまうだろう。
「サポートに専念してちょうだい! こいつの相手は私がするから!」
「わ、分かりました!」
『ギュオオオオオオオオォォォォッ!』
右手で賢者の魔銃を構えたアリーナは、照準をパラディホースに合わせて口を開く。
「もう麻痺とか、言ってられないわね!」
銃身が紅く輝いたかと思えば、巨大な炎の塊が撃ち出された。
「六の弾――フレアバレット!」
『ギュオオオオオオオオォォォォッ!』
左手の盾を正面に、パラディホースがアリーナへ突進。
フレアバレットと盾が激突し、爆発が巻き起こる。
黒煙が爆心地から溢れ出す中、パラディホースは突進の勢いを落とすことなく、その姿を煙の中から露わにした。
「こなくそっ!」
レベル93の敏捷を活かして全力で横に飛び退いたアリーナは、床を転がりながら紙一重で回避したものの、起き上がり振り向いた先で見た光景は、右手に投擲したランスを持つパラディホースの姿だった。
「……まったく、面倒臭いにもほどがあるわね」
『ギュルアアアアァァッ!』
ランスがパラディホースの手に戻ったことで、再び飛ぶ刺突が繰り出された。
ブレイクバレットで相殺しつつ、ランスを投擲していないかも警戒しながら、アリーナは反撃を開始する。
今まで撃ってきた弾の中で一番効果が高かったウッドバレットを撃ち、パラディホースの動きを制限すると、即座にフレアバレットを撃つ。
力任せに盾を正面に移動させられたことで直撃はならなかったが、それでも一本目のHPが残り二割にまで減少する。
「あー、コツコツ減らすとか、私は苦手なんだけどなぁ」
アリーナは
初期職である魔導師と鍛冶師の時は大ダメージを与えることができる攻撃手段を持っていなかったこともあり、地道にレベルを上げていったのだが、発展職になった途端に高火力重視の戦法へとシフトチェンジしていた。
「HPが二本目に入った時が、勝負所よねぇ」
ボスモンスターに共通している行動パターンの変化。
HPが半分を切ると、行動パターンが変わり、攻撃手段もガラリと変わる。さらにステイタスにも補正が掛かり、より強敵になるのだ。
パラディホースがどういった変化をするのか定かではないが、手ごわくなることは明白であり、確実にHPを削れると判断できなければアリーナのとっておきは使えない。
「もう少し、減らさなきゃいけないわね!」
『ギュオオオオオオオオォォォォッ』
遠距離では分が悪いと判断したパラディホースは、盾を構えて突進を開始する。
今回の突進は右手にランスを持っている分、ただ飛び退くだけではランスの射程から逃れることは難しい。
ならばとアリーナは地面にブリザードバレットを撃ち出した。
一瞬にして氷上に変わるボスフロアにて、全力で駆け出していたパラディホースは足を滑らせて転倒——と思いきや、ランスを氷に突き刺して何とか持ちこたえている。
「似たような戦法じゃ倒れないか。でも、それじゃあただの的なのよね!」
『ギュルアッ!』
フレアバレットではダメージが大きく削れなかったところを見て、アリーナは物理ダメージが期待できるハンマーバレットを撃つ。
こちらも盾で防がれはしたものの、氷上で足に踏ん張りを利かせることができず、上半身だけでは耐えきることができなかった。
盾もろとも後方へと吹き飛ばされたパラディホースは壁に激突し、一本目のHPバーが砕けて消えた。
「……さて、ここからが本番かしら?」
砕かれた氷の欠片が舞うボスフロアに佇む
その双眸がアリーナを見据えたと思った直後――人形をとっていた下半身が膨張して破裂、後ろにもう二本の脚が生えたかと思うと、その姿は異形のものへと変貌を遂げた。
「……なるほど、だからパラディホースってことか」
その姿はギリシャ神話に登場する半人半獣の種族、ケンタウロスを彷彿とさせる姿だった。
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